1000年生きてる
いよわ
🖼第1話「キアロスクーロに招かれて」前編 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 地獄街という場所がある。生前罪を犯した人間が落とされ、悪魔の娯楽のために奉仕させられる世界。 無念にも死んでしまった僕と双子の兄は、どうやらそんな不可思議な街に連れてこられた、らしい。 「サルバドールとパブロ。それが貴様らの名だ。私の敬愛する画家から名を頂戴した。ありがたく思え」 目が覚めてすぐ、僕らの前に現れたのは、ピンク色のツインテール(おまけに縦ロールだ)が印象的な、アニメヒロインみたいな女の子だった。 女の子は、僕らに地獄街という街について一通り解説したあと、自分は美術館を経営する悪魔で、僕らの直属の上司であると語った。 「名はレンブラント。だが、気安く呼ぶことは許さん。館長と呼びたまえ」 美術館。これも何かの縁なのだろうか。 僕と兄さんは生前、美術品を盗んで売り捌く怪盗をしながら生計を立てていた。地獄に落ちたのもその所為だろう。だから、美術館スタッフとして僕らを働かせるのは、芸術へ冒涜の限りを尽くした僕らに対する罰としては、非常に理にかなっている。 「成程。罰というのも言い得て妙だ。これ程までに無駄な空間で無駄なことを強要されるとは、気が狂いそうだよ」 黙ったままの僕と対照的に、兄さん──これからはサルバドールと呼ばれるのだろう──は、やれやれと肩を竦めて気だるそうに溜息を吐いた。否、もう死んでいるのだから、呼吸に似せたギミックなんだろうけど。 館長の方はというと、兄さんの随分な態度にも眉ひとつ動かさなかった。冷徹な表情のままスラスラと言葉を編む。 「好きなように言え。どれだけ文句を連ねたところで、私の支配からは逃げられんのだからな。……さて、貴様らの仕事についてだが」 そこまで言うと、館長はパチリと指を鳴らした。すると、それまで煌々と眩しかった館内の照明が、一気にシャットダウンした。つまりは、真っ暗。覚醒してすぐ僕らに与えられた古めかしいランタンを除き、光源らしき光源は綺麗さっぱり消えている。 「簡潔に言えば、貴様らにはこの美術館の夜間警備が課せられている。私が就寝する夜半、勝手に動き回る美術品共を上手く誘導し、夜明けまでに元の状態へと戻すこと」 館長はそう締めくくると、ふわあと大きな欠伸をした。悪魔なのに睡眠欲があるんだ。ぼんやりそんなことを思っていると、館長の猫のように丸い瞳が、不意にキュッと鋭く細められた。次いで、愛らしいが有無を言わさぬオーラを伴った、冷ややかな声が僕の耳を揺るがす。 「貴様ら、もし就寝中の私を起こすようなことがあれば、二度目の死が迎えに来ると心得よ。常に万全を期し、慢心することなく職務に励むように。」 こうして、ろくな説明も為されぬまま、僕パブロと兄サルバドールは第二の人生をスタートさせることとなった。 死後の世界で僕たちを待っていたのは、愉快で不可思議な、夜の美術館。 ─────────────── 「はぁ、地獄だかなんだか知らないけど、とにかく動くしか無さそうだね。水月、僕の後ろについてくるといいよ」 こんなにも意味不明な状況に置かれたというのに、兄さんは冷静だった。心の中で密かにパニックになりかけていた僕は、兄さんの言葉を受け落ち着きを取り戻した。 みつき、と僕を呼ぶ、淡々とした声。目の前にいる人形のような美少年が、それでも兄さんであると信じられたのは、その声が少しも変わっていなかったからだ。 生前の僕らの姿は、鴉のような黒髪の、何の面白みもないザ・日本人だった。それが今や、まるでコスプレイヤーかと見紛うほどにカラフルな配色を施されている。兄さんの髪は快晴の空のように、僕の髪は深海のような色合いに変化していた。 これではちっとも似ていないのだけれど、当たり前のように僕を先導する強引さと、不器用な優しさ、そしてその両方を含んだような声は、間違いなく兄さんのものだった。 「転ばないように気をつけてくれよ」 「うん、ありがとう。兄さん」 どこまでも続く長い暗がりの中を、僕らは手を繋いで歩き出す。揃いの手提げランタンが、それぞれの歩幅に合わせて不格好に揺れた。 ─────────────── 「やぁ! きみたちが新しいスタッフだね!」 歩き出して数分と経たないうちに、不意に左側の壁から底抜けに明るい声がした。唐突のことに、声にならない悲鳴をあげへたりこんでしまった僕を他所に、兄さんは平然とランタンを声の方向に向けた。 そこにあったのは、壁を移動する丸鏡だった。