冬の夜空が綺麗だった。
オヤスミセカイ
冬の夜空が綺麗だった。
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#オヤスミセカイの物語
「ベテルギウス大佐ぁ!」
彼女は倒れている彼にたどり着いた。動く右手で彼を揺すった。彼の体は至る所が欠落していた。彼の周りが真っ赤に染まっていた。彼女の声が静かな広場に広がる。
「…っおり、おん…?」
「っ大佐!大佐!!」
「良かった、お前は無事か…!っ!」
「大佐!ダメです動いては!」
「いいか、オリオンよく聞け…っ」
片腕で体を起こし、噴水の枠にもたれかかる。自分の体にあったものがいくつか無いことに気付く、目の前にいるのが最愛の部下であり、彼女が生きていたことに安堵した。そしてこんな自分は助かる筈もなく、あぁこれで最後だと思ったのだ。最後に彼女に全てを託してしまうのは、あまりにも残酷ではないだろうか、俺はこのままで良いのだろうか、ベテルギウスは朦朧とする意識の中で、ただただ緑の瞳を見つめて、最後の力を振り絞った。
「オリオン、お前だけでも逃げろ…」
「大佐…?何をおっしゃ
「オリオン、これは、
「っ嫌です!」
「っこれは、命令だ!」
「嫌です!!大佐!!何があっても、あなたを置いては
「オリオン中尉!!!」
彼女は着ていた服を口で引き裂き、動く右手と口を使ってベテルギウスの止血を試みる。しかし傷は深く重傷であり止めどなく血は溢れ出す。白い肌はいつしか赤く色付いていた。
「どうしてですか…?大佐…っ」
「いいかオリオン、お前は生きるのだ。悔しいことに、俺はもうここで終いだ。自分のことだ、自分がよく分かっている。お前がいくら俺を生かそうとしようが、それはもう無理な話だ、オリオン。」
「なんの…冗談でしょうか…?」
「冗談…ね…ふはははは、オリオン、まさかお前の口からそんな言葉が出てくるなんてな…。冗談がてら聞いてくれ、オリオン。お前と見た空、綺麗だったな。」
「なぁオリオン、見てみろ、残酷なもんだ。こんな時だって夜空は輝く星々でいっぱいだ。なんて綺麗なんだろうな…。オリオン座、お前と同じ名前だな。そんでもって、オリオン座の近くに、一際目立つ星、あれな、ベテルギウスってんだ…俺と同じ名前なんだ…。」
「…大佐、大佐っ!」
「あの、星達のように、俺はいつだってお前のそばにいる。オリオン、俺は、お前を、愛してる…っ」
そう言い残し彼の体は動かなくなり、力がなくなったのかもたれていた体がズルズル地面に向かって倒れていく。オリオンはすかさず彼を支えた、彼はもう死んでいた。
「大佐、どうしてですか…、どうして笑っているのです…何も面白くなんてないじゃないですか…どうして、どうして!!私を愛しているなど!!おっしゃるのですか…!!どうしてそのような言葉を…そのような美しい言葉を…っ!私なんかに残して、しまったのですか…っ、大佐…、大佐ぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!!」
彼女の声が響いた。
「大佐、何もなかった私が、何も知らなかった私が、大佐と過ごして変わったのでしょうか…、こんなに、涙が溢れています、こんなに、胸が苦しいです、大佐が、冷たく感じてしまいます…大佐はとても、暖かいお方なのに…大佐、大佐!!私は、ベテルギウス大佐、私はあなたのことを…」
そう言い残し彼女も目を閉じ倒れてしまった。止んでいたはずの雪がまた降り出し、それは真っ赤な絨毯の上にしんしんと積もっていき、やがて2人の周りは、また真っ白に戻った。数時間後、戦いの終わりを告げるサイレンが鳴り響く。駆けつけた救護隊は広場で2人の姿を見つけて驚いた。2人の周りだけ真っ白な雪がつもり、少し滲んだ赤色が、偶然なのか星の形をし、2人を囲んでいたのだ。星の名前をもつ2人の戦士を。
時はすぎ一命を取り留めたオリオンは、戦場から足を洗い今は街外れの展望台で1人夜空を眺めていた。
「ベテルギウス大佐、覚えていますか?2人で見たあの夜空のことを。私は覚えています。今でも鮮明に。大佐が私にくださった言葉を、暖かさを、優しさを。今ならわかる気がするのです。ベテルギウス大佐…、私は今でも、あなたを愛しています。いつかまた、必ず、あなたに会えると信じています。あの星達のように、いつまでも、何光年たっても離れていても。この気持ちは、あなたがくれた、大切な宝物です。」
「では、ベテルギウス大佐、またいつの日か」
冬の夜空が綺麗だった。
2018.1.19
by.オヤスミセカイ
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