ハードオフBGM (NSC-SC-1903)

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昔住んでいた街にある、ある店舗へ赴くことがあった。 僕はそのお店が好きで、何を買うわけでもなくても、とにかくよく通っていた。 そのうち店員さんにも顔馴染みになり、興味のある分野の話をよくさせて貰っていた。 最終的には世間話をするくらいまでの仲になったのだが、僕の引越しがあまりに急な事だったのでろくな挨拶を出来ずにいたのだ。 この店舗へは当時の彼女ともよく通った。 彼女は友人の結婚式で貰ってきたしょうもない引き出物を「いくらになると思う？」だなんて茶目っ気たっぷりに笑いながら買い取りカウンターへ持って行ったり(そして実際に売ってしまった)、気に入った古着を試着したりしていた。 僕らはすっかりここをひとつのデートスポットとして活用していたのだ。 しばらくぶりの店内には知らない店員さんがいたり、大規模な模様替えの跡が見えたりした。 だけどあの当時の面影は至る所にあった。 どうしようもないジャンク商品のカーオーディオ。 壁に飾られているビンテージものだというくたびれたジーンズ。 誰が買うのだろうという何世代も前のワープロ。 見覚えのある数々に目を通した後、CD棚へと歩みを進めた。 こういうお店のCD棚はとても興味深い。欲しかったCDが破格で売られていたり、また、破格で売っているから気軽に買えたりもするのだ。僕はそうしてCDを買うのがとても好きだったのだ。あの当時から。 1列ずつ目を通して行くと、あるCDが目に止まった。 それは僕がいつからか亡くしてしまったCDで、いつか買い直さなきゃなぁとぼんやり思っていたものだった。 315円、と値札が貼ってある。未だに消費税が5%のままだ。僕はこっそりと呆れたように笑いながらそのCDを購入する事にした。 店長さんは変わらずにここに居たようで、僕の事を覚えていてくれた。店長さんは懐かしいですね、どうされたのかと思っていました、と目を細めながら話してくれた。 僕は突然の異動でまともな挨拶が出来なかった事を詫び、また来ますねと言い残して店舗を後にした。 車に乗りこみ、買ったばかりのCDを開ける。なんだか妙にそのアルバムが聴きたくなったのだ。 エンジンをかけ、CDを挿入する。カーオーディオはすぐにその音楽を鳴らし始めた。 懐かしさを覚えながら歌詞カードをパラパラとめくる。 すると、そこには印字されている文字とは別に、誰かがボールペンで書いたような文字が書いてあった。最後のページである。 中古商品だから、こういう事はそこまで珍しいことでは無いものの、僕は文字を見てすぐにピンと来た。 これは、彼女の字だ。 僕はこのCDを、当時ここによく一緒に来ていたあの彼女に貸していたのである。 歌詞カードには、 「私も去ります。ごめんね。」 とだけ書いてあった。 そう、僕らは別れたのだ。 CDは貸したまま。 思い出は残したまま。 車内にはやたらと明るい旋律が鳴り響いていたが、僕はもうその音楽を当時のように聴くことが出来くなってしまったようだった。 …という妄想をしましたがいかがでしょうか！(なげぇよ…)