§幻想舞踏会§ 第三話~赤ノ国の転機~
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§幻想舞踏会§ 第三話~赤ノ国の転機~
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第三話~赤ノ国の転機~
国土の三分の一が工業地帯である赤の国。
火山の恩恵による地熱発電で、その国の工業ラインは24時間体制で稼働していた。
【工業の国】と称されるだけあり、
黄の国から鉱石を輸入し、黒の国から染料と細かな加工部品型を依頼輸入し、様々な機械製品を生産し、研究施設が多く精密機械を必要とする白の国へと輸出していたり等、他国との交流が盛んな国であった。
…ひとつの国を除いて。
~~~
「それはまことか?」
火山活動による地殻変動にも耐えるよう、重厚かつ強固な造りで建てられた城の最上階で赤の国王と宰相が会話をしていた。
「はい、白の国と黒の国が昨日より出現した物体の宣告を信じ六名の隊士を選出したところ、かの島に隊士が招かれていったとのことです。」
難しい顔をしながら、大柄な王は眉間にしわをよせる。
「…して、青の国は?」
報告書の書面をパラパラとめくりながら、宰相は報告を告げる。
「まだ公式の意見表明も出ておらず、選出隊士はおろか、参加するかも不明です。
…我が国はいかがいたしましょう、陛下。」
「無論だ。選出を行い、我が国も参加する。
【赤の鳥】が【青の鳥】に勝ることを頭の固い先方の王に知らしめてやらねばならん。」
赤の国と青の国は、最低限な表面上の外交は行いつつも、互いを敵視する面が王の間にはあった。
それぞれが別の鳥の加護を受けし二国は元々友好であった。
はじまりのキッカケは至極簡単である。
五つの国の王が集った会食での一言が原因だ。
他愛のない会話の一節だったと思う。
青の王がたった一言だけ、
「身体の小さい鳥の方がより高空を飛べる」
と言ったのがはじまりだった。
悪気のない、ほんのささいな言葉遊びだったが
赤の国はそれを「青の国は赤の国より上である」
と宣言されてしまったと思ったのである。
青の王自身が他意はないと、説明するも激高した赤の王を誰も鎮められず
赤の王は反論した。
「灰を被り黒くなった青鳥は火を司る鳥の下空こそふさわしい。」
その言葉に青の王も激怒。
こうして国民の私生活に影響が出ない程度の交流を残しながらも、二国は対立姿勢となっていったのである。
「…我が国の隊は【赤炎鳳凰隊】と命名する。隊士は王族直属の魔導隊より選抜する。」
「かしこまりました。隊の長はどなたに致しましょうか。」
「無論、我が娘しかおらんだろう。力だけ見れば他に適任はおらぬ。今はどこにおるのだ?ここへ呼んで参れ。」
王がそう指示を出すと、宰相はギクリと後ずさった。
恐る恐ると声をだす。
「…あの、陛下。…現在は「国情視察」と称し市街地の方にいるかと。」
「なに? …まさか………。」
~~~
赤の国の市街地は他国と同様、例の飛行物体による話題で持ちきりとなっていた。
新聞の号外、ラジオのニュース、全てが同じ内容となっていた。
市街地の大通り沿いに位置する喫茶店の中でくつろぐ人々の会話も同様だ。
「私たまたまあの【お告げ】を外で見てたけど、夢かと思っちゃった!」
「その時ちょうど室内の奥にいて、私は見れなかったのよ。
白と黒の国はもう既にあの島に招かれたらしいわ。
私達の国も参加するのかしら…」
「するんじゃない?王様は負けたくない国があるんだから…」
「フフフ、そうね」
クスクスと小さく笑いながら、コーヒーを傾ける2人の女性に近づく影があった。
『ハァイ、可愛い子猫ちゃん達。』
「?」
2人が振り向くと、そこには短髪の美形が顔を覗かせていた。
品がある服をスラっと着こなす姿に育ちの良さが伺える。
『素敵なさえずりが聞こえてきたと思ったら、美しい鳥ではなくこんな可愛い子猫ちゃんに会えるとは思わなかったな。僕も混ぜてもらっていい?』
「え…あっ…、もちろん!」
顔を赤くし、席にスペースを作る女性ににっこりと笑顔を向けて相席をする。
その姿は周囲の客をも注目を集めた。
『ありがとう、子猫ちゃん♡
君たちの素敵な名前を教えてくれる?』
歯の浮くような台詞も美形がしゃべれば華となる。
子猫と呼ばれた女性も、それを聞く周囲の女性も恍惚の溜息をもらしていた。
「あ!いましたわ!ティー様!」
『…おっと』
喫茶店のテラス側の入り口から現れた数人の女性がティーと呼ばれたその美麗な人物に群がる。
「んもう!どこいってらしたの!?」
「今日は私と西通りのスコーンを食べに行きましょう?」
「ちょっと!ティー様は今日私とのお約束の為にここまで来てくださったのよ!」
「ティー様ぁん!今日こそは私の家にいらしてくださいまし?アップルパイを焼いて待ってますのよ?」
黄色い歓声が店内に響き渡る。
『こらこら、君たち。店の方々に迷惑じゃないか。やめなさい。』
制止し注意すると、女性たちはシュンと落ち込んだ。
『それに…』
席を達自分も含め女性たちの退店を促しながら続ける。
『君達の可愛い顔が台無しだよ、ほら皆笑って?
