§幻想舞踏会§ 第二話~黒ノ国の野望~
§幻想舞踏会§
§幻想舞踏会§ 第二話~黒ノ国の野望~
- 172
- 22
- 0
§幻想舞踏会§
第二話 ~黒ノ国の野望~
そこは黒の国。
黒の国は、商業により生計を立てている国であり、昼夜問わず様々な店舗が商いによって国を
賑わせていた。
夜も構わず営業することで街灯や電光板がイルミネーションの様に光り、また元来美にこだわ
る国柄であった黒の国民の技術は夜の街灯1つとっても装飾が細かく施されている等、どこま
でもこだわっており、
そのテーマパークのような完成された夜景から、
【美しき夜の国】とも称されていた。
特に美しいと有名なのは衣服・装身具(アクセサリー全般)だ。
国内でもっとも多く立ち並んでいるのは、ブティックだった。
(ブティック…女性用の衣服・装身具などを売る小規模な専門店。)
国内でもっとも競争率の高いと言われるブティックで頂点に立つことは、唯一無二の人気ブラ
ンドとして扱われ、王室御用達として王族専属店にもなれることから、黒の国では大変栄誉な
ことなのである。
白の国の姫君が意見表明をだし、国民が歓声を上げていた頃
大陸中央の山を挟んで反対に位置するその国でも、飛行物体の話題で持ちきりだった。
そんな動乱の中、黒の国内一と称されるブティック【Reika】は
本日も開店していた。
昨日までとなんら変わらず営業しているその店に、駆け込む人影があった。
「オーナー!オーナー!?」
息を切らしながら店に入ってきた女性が「オーナー」と話しかけたその女性は、金属製のサー
クレットへ宝石を埋め込む作業をしていた。
ゆっくりと手を止め、流れるような仕草でメガネを外しながら振り返る。
『…なるせ。お客様がいたらどうするの?もっと静かに入ってきて?』
「すみませ…って、それどころじゃないですよ!こんな時になんで普通に仕事してるんですか
レイさん!
もしかしたら戦争が始まるかもしれないのに…」
なるせと呼ばれる女性は、このブティックのスタッフの1人である。
不安に顔を曇らせ、落ち着かない様子だった。
『こんな時でも納期を遅れる訳にはいかないの。王宮の注文よ?
このサークレットを完成させないと。』
「そうそう!なるせ落ち着いて?うちの信用に関わるんだからっ」
声をかけられてハッと振り返ると、他のスタッフであるアゲハが服を畳みながらなるせの慌て
っぷりをニヤニヤ見ていた。
落ち着いて周囲を見渡すとスタッフのカンカン、ふあのん、春華もいつもどおり仕事していた
。
「…皆さすがに落ち着きすぎじゃない?」
「なるせが慌てすぎ、私は国の勝ち負けより店の売り上げと信頼が大事かなw」
カンカンはそう言って、手を動かした。
「同感ですね。というか早くお給料で甘い物食べに行きたいなぁ…、ピンクのマカロンが食べ
たい♡」
ふあのんは相変わらずのマイペースかつスイーツ妄想が始まる。
「オーナーは依頼完遂マシーンなんだから野暮な事はナシだよなるせ~」
春華は窓を拭きながらおちゃらけていた。
(この中で私が、一番情勢をちゃんと把握して、一番まっとうな反応してるハズなのに…)
なるせがガックリと肩を落とす。
すると、背後から歌が聴こえてきた。
振り返るとオーナーのレイカがサークレットの仕上げ作業に入っていた。
レイカは仕上げに必ず魔法を込める。
未来の持ち主に向けて、健康を、安全を、願いの成就を、
幸せな未来を願って歌うのである。
その魔法の完成度の高さと、作業をする際の仕草が美しく
レイカはこの店を国一番のブティックにまでしたと言っても過言ではなかった。
店のスタッフは全員そんなレイカに憧れ、弟子入りする様に店で働きだした者だった。
いつの間にか全員が手を止め、その仕上げ作業に魅入っていると
レイカが歌を止めた。
