【小説】ChronuKrisークロノクリスー 後日談第11話 氷を溶かせ、壁を越えろ
T-M.ホマレ
【小説】ChronuKrisークロノクリスー 後日談第11話 氷を溶かせ、壁を越えろ
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第1話→https://nana-music.com/sounds/0211faa7/
後日談第10話→https://nana-music.com/sounds/02b6226a/
ChronuKrisークロノクリスー
後日談第11話 氷を溶かせ、壁を越えろ
「うおらっ、烈拳乱舞(ファイアレッドバラーレ)!!」
「ーーー氷牙・砕竜(グラソン・ギアイア)」
武闘場の上で、炎熱と冷氷が乱舞している。
赤い短髪の少女は、その驚異的(きょういてき)な運動能力を発揮して、縦横無尽に跳(と)びまわりながら、その炎熱の拳を振るう。
青い長髪の男は、鋭い目でそれを見ながら、冷気の蹴りと氷の礫(つぶて)を舞わせていた。
『シンパティア魔戦杯決勝トーナメント! 第一回戦第三試合、カロラ・ドルチェ vs クルラーナ・カルチャーレ! 両者の戦いは、序盤から激しい展開を見せております〜!』
そのアナウンスを聴きながら、カロラはハッ、と笑った。
「予選で大体の手の内は見せちまったからな。速攻でケリを付けさせてもらうぜ!!」
「ふん。ならばさっさと自滅しろ。俺ごときの氷(かべ)すら溶かせん熱量など、イリーニは求めていないぞ」
「言ってやがれ。双撃連打(ミトラリャトリーチェ)ーーー」
カロラの両拳に熱が灯(とも)る。魔力を燃やしながら、カロラは前へ跳んだ。
「ーーー烈拳乱舞(ファイアレッドバラーレ)!!」
壁のような密度の熱拳の連打が、クルラーナを襲う。その炎熱の拳は、クルラーナの周りの氷の礫を溶かし、クルラーナ本体をも叩き潰さんとする。
しかしーーー。
「……そこだ」
「ッ!? うあっ!!」
突然クルラーナの姿が消えたかと思うと、激しく動き回るカロラの背後を正確に捉え、蹴りを入れた。背中を蹴られたカロラの動きが止まり、そこを中心に身体が凍っていく。
凍蹴(コンジェラート)。敵を凍結させエネルギーを奪う魔弾の魔力を、クルラーナは直接脚に纏わせていた。
「転、移の術……」
「その通りだ。そして当然これだけでは終わらん」
クルラーナが後方に脚を上げる。その先端には、これまででひときわ大きな冷気の魔力が込められている。
「予選では貴様の熱で溶けてしまったが、今度はそうはいかん」
クルラーナの足先で、いくつもの小さな魔弾が形を作る。サイズは小さいが、ひとつひとつの魔弾に込められた魔力はそれぞれが通常の凍蹴(コンジェラート)と同等である。
一方のカロラは、蹴り倒された状態から何とか起き上がろうと手と膝をついた体勢のまま、氷に包まれていた。
「今ここで、貴様の熱量(エネルギー)を奪い尽くす。それで、終わりだ」
クルラーナが氷の中のカロラに向けて、連続で脚を振り抜く。その度に、クルラーナの足先にあった小さな魔弾は、その大きさを人の頭ほどのサイズに変えて、撃ち出されていく。
「凍蹴・連弾(コンジェラート・コンテヌイター)」
撃ち出された凍結の魔弾は、無軌道な動きでカロラの周りを高速に舞う。そして、横から、あるいは上から、氷漬けのカロラを襲ってはその氷の厚さを増し、カロラの熱量をじわじわと奪っていく。
『氷漬けになってしまったカロラ選手! 更にその周囲には無数の魔弾が飛び回る〜! これは万事休すか〜!?』
魔弾を全て撃ち終わるころ、氷の中で、何度か大きめの魔力と熱の動きがあるのをクルラーナは感じる。
