Bloody Mary

缶缶　FAKE TYPE.

🎡 語弊はあるが悪くはない 🎠 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第12幕『永久に沈みゆく』 「最初の仕事だ。そいつをバラせ」 　半ば強引に連れ去られ、馬車の荷台に乗せられた向かった先で、双子は凄惨な光景を目の当たりにした。男に脅されるようにして入った部屋の中には、ナイフで心臓や頭、目玉を突き刺された青年の死体が転がっていた。 「ば、バラすって……」 　やっとのことでネヴィルが乾いた口を開くと、男は死体の更に先、壁に立てかけられているノコギリを指さした。 「アレでこの死体をバラバラに刻め。頭と四肢を切り分けられりゃ上等だ。それが済んだら飯にしてやろう」 　男はぶっきらぼうに言い放つと、死体と双子を置いて勢いよくドアを閉めた。すっかり日も沈んだ夜半、部屋の隅に置かれたランプの明かりだけが、青ざめた二人の顔を照らしていた。室内にはむせかえるような血の臭いと、鼻につくカビ臭が充満していて、我に返ったネヴィルは思わず両手で口元を抑えた。 「うぇっ……」 　隣で、小さく肩を震わせゾディアックが嘔吐く。古びた床の板に、涎と胃液の交じったものがぽたぽたと落ちた。 「ゾーイは、そこで座ってて。……ボクがやる」 　震える声で言うと、ネヴィルは吐くまいと唇をかみ締めながらノコギリを手に取った。ランプの僅かな光だけを頼りに、死体の方へと向かっていく。そして……。 「うわあああぁぁっ……！」 　無造作に投げ出された右腕目掛けて、手に持った鉄の塊を振り下ろした。 　その後のことは良く覚えていない。部屋に入ってきた男は、肩で息をするネヴィルと蹲るゾディアックとを見比べた後、四肢と頭部が切断された死体に目を転じ、ニヤリと口角を上げた。二人はすぐに部屋から解放され、次に通された綺麗な部屋で温かい食事を受け取った。お皿で湯気を立てていたのは、今まで食べたことも無いような豪華な料理ばかりだったけれど、憔悴しきった二人は一口だって食べられなかった。 「明日からも、しっかり働いてもらうからな」 　そんな男の声だけが、瞼を閉じる直前まで耳にこびりついて離れなかった。 　翌日からも、ネヴィルとゾディアックは薄暗い部屋で死体の解体を任された。最初は恐怖と気持ち悪さに耐えながらノコギリを振っていた二人だったが、次第にその感情も薄れていった。両親が生きるために植物を刈り取っていたように、自分たちは生きるために人の体を刈り取る。それだけの違いだと言い聞かせ、機械のように働いた。一人ならばきっと、すぐに発狂していただろう。地獄のようなこの場所でも、ゾーイと一緒に居られることだけは救いだ。ネヴィルはそう自分に言い聞かせた。 　やがて、二人が男に連れ去られてから二年が経つと、男は二人に新たな仕事を命じた。 「そのリストに乗っている人間を始末しろ。ネヴィルが計画を立て、ゾディアックが実行に移せ。失敗は許さん。いいな？」 　始末。それ即ち殺人。死体の解体とはわけが違う、正真正銘人の命を犠牲にする行為だ。けれど長年の死体処理で感覚が麻痺しきってしまった二人には、最早抵抗する気力も残されてはいなかった。 「大丈夫。ボクが完璧な計画を立ててあげるからね。心配することは無いよ。対象が動かない人間から動く人間に変わっただけで、やってることは今までと同じなんだから」 　ネヴィルが念を押すように口に出すと、ゾディアックは一瞬泣きそうな顔をした後、肩を落とし深く頷いた。そしてあくる日、二人は殺人犯になった。結果論として、何なく仕事をこなした二人は男からいたく賞賛された。当然、次の仕事も二人に託された。運命とは時に残酷である。悲しいことに、この双子には人を殺める才があったのだ。兄はターゲットを巧みに騙す明晰な頭脳を、妹は即座に人の急所を狙い撃つ素早さと技巧を持ち合わせていた。心はとっくの昔に悲鳴をあげているのに、人を殺すことを覚えた身体は、簡単には抗ってくれなかった。命を奪って生き長らえること。その罪悪感と苦しみは、徐々に二人を蝕み始めた。そしてとうとう、ゾディアックが根を上げた。 「お兄ちゃん、逃げよう！ こんなことしながら生きてたって、アタシたち、幸せになれないよ」 「ゾーイ、我慢するんだ。借金を全て返し終わったら、自由になれる。だからその時まで……」 「そんな日は来ないッ！ ここに来てもう三年だよ？ アタシたちいつまで囚われていなきゃいけないの!? ……こんな生活続けるくらいなら、あの時何も知らずに、お母さんたちと死んでいれば良かった……！」 　目に涙を滲ませ痛みを露わにするかのように、ゾディアックは感情のまま叫んだ。その言葉が、ネヴィルの心の深層にまで突き刺さるものとは知らずに。言ってしまった後で、ゾディアックは小さく後悔の息を吸った。あの時もし彼女が死を選んでいたら、この過酷な生活をネヴィル一人に押し付けていたことになる。ゾディアックは今、そうだったら良いのにと、口にしてしまった。 「あ、ち、違うのお兄ちゃん。今のは、そういう意味じゃなくて……」 「……ら……行けよ」 「え……？」 「そう思ってたんなら、何処へでも行けよ！ ボクは一人でだって生きていける。むしろ、お前が居なくなってせいせいするよ！」 　弁明しようと手を伸ばすゾディアックを振り払い、ネヴィルは突発的な怒りの渦に身を投じた。口からついて出ただけ？ そうだろうか。本当は、頭のどこかで分かっていたんだ。ゾディアックが、自分と両親の間の溝に気がついていたこと。よく、その狭間でどうして良いか分からず狼狽えていたこと。ネヴィルにとっては悪でしかなかった両親も、ゾディアックにとってはネヴィルと同じくらい大好きな存在だったこと。知っていたけれど、認めたくなかった。両親が死んで月日が経てば、忘れてくれると思っていた。ネヴィルだけを見てくれると思っていた。 　だから今、ゾディアックの口から不意に溢れた言葉が、ネヴィルの心臓をぐちゃぐちゃに掻き乱した。彼は、通常の冷静さを欠いていた。高速で回り続ける思考の中から、目の前の分身を手っ取り早く傷つける言葉を乱暴に掴んでいく。 「借金が返せない理由？ そんなの、お前がお荷物で、足を引っ張ってるってだけの話だろ、ゾーイ！」 　大好きな妹に向かって、よくもまあそんな酷い言葉が出てくるものだと、ネヴィルは我ながら自己を浅ましく思った。彼の発した刃は、ゾディアックの発言の何倍も悪意が込められていた。憎悪を真に受けたゾディアックは、一度状況を理解出来ていないようなぽかんとした表情を浮かべた後、みるみるうちに目に溜まる涙を必死で拭いながら、弱々しい声で「ごめん」とだけ口にした。 　結局その日、ゾディアックは逃げなかった。けれど口論以降、彼女の仕事の腕は日に日に鈍くなっていった。怒りもとうに収まり、反省したネヴィルが真摯にカバーしていたものの、彼女の受けたショックは半端なものでは無かったのだろう。ゾディアックは遂に仕事でミスを犯した。殺すはずだったターゲットをすんでのところで取り逃したのだ。当然顔も見られている。二人の属する反社会組織の噂は、あっという間に街中に広がっていった。上司の男は、双子を順に殴ると、冷ややかな声で告げた。 「本来ならば即処分にしたいところだがな、借金残したまま二人とも冥土に送るわけにゃあいかねえんだ。今日の夜までに、処分を受ける方を一人だけ選べ。そうすりゃもう片方は許してやるよ」 　座敷牢のような狭い地下室に双子を閉じ込めると、男は初めて会った時と同じような素振りでぶっきらぼうにドアを閉めた。しばらくの間、地下室に沈黙が響いた。ややあって、最初に口を開いたのはネヴィルだった。 「……失敗したのはゾーイだよね」 「……！」 　顔もよく見えない暗闇の向こうで、それでもゾディアックが息を呑んだのが分かった。この子はいつでもネヴィルの言うことを聞く。今回だって、ネヴィルが口にしたことを飲み込んでくれるはずだ。それならば。 「処分はボクが受けるよ。ゾーイを上手く動かすことが出来なかったボクに責任がある」 「……な、お兄ちゃん、何言ってるの」 　震えた声でネヴィルの腕に縋るゾディアックは、あの冬の日、ネヴィルに助けを求めてきた時と同じ目をしていた。どんなに心を乱されようとも、ネヴィルはこの子がいなければ生きていけない。ネヴィルにはこの子しかいなかった。けれど、ゾディアックならば大丈夫だろう。大切だと思った人全てに、同じだけの温もりを向けて愛せる子だ。ネヴィルの居なくなった世界でも、彼女は幸せを見つけて生きていける。 「だから、ゾーイは何処へでも行っちゃえば。ボクが注意を逸らすから、好きな所へ逃げたらいいよ」 　喧嘩した日とはまるで違う、優しい口調でネヴィルは諭す。そんなこと出来ないと首を振るゾディアックに、それでも強く言い聞かせた。 「ボクの言うことが聞けないの？ 