『よしっ、完成。皇妃様が注文されたサークレットを納品しに行きましょ!』
「あれ?私達も?」
『ええ、今回は全員で納品に行くわよ。そういうご命令だから。』
身支度を整え、6人は店に「close」の看板をかけると、王宮に向かって歩き出した。
~~~
白の大理石で作られた壁と床に、厳粛かつ繊細な黒地の装飾が施された室内の納品作業は、皇
妃様が直々に受取に来ていた。
『ご依頼の品、お持ち致しました。』
後方に5人を控えさせ、レイカはサークレットの入った箱を渡す。
「ありがとう、いつもながら完璧な仕事ぶりね。」
『お褒めに預かり光栄であります。』
皇妃はうっとりとした目でサークレットを観賞し、箱にもどした。
そして、レイカと後方の5人を見据える。
「…さて、私が直接ここに来たのには別件もあるの。
貴女は…いえ、貴女達の店はこの国一番のブティック、なお且つ依頼を完遂するその忠実な姿
勢を見込んで頼みがあります。」
シンと静まりかえる冷たい石造りの室内に、皇妃の声だけが響き渡る。
「昨日の七色の宝石のお告げにあった、
此度の戦いの隊士を国一番と称される貴女達にお願いしたいの。」
「んなっ!?」
なるせが驚愕の声と共に顔をあげる、そして無意識とはいえ声を出してしまったことに顔を真
っ青にした。
「しっ、失礼しました!!」
皇妃様はクスッと笑う。
「いいのよ気にしないで。今は王である夫もいないのだから。」
『つまり、黒の国を背負い戦えという事でしょうか?』
レイカは冷静に答える。
「ええ、貴女達なら実力・名声ともに問題ないでしょう。
……できるかしら?」
レイカの反応を、妃様と後ろに控える5人が固唾を飲んで見守る。
『…せよ、と…』
「え?なんと?」
『「勝利を手に入れよ」と、ご命令ください。皇妃様。
私は、私達は、必ず我が国に、そして皇妃様に納品に参りましょう。』
「…ふふ、ふふふっ、やはり貴女に頼んで正解ね。」
レイカの毅然とした姿は、まさしく【美】であった。
そして、窓から七色の光が差し込み、レイカ達を包みだす。
皇妃様は驚きながらも、選ばれた六名の行く末を見届けていた。
「よろしくおねがいね、レイカさん」
『おまかせください。皇妃様』
「ちょ、ちょっと!オーナー?!」
何も聞かされていなかった5人は突然の成り行きと、自分たちを包む光に混乱し、レイカに駆
け寄った。
「オーナー!?店は!?注文は!?」
「私このあとアゲハとマカロン食べに行こうとしてたのに!」
「ふあのん私とそんな約束したっけ!?でも私も明日エステの予約が!」
「依頼完遂マシーンもここまでくるとは…」
「私の危機管理能力が警報を…!」
『…。』
レイカは騒ぎ立てる5人にチョップを一発ずつお見舞いした。
「イタ」「グエ」「ウギャ」「アテ」「グホァ」
『注文はさっきまでに全部完了しているわ。
マカロンは我慢なさい。
エステなら終わってから行けば良いわ。
なるせはあわてすぎよ。
春華はもっと女らしい悲鳴をあげなさい…』
同じ体制で頭を押さえながら、レイカを見上げる5人。
『…それに、』
レイカはフッと笑うと、5人に背を向ける。
『貴女達、私に弟子入りする為に、
上手くなる為に私の下に来たんでしょう?
なら私に付いてきなさい。
後悔はさせないから。』
そう言い終わると6人の身体は光と共に霧散し、その場には皇妃様だけが残っていた。
窓から宝石とその島々を見上げ、皇妃様は祈りを捧げる。
「…はるか古来より我が国を守護せし夜叉の御霊よ…。
どうかこの国に、国を背負う彼女らに、美しき夜の御加護を…
…
…
…
…我が国は【白の国の影】と言われ続けておりました…
他国の背後にある影ではなく、全ての国を覆うかの様な澄み渡る夜空でありたいのです…
いまこそ…
全ての色を飲み込むほどの美しき黒を…!」
コメント
まだコメントがありません