「爆打積燭(デッドレッド)、だったか。確かにあの体勢は地熱のエネルギーを取り込むのに適したものだったが……あの程度の火力では足りんさ」
凍(い)て付く魔弾は勢いを増し、カロラを閉じ込める氷は更に分厚くなっていく。
「ーーーむ!?」
その、内側から。
赤いーーー紅蓮の光が漏れ出した。
「凍蹴・連弾(コンジェラート・コンテヌイター)!!」
その輝きを見て、クルラーナは追撃の魔弾を準備する。
「う、おおおおおおお!!」
クルラーナの足から次々と魔弾が撃ち出される。
それとほぼ同時に、カロラを覆(おお)っていた氷塊が溶けながら弾けた。その身は紅蓮の輝きを放ち、膨大な熱エネルギーを蓄えた腕をクルラーナに向けて構えている。
「熱拳紅蓮(カオスクリムゾン)!!」
その拳から炎をまとった紅蓮の光線が放たれる。その熱量は、クルラーナが放った大量の魔弾を吹き飛ばし、蒸発させた。
その、極太の熱線がクルラーナを襲う。
「チィーーー氷牙(グラソン)!」
クルラーナは巨大な氷塊を蹴り出し、前に飛ばす。しかし、紅蓮の熱線はこれをも溶かし、クルラーナの正面からその立ち位置を走り抜けた。
熱線が走った後には焦げ跡が残り、その先の壁には穴が空いている。
撃ち終わったカロラは腕を下ろし、体から発せられていた紅蓮の光が消える。
と同時に。
「烈拳(ファイアレッド)!!」
カロラは身を反転させて後方へ跳ぶと、炎熱の拳を放っていた。
「!? ーーーグ、冷脚(ラフレッド)!」
その先にはクルラーナの姿がある。カロラの拳に一瞬遅れて蹴りを放つが、間に合わない。クルラーナがそこに現れた瞬間から直感的に放たれていた熱拳は、クルラーナの体をとらえ、モロに鳩尾へと突き刺さっていた。
「ガ、ハッーーー!」
クルラーナの身体が転がり、倒れ込む。
「ハ、お前にゃ転移(ソレ)があるってわかってたからよ。カンで殴っといて正解だったぜ」
「グ、ゥ……貴様の、獣じみた直感か」
「さーて、倒れてるとこ悪ぃが遠慮なく行くぜ! それともここで降参するか?」
「フン、冗談はよせ……」
「そうかい」
カロラの拳がクルラーナへ落ちる。クルラーナは小さな氷塊を足から展開して、それを受け止め、何とか立ち上がる。
「烈拳乱舞(ファイアレッドバラーレ)!!」
「クッ、冷脚・乱舞(ラフレッド・バラーレ)」
それからしばらく、拳撃と蹴撃の応酬(おうしゅう)が続いた。己の脚力で動き回りながら拳を放つカロラに対して、"転移"を用いて立ち回るクルラーナだが、先に直撃を受けた熱拳のダメージから、精彩を欠く。"転移"のミスなどもあり、次第にカロラに押されていく。
そしてーーー。
「貰ったァ! 最大出力、烈拳(ファイアレッド)ォ!!」
「まだだーーー冷脚(ラフレッド)ォ!!」
炎熱の拳と冷氷の蹴りが、交差する。クルラーナの冷脚(ラフレッド)がカロラの"烈拳(ファイアレッド)"のエネルギーを削り取る。
「はぁぁぁあ!!」
カロラは構わず、その赤熱の光も消えかけた拳を振り抜いた。振り抜いた拳はクルラーナの頬を打ち、その身体を大きく吹っ飛ばす。
転がりながらも立ち上がろうとしたクルラーナだったが。
「……位置が悪かったか。いやーーーそれは言い訳というものか」
プッ、と血を吐き出して、クルラーナがごちる。
立ち上がろうと踏ん張ったその後ろ足が、武闘場の壁に付いていた。
『し、試合終了〜! 決勝トーナメント第一回戦第三試合、目まぐるしい攻防を制し準決勝への進出を決めたのは、カロラ・ドルチェ選手です!!』
