§幻想舞踏会§ 第一話~白ノ国の姫君~
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§幻想舞踏会§ 第一話~白ノ国の姫君~
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第一話 ~白ノ国の姫君~
それは、七色に光る宝石が六つの島を引き連れて突如天空に現れ
戦いのはじまりを告げる文章を、青空へと映し出した次の日の事だった。
白の国では、行政機関に
「あの飛行物体は一体なんなんだ!」
「戦いとは!?」
「戦争がはじまるの!?」
そんな問い合わせが殺到し、数多く配置されている電話がひっきりなしに鳴っていた。
行政機関も過去に同様の事例は無く、
調査をしようと飛行部隊を向かわせても、調査結果はある一定の距離以上に近づこうとすると謎の力によって近づくこともできない、という理由付の
「不明」
の一言により答えは出せずにいた。
国民は、行政機関のある中央区噴水広場に集まり、国からの公式表明を今か今かと待っている状態だった。
ある者の顔には『不安の色』
ある者の顔には『未知への好奇心の色』
そしてある者の顔には、
『戦いへの決意の色』が見えていた。
広場に集まった国民が待ち焦がれているのは、1人の姫君の姿だ。
「光姫(ミツヒメ)様の御言葉はまだかしら」
「あの謁見の扉が開けば、奥からお姿がもうすぐ見えるはずよ!」
「光姫様の御意向に国民の我らは従うのみ…」
国民は口々に光姫(ミツヒメ)という言葉を発している。
そんな様々な感情の渦巻く広場の喧騒を、広場で最も大きな建物である行政機関の施設の上階、数多くある窓のひとつから覗き見る人影があった。
「…はぁ。もう国民をこれ以上待たせるわけにはいきませんよ。」
肩を落としながら独り言のようにつぶやくと、白の国の正装である服に身を包んだ女性が振り返った。
「しかしながらまりー様…、あの飛行物体の正体も未だ不明。
光姫様も…。」
おそるおそる報告をあげる二名の男性兵士の顔は、真っ青だった。
「だからこそ、早く探してください。国の象徴たる彼女が意見表明をせずにどう鎮めると言うのか…」
「はっ、かしこまりました。」
そういうと、まりーと呼ばれた女性は窓へと向き直り、空に光る宝石とその島々を見上げ、重たい溜息をまたひとつついた。
光姫(ミツヒメ)とは、白の国において【国の象徴】であり、【次期主権者】であった。
白の国は「薬学の国」とも言われ、研究施設の多く立ち並ぶ国
歴史の一文で初代と称される白の国の王家先祖は、薬学の研究による発展により国を繁栄させた。
だが国を繁栄させた最も大きな要因は、薬学への膨大な知識ではない。
誰よりも、『力』が強かったのだ。
この世界には科学では証明できない不思議な力、
『魔法』と称される力が、はるか昔より存在した。
ただし、人間がその力を使うには『歌う』という条件があった。
なぜか歌を歌うことでしか、魔法は誰も発現できなかったのである。
そして、数多くある病気を良くする薬と
誰よりも強い『力』を持っていた王家初代が女性だったことと
その眩しいばかりの活躍と栄誉を称え
人々は王家で最も『力』のある者に代々【光姫】の名を受け継がせた。
そしてこの時代にも例外はなく、【光姫】を受け継いだ王家の娘がいた。
現光姫である娘は、現在最高権力である王と妃の娘で
淑やかであり愛国心に溢れ、博識で心優しいと
国民に評判であり指示も高かった。
まりーはカーテンを荒々しく閉めると、焦燥を露わにポツリポツリとつぶやいた。
「…もうっ、本当どこ行っちゃったのかしら…光姫は…!」
「せっかく今まで築き上げた国民の好印象が…」
『どうしてそんなに焦ってるんです?』
「そりゃこんな大事な時に、このままでは国民に示しが…」
『そりゃ大変ですねぇ~ちなみに誰をお探しで?』
「そりゃ光姫の紅茶ミ……」
いつの間にやら会話に混ざってきていた声に驚き振り向くと、そこには服装もバラバラな4人の女性を引き連れた、1人の女性がいたずらに笑っていた。