鏡の中に僕らの姿は映っておらず、代わりに、ハロウィンの擬人化みたいな派手な装いの少年が存在している。少年はぱっちりとした目をきっちり二回瞬かせてから、もう一度口を開いた。 「初めまして。ぼくは鏡の美術品、ミロワール・ベセベジェ! ミロって呼んでいいよ」 ミロワールと名乗った少年は、僕らをじっと眺めたあと、ズボンにつけられたポケットを指さした。 「ねえ、その中にあるお菓子、ぼくにちょうだい? お菓子をくれたら、これから先の未来を占ってあげる」 「お菓子……?」 「本当だ。キャンディーが入っていた」 驚いて目を合わせる僕らに、ミロワールがけたけたと笑って教えてくれた。 「それ多分、館長からのエールだよ。あの人はぶっきらぼうなだけで、悪い人じゃないからね」 「そうだったんだ……」 眠っているであろう可愛らしい少女の姿を思い出し、僕は思わず微笑んだ。そして、これもせっかくの縁だと思い、ミロワールにキャンディを差し出す。 兄さんはギョッとして顔をしかめていたけれど、自分でキャンディを食べる気にはなれなかったようだ。しばらく迷った挙句、結局は僕に倣ってカラフルな一粒をミロワールに与えていた。 「二人ともありがとう! それじゃあ教えてあげるね。ここを真っ直ぐ行って最初にある十字路を右に曲がると、面白いものが見れるよ!」 それを聞いた途端、兄さんが間髪入れずに舌打ちをした。多分、もっと有益な情報を得られると思ったのだろう。だけど僕は、その面白いものを少しだけ見てみたくなって、ワクワクした気分で満たされた。 「ありがとうございます。ミロワールさん。行ってみます」 「うん! 楽しんできてね! そっちのきみもね!」 「ろくでもない情報をどうもありがとう」 ニコニコと笑うミロワールを睨みつけながら、兄さんはさっさと歩いていってしまう。僕はミロワールに手を振りつつ、歩幅を早める兄さんの後ろ姿を小走りで追いかけたのだった。 ─────────────── 「ギャハハ! だまされた~!! そういうとこチョロイって言われんだよ! ねえ悔しい!?悔しい!?」 「んも~! またやられちゃったわ! アンジュってば!」 言われた通り角を曲がった先には、耳を抑えたくなるほど騒がしい空間があった。そこに居たのは、頭のない天使の彫刻と、ゴロゴロと転がるハーバリウムの置物だった。二人……とカウントして良いのか分からないが、ひっきりなしに言い争いをしている。 よくよく聞いてみると、天使がハーバリウムにイタズラを仕掛けていたらしいことが分かった。ぷんぷん怒る代わりに左右に小刻みに転がるハーバリウムと、頭がないのに大きな笑い声を上げている天使。シュールとしか言いようがない光景に、僕はくすりと笑ってしまった。すると、僕らの存在に気がついたのか、二人が言い争いをやめこちらにやって来た。 「まぁ~!! まぁまぁ! あなたたちが新人さんね! なんて可愛いの! あたしの蓋を開けて、中からクローバーをひとつずつ持って行っていいわよ! ほらほら遠慮しないで!」 「お前たち、もしかして新人!? ひゃっほう、またおもちゃが増えたぜ! オレはダミー・アンジュでこっちの置物がトリリウムな! よろしく!」 ハーバリウムは僕らの足元をゴロゴロと周り、天使の手が僕の方に触れようとした。けれど、石膏で出来た手が僕に近づくより早く、兄さんが僕の手を引いて元来た道を戻りだした。 「君たちとよろしくする気はないよ。さっさと元の場所に戻れ」 「え~、つれない新人だなぁ」 「ふふっ、でもクールなところもス・テ・キ」 またもワイワイと騒ぎ出す二人の声を背に、僕は抗えないまま暗がりの中へと突き進んでいった。 ─────────────── 「分かったわ、あなた、わたくしが売られてしまえばいいと思ってるんでしょう!? だからそんな酷いことが言えるのよね!?」 「ち、違うんだ。落ち着いて聞いておくれよ。私はただ……」 十字路に戻り、今度は左に進んでみると、またもや騒がしい言い争いに出くわしてしまった。兄さんの機嫌がいよいよ最底辺にまで落ちる。この世の終わりのような顔で壁に寄りかかり、再び溜息のような何かを繰り出していた。 僕は一人で声のする方に近づいてみることにした。壁に二組の立派な額縁が並んで飾られており、どうやら口喧嘩をしているのはその中の絵画たちのようだった。 向かって右側にある、女性の上半身とエメラルドの頭を持った絵画から、キンキンと響く女性の声。 「だってあなた、さっき青は素敵な色だって言ったじゃない? 青以外の色を持つ絵画に配慮が足りていないんじゃなくって? どうせわたくしのエメラルドは美しくないとお考えなのでしょう!?」 