自らの勝利を告げるアナウンスを聴きながら、カロラはその場にへた、と座り込む。そこに、ややふらつきながらクルラーナが近づいてきた。
「何だその様は。勝ったのは貴様だ、勝者らしく堂々とするのが勝者としての責任というものだろうに」
「あー、ムリ。悪いけどムリ。散々氷漬けにされた上に大技ぶっ放したりしたからな。正直すっからかんだぜ」
「"手の内は見せた"などと言いつつ、あの様な切り札を隠していたとはな。不本意だが、俺もお前をひとかどの戦士として認めねばならんらしい。……お前の師匠の言った通りになった」
ため息をつくクルラーナに、あー、まぁ、な、とカロラは曖昧に目をそらす。
「……何だ」
「いや。あの技についてはな。……実はまだ、自力じゃ撃てねーんだ。"炎熱の魔石"の力を借りてる。魔石への負担がデケェから回数制限あるしなぁ」
「…………そうか」
クルラーナの顔がかなり複雑な表情になる。んん、と咳払いした後、だがまぁ、とカロラに手を差し出した。
「この場ではお前が勝った、という事実は覆(くつがえ)らない。誇(ほこ)りを持って、次の戦いに臨(のぞ)むがいい」
「ぶっちゃけラッキーだったけどな。アレで決まってなかったらヤバかったし」
言いながら、カロラはクルラーナの手を取る。立ち上がってから、改めてクルラーナへ宣言した。
「お前はあたしにとっての壁みたいなモンだ。次の機会があったなら、そんときゃもっとより完璧な形で超えてやる」
「フン、ああ……そいつは楽しみだ。その時までせいぜい、互いに己を磨くとしようじゃないか」
少しの間、見つめ合う。試合後ながら、闘志のこもった視線がばちばちとぶつかり合う。僅かな時間、互いの意志をぶつけ合った後、2人はそれぞれ別方向へ歩いていく。
ひとりの戦士と認められた。そのことを少し、嬉しく思いながら、勝者は仲間の元へ凱旋(がいせん)する。
「カロラ」
「師匠!」
「……よくやったな」
「ーーーおう!」
クロノスをはじめとする仲間たちに労(ねぎら)われながら、カロラは関係者特別席の座席に座り込んだ。
「次は師匠の試合だろ? 余計なお世話だと思うけど、頑張ってくれよな!」
「おうよ。オレが勝てば次はお前とオレだ。それまで、しっかり休んで回復しておけ」
「……そっか。そうだったな。りょーかい」
たはは、と苦笑いしながら手をあげるカロラ。
それを見て軽く笑みを作りながら、クロノスはさーて、と立ち上がった。
『それでは次へ参ります! 決勝トーナメント第一回戦最終戦、第四試合! クロノス・アーレス、アウレリア・カニス両選手は武闘場中央へお越しください〜!』
アナンシアの案内が入る。武闘場へ向かうクロノスに、クリスティアから声が掛かった。
「クロノス。わたしは何も心配していない。だから一言だけ。ーーー思う存分、勝って来るがよい!!」
「おう! その信頼(ことば)だけで百人力だ! 必ずや、勝って来るぜ!」
そう言い残して、クロノスは戦場たる武闘場へ降りる。同様に、アウレリアも別の特別席から出てくる。
「この時を待ちわびました、"軍神"アーレス。この戦は1対1。何の邪魔が入ることもなく、思う存分、心ゆくまでやりあえます」
「相変わらず、好きだねぇ。だがまぁ、今日はオレもやる気だぜ。予選の借りもある。思う存分、付き合ってやろうじゃねぇか!」
クロノスの言葉を聞いた瞬間、アウレリアの顔にギラついた笑みが浮かび、戦士の表情になる。クロノスは抜剣し、アウレリアは黒い長槍を構えた。
『両者とも気合は十分といったところでしょうか! それではいきます、シンパティア魔戦杯、決勝トーナメント第一回戦第四試合。クロノス・アーレス vs アウレリア・カニス! 試合、開始です!』