「ば…番長!!ちょっと!どこ行ってたんですか!」
『うへへごめんごめん、ただいま。』
番長と呼ばれた彼女は、慣れた様子でヘラヘラと謝る。
「もう!探したんだから!…というか後ろの方々は?」
まりーは訝しげに後ろの4人を覗き込む。
『ああちょっと家脱走して、人探しをしにあっちこっち周ってたんですよ~』
「人探し!?なぜ…」
『選ばれし六人の選出』
そう言い切って、番長は鋭い眼光を見せ笑った。
「なっ…まさか、昨日のアレを信じるおつもりで!?」
『行動せずに後悔するより、行動して徒労に終わる方がマシです。』
ハッキリと断言する番長に、完全に周囲は押し黙ってしまった。
『…と、いうことで国内各地からちょっと拉致ってきました☆』
「ら…拉っ!?」
あんぐりと口を空けて絶句するまりーを、番長はケラケラと笑い飛ばす。
『学生のレインさん、西方の喫茶店の店員のミーさん、中央区の企業主の娘のシャアさん、南方の呉服屋のヨルさん』
若干困惑の表情を見せながら紹介されるままに頭を下げていく4人に、まりーは恐る恐る会釈した。
「どうやってここへ…」
『ん、王家の遣いでーっす!って証見せて(半強制的に)連れてきました。
あ、ちゃんと説明して一応納得してもらった(つもり)よ☆』
「王家公式の拉致被害!?!?
せ、せせせ、せ、せっかく作り上げた貴女のイメージが崩れたらどうすると思って…!
国民にこんなヘラヘラした姫だとバレたら…!?」
『ワッハッハ、酷い言われようだわw
まぁまぁ!誰も私が光姫だと思わなかったみたいよー』
「そりゃ普段の番長がこんなにもちゃらんぽらんだと国民に示しがつかないでしょうが…。
し、しかしながら…番長も入るとして六名には1人足りませんが…」
『え?』
番長はきょとんとした顔でまりーを見つめ、段々と満面の笑みへと表情を変える。
その笑顔の真意を、常日頃から仕えているまりーが察するのに数秒かからなかった。
まりーが後ずさりをしようとした瞬間には、
既にガッシリと番長に腕を組まれていた。
『さあ、行きましょうか?……5人目の隊士さん♡』
「ええぇえぇええぇえ!?」
ズルズルと引きずられるように、まりーは部屋を後にするのであった。
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「あっ!謁見の扉が開いた!」
群衆の中からでたその一言で、広場にいた国民全員が建物の上階に設置されているバルコニーを見た。
重厚な扉が開かれると、ファンファーレの音と共に光姫である番長が現れ、その後に5人の女性が、正装を纏って現れた。
…約1名はがっくりと肩を落としていた。
「光姫様!」
「光姫様がおなりになったぞ!」
「…後ろの5人は誰だ…?」
歓声が一気に沸きあがり、広場の熱気があがる。
さきほどまでとは違う優雅な身振りで手をあげると、とたんに広場はシン…と静まった。
どこまでも通るような声で、番長は語りだす。
『国民の皆様、此度の騒動で様々な感情をを胸に抱いたかと思います。
私はあの空に映し出されたお告げともいえる言葉を、信じることにしました。
お告げの中にあった【言の葉を音に乗せ】とは【歌】のこと…
すなわち魔法です。
恐れることはありません。我が白の国には古より天照様の加護があります。
私は、白き光の如く!全ての国を天高く照らす太陽の如く!
白の国が頂点で光輝けるように、
数多の勝利を手に入れることを誓います!
今ここに、光姫の名において
白光天照隊を結成致します!
【勝利は白き光の下に】!』
数秒の沈黙の後、広場には空気が震えるほどの歓声が広がった。
誰もが自国の勝利を願い、激励していた。
そして、幾分たったであろうか、
空から七色の光が、番長を含む6人を包み込み、そして一層鋭く光ると、
もうその場に6人の姿は見えなかった。
白の国の勝利を願う歓声は、その後も止む気配が無かった。
五つの国の開戦へのカウントダウンが、既に始まっていた。
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