今までずっと、ボクの指示が一番正しかった。違う？」 「……違わ、ない」 　答えた妹の顔は、諦めと動揺と恐れが混じったような、不安定な形相をしていた。無言の葛藤の末、彼女がようやく頷いた時には既に辺りは真っ暗になっていた。程なくして男がやってきて、手を挙げたネヴィルを連れ去った。地下室の前には見張りが置かれ、ゾディアックはネヴィルの処分が済むまでそこに居ることになった。逃げ場は存在しないかのように思われた。 (でも、あの子なら大丈夫だ) 　連れられ歩く最中、ネヴィルはこっそりと微笑んだ。男が来る前、ネヴィルはゾディアックに最後の指示を出していた。それは、屋内に残った組織の人間を皆殺しにして逃げること。タイムリミットは、ネヴィルの処分が完了し男が組織に戻ってくるまで。いつか彼女を逃がす日が来た時に使おうと、隠し持っていた木札が役に立った。 (ボクは、君の言葉を良いように解釈して、随分と酷いことを言ってしまったね。君は心から優しくて純粋な子だったのに) 　子どもなのは一体どちらの方だったか。ゾディアックを愛する傍らで、彼女への劣等感も着実に募っていた。それは、今ではもう、無視できないほどに大きく淀んだ感情になってしまった。このままずっと一緒にいれば、この思いは何れゾディアックを支配し、二人の関係は歪みに変わってしまう。ゾディアック自身の幸せを、ネヴィルが奪う未来が来るかもしれない。 　だからこれは、彼女を思うが故の決別だった。今思えば、両親がボクを排除したのは正しい判断だったと自嘲気味に思う。邪悪な異端児は墓場に消え、無邪気で清らかな子だけが幸せな生を全うするのだ。 　きっと今頃、血に塗れた地獄から逃げ出しているであろう妹を思い、ネヴィルは星の瞬く夜空を見上げた。腹部を刺され、息も絶え絶えになりながら、それでも彼の瞳は希望を見つめていた。何にも囚われずに生きる、半身の幸せを願って。 　短剣で突き刺し血みどろになった少年を、男は薄氷の湖へと突き落とした。出血多量と、凍えるほど冷たい水に身体を沈められたショックによる心肺停止。少年は一瞬にして動かなくなり、暗い水底に沈んでいった。 　そして同時刻、一人の少女が東の方角へ向かって走っていた。空は徐々に白み始め、遠い山々の向こう側から、光が一筋届く。少女は安堵と悲しみを背負いながら、光を掴もうとひたすらに走り続けた。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── Swing Bass 鳴らし暴れ回れ　愛と憎しみを重ね合わせ 築いては崩す　諸刃の定め　意地　筋　マジこそ信用 かかったとすら悟らせない罠で　下手打った Wack は片道 Far a way 手の甲にキス　さすれば与えられん (恨まれる性　くだらねえ様) 晒す程落ちぶれちゃない　鋭利で円らな Eyes 捉えたそれは迷いを殺すひとつまみの調和 酸いも甘いもシェイカーに詰めて味わってこそ勝者 (偉大な生き様　描いたデザイナー)　 語弊はあるが悪くはない 芯のない無鉄砲じゃ務まらない　止まらない Ahh… Grazie ファンファーレの鳴ったフレーム 散りゆくまで吼えていけ　静けさに怯む空へ 悩ましい笑みで唸るカンターレ 強張って穿った色眼鏡　染めていけ 張り裂けた声音と緋色のフレーズ 香しい血だまり飲み干せ Bad medicine ブレイク感感感　社会の餌食 報酬がヘルシー時代を完完完　それが理想 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖CAST〗 🧵ネヴァ(cv:ラムネ) https://nana-music.com/users/7020177 〖MOVIE〗 日向ひなの https://nana-music.com/users/2284271 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖BACK STAGE〗 ‣‣第11幕『空白の一年』 https://nana-music.com/sounds/06ae88b0 〖NEXT STAGE〗 ‣‣第13幕『まっしろ』 https://nana-music.com/sounds/06afd38a #AMUSEMENT_AM #のーぷのマイペース投稿 #のーぷFAKETYPE #缶缶 #FAKETYPE