その瞬間、アウレリアによる黒の刺突の激流と、クロノスの剣戟の激突が始まった。
後日談12話→https://nana-music.com/sounds/03758352/
あとがきっぽい何か
どうも、T-M.ホマレです。
第1話から読んで下さっている方は25度(正月特別編も入れると26度)もお付き合いいただきましてありがとうございます。
今回初めましての方は、ぜひ本編第1話から読んで頂けると幸いでございます。
というわけでChronuKrisークロノクリスー 後日談、第11話です。
決勝トーナメント第一回戦第三試合、カロラvsクルラーナ。
炎熱の拳撃と冷氷の蹴撃の激突です。
長引くかと懸念してたこの試合ですが、思ったよりサクッと決着が付いて少し安心しています。
というわけで、今週のチラ裏設定大公開のコーナー。例によって今回バトった2人の戦闘から。
まずはクルラーナ。
凍蹴・連弾(コンジェラート・コンテヌイター)
火力A+ 防衛力B 射程A 範囲A 応用B 燃費C 命中S
凍蹴(コンジェラート)を間髪入れずに連続で撃ち出し、敵の周りを高速で舞わせる。
凍結の魔弾は、ランダムな軌道で飛び回りながら敵を追尾し、エネルギーを奪う。
凍結の魔弾、凍蹴(コンジェラート)の上位技。魔弾を連発しつつ敵の周りにランダム軌道で飛ばしながら攻撃し、凍らせます。
最終的に打ち破ったカロラですが、当然この技にもエネルギー吸収効果があるため、戦闘終盤はかなりギリギリの状態でした。
続いてカロラ。
熱拳紅連(カオスクリムゾン)
火力S+ 防衛力D 射程A+ 範囲A 応用C 燃費C 命中B
カロラにとって最大火力の、炎熱を中心とした複属性砲。発射には数回のチャージが必要。自らに流れる"自然"を司る血に由来する、ありとあらゆる自然のエネルギーを取り込んだ魔力をすべて"熱"に変換し、それを拳に集めて光線として一気に放出する大火力砲である。……のだが、消耗品である"炎熱の魔石"の補助なしではまだ撃てないため、現状では撃てて1〜2発が限度である。
魔石補助あり、回数制限ありの条件付きながら最高火力を発揮できる技です。カロラが成長し、魔石の補助なしで撃てるようになれば、そこそこの燃費で高火力を放てる強力な技になりそうです。
ちなみに本作で何気に初めての光線、すなわちビーム系の技だったりします。
ーーー以上、チラ裏自己満設定公開のコーナーでした。この2人は予選で結構ぶつかってるので新規の技は少なく、お互いの切り札だけでしたね。
さてさて次回はいよいよ主人公・クロノスの登場です。
過去にさかのぼっての因縁があり、イーやカストロの防御力とはまた違ったしぶとさがある、魔槍の使い手・アウレリア。
ずっとクロノスとの決着をつけることを望んでいた彼女との戦いは、果たしてどんな結末を迎えるのでしょうかーーー?
と言うわけで乞うご期待です。
それではまた次回、無事にお目にかけることが出来るよう願いつつ。
今回もお付き合い下さった皆様、本当にありがとうございました。
2017/7/8 0:16 written by T-M
#小説 #オリジナル小説 #コメントください
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- T-M.ホマレコメントありがとうございます〜ヾ(๑╹◡╹)ノ" 戦闘描写がウリだ、と自分では思っているので、そう言って頂けるとめっちゃ嬉しいです! 技名も、ノって貰えるかスベるかの博打的な所があるので、そんな風にノって貰えるととても救われますw 凄く嬉しいご感想、ありがとうございました!(´∀`*)