僕は花の様に咲き乱れる君達の笑顔が見たいんだ。』
「「「キャーーー!!!♡」」」
再び響きだす黄色い声と共に、ティーと呼ばれる人物は店を出た。
もちろん、最初に声をかけた女性2人にも目配せで
『またね』
と挨拶をした上で。
~~~
大通りに出たティーと女性数名はこの後の予定を決めながら歩いていた。
「じゃあ今日は皆で映画に決定ね!」
「私ティー様の左隣りがいいわ!」
「ああ!抜け駆けはズルいわよ!?」
『こらこら子猫ちゃん達…』
そういって先ほどと同様に制止しようとした時、彼女らを歩く前に数人の騎士が立ちふさがった。
女性がそれに気づき足を止める。
「あれ?あの紋章って王家直属の魔道隊騎士様じゃない?」
『げ…』
騎士の1人がズンズンと歩み寄って行く、状況を理解できない女性たちには目もくれず、ティーの腕を掴んだ。
「…ていなん様、やっと見つけましたよ…!」
『ジェ…ジェイド…。』
そのやりとりを見ていた女性のうちの一人がつぶやいた。
「ていなん…?ていなんってこの国の…!」
ジェイドと呼ばれた魔道騎士は、女性たちに向き直り
「この度は大変ご迷惑をおかけしました。
我らはこれにて失礼します。」
一礼すると観念したようにグッタリとするティー…もといていなんを引きずるように連れて行った。
~~~
『…ちぇっ、せっかく可愛い子猫ちゃんに囲まれて幸せだったのに。』
「まったく!何をおっしゃってるんですか。
あなたは【女】でしょうが!
国情視察という言葉を盾に街で女性と遊んで…
淑やかであらせらると評判の「白の国の姫君」を見習ってください。
まったく…」
「まぁまぁジェイドさん、落ち着いてください。ていなん様だってストレス発散したい時もありますよ!」
「爽はていなん様につくづく甘いな…」
『爽くん大好き!さすが僕の弟分だ!!』
爽と呼ばれる魔道騎士は、ブツブツと言い続けるジェイドをなだめる。
そうこうしてるうちに、城へと戻ってきた一行は王の間へと向かった。
~~~
『父上、お呼びですか?』
「おお、戻ったか…
時間もないので説教はあとだ。
先日の飛行物体について話がある。」
そう言って、国王はていなんに
赤炎鳳凰隊の隊長を任命した。
『…それって隊士は魔道騎士からだったら好きに選んで良い?』
「お目付け役としてジェイドを置く。それ以外の4名は好きに選ぶと良い。」
腕を組み、長いまつげをしならせるようにうつむき思考を走らせるていなんの答えを、周囲の者はじっと待った。
『うん、じゃあ爽くんも入れて!ジェイドをなだめてくれるのに必要だし、実力だって問題ない。
残りは暁月ちゃんと結音ちゃんと林檎ちゃん!彼女たちにするよ!』
「…一応理由を聞こうか?」
『そりゃ父上、魔導隊の中でもトップクラスの可愛い子ちゃん達だからですよ!』
予想を裏切らない答えにガックリと国王は肩を落とした。
『大丈夫、彼女たちは可憐だけどそれ以上に力がある。力が無ければ王族直属の魔導隊にはなれないから。僕の目利きを信じて?』
「そこまで言うのなら止めはせん…。」
そうして、赤の国の選ばれし六名は決まった。
宰相はゴホンと咳払いをひとつし、ていなんを見つめて話す。
「ていなん様、良いですか?貴女は一国の姫なのですから、それ相応の振る舞いをお願い致しますね。
国一番の美しさと言われていますこと、ご自覚ください。
白の国ではかの光姫、黒の国からは国一番の美しい所作を持ち合わせる者が参戦と聞きます。
ご参考にしてきてください。」
『おお!つまり他の国の可愛い子にも出会える可能性がある…!』
「ていなん様、私の話を聞いてないでしょう…。」
目を輝かせるていなんとは反比例して、宰相は肩を落とした。
「ていなんよ。」
王が話を割って声をかける。
「…くれぐれも【青の国】とは仲良くするでないぞ。」
ムスっとしながら言う父親である国王の言葉を聞いたていなんは、
『ちt…、ん?』
返事をしようとしたとたんに、天窓より差し込んできた光に包まれ出した。
(…これが、あの島に招かれるってことか…。)
冷静に状況を判断し、ていなんは一息つくと、国王に向き直った。
『父上ご安心ください!僕は負けず嫌いなんで、勝負と名のつくものには全力で勝ちをとりに行ってきます!
あと、青の国とも父上の言うとおり、仲良くしてきますね!』
「んなっ!?だ、誰がそう言った!!」
顔を真っ赤にして、王が立ち上がる。
『僕が真意をくみ取れないとでも?
本当は仲直りしたいんでしょ?向こうの王と。
僕がそのキッカケを作ってあげるから、安心して待ってて!』
そう言い切る頃には、光が六名を包み込み、部屋にいた者が目を開けるとそこに六名の姿は無かった。
「…ふん。」
国王はどっしりと玉座に座ると、天窓から覗く火山の一角と空に浮く島々を眺めた。
「…青の国などこの際どうでも良いわ。肝心なのは勝利のみ…。
…
…我が娘と隊士達に、鳳凰の加護があらんことを…。」
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