詳しい経緯は知らないが、この部分だけを抜粋して聴いても、ただの言いがかりとしか思えなかった。恐らく彼女はとんでもなくヒステリックな性格で、ご自慢のエメラルド以外の色が褒められたので腹をたてたのだろう。言われっぱなしの左の絵画が、何だか可哀想になってきた。 左側に飾られているのは、頭が蝋燭の炎になった男性の絵画だ。見た目通りの燃えるような性格、とはいかないのか、優しさを含んだおどおどと揺れる声で必死にエメラルドの女性を宥めようとしていた。 「女神、少し深呼吸をしよう。私は君のエメラルドも、大変美しいと思っているよ」 「そんなの、口だけなら何とでも言えるわ! わたくしは……あら、お客様? 見かけない顔ね。どうかなさったの?」 気づかれた。エメラルドの女性は、先程までの態度が嘘のように柔らかな声音で僕に尋ねた。僕が新人のスタッフであることを伝えると、彼女は軽く微笑んで言った。 「新しい仲間が増えることほど嬉しいことは無いわ。ここには変な作品が多いけれど、頑張ってくださいまし」 自分が変な作品であるとは微塵も思っていないらしい。深く関わると面倒なことになりそうだ。僕は苦笑いに近い愛想笑いを繰り出すと、兄さんに声をかけて元来た道を戻ろうとした。しかし……。 「あれ、道が、無い。……兄さん?」 振り返った僕の目の前には、壁があった。そんなはずはない。この先には長い廊下が続いていたはずで、少し戻った壁際には兄さんがいたはずで……。 僕が固まっていると、それまで黙っていた炎の絵画が哀れみを込めた声で話しかけてきた。 「迷ってしまったのか。それは気の毒に。ここは、数時間ごとに道が入れ替わるようになっているんだよ。朝になれば元に戻るけれど、それまでの間は迷路だと思って動くと良い。私の記憶が正しければ、この先を真っ直ぐ歩くと、前の道に通じる扉が見えてくるはずだ」 炎の絵画はそう締め括ると、額縁に手をかけてそっと前屈みになった。 「僕が少し身を乗り出して廊下を照らすから、その間にゆっくり扉を探せば良いさ」 「あ、ありがとうございます」 照らされた通路は、ランタンの心許ない光と比べ物にならないほど明るくなっていた。僕はぺこりと頭を下げると、兄さんを探すため更に奥へと足を踏み出した。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 🚰あー 決まった言葉垂れてまたヒューマン 🕰ちょっとステキな晒し者ね 🌑はした命眺めて全てを無視した 🖼額縁の中で1000年生きてるのさ(🎩ぷーぷー⬅️皆が歌っている横で寝ている) 💐知らない偉い人が石に文字彫って祈って 👼気の狂った誰かがホワイトを塗りたくった 🥀ガラクタの上でくどいプロポーズを待って 🕯あつい口づけを交わすとき鳴りひびくクラクション 🖼狂ったフリでごまかしていこうぜ 骨も残らぬパパママよ (🎩きゅいきゅいきゅいきゅい⬅️適当に合いの手をしている) 🫙ラッタッタ 口ずさんだ歌の名を知りたくて 🕰🚰まつり上げては落としたヒューマン ちょっと皮肉なオクシモロンね 🌑斜の斜に構えて全てを無視した 🖼あなたの気持ちが1000年生きてるのさ(🎩きゅっきゅっきゅ⬅️適当に合いの手をしている) ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖CAST〗 🕰サルバドール(cv:りゅぅ) https://nana-music.com/users/2450893 🚰パブロ(cv:Klavi) https://nana-music.com/users/10085527 🌑レンブラント(cv:柊木アカネ*) https://nana-music.com/users/7275860 👼ダミー・アンジュ(cv:あきなと。) https://nana-music.com/users/1150486 🕯フレイム=ランタン卿(cv:ラムネ) https://nana-music.com/users/7020177 🥀嘆きの女神(cv:唄見つきの) https://nana-music.com/users/1235847 🎩スクイッシー(cv:なる) https://nana-music.com/users/10699734 💐トリリウム(cv:日向ひなの) https://nana-music.com/users/2284271 🫙ミロワール・ベセベジェ(cv:くらげ∞) https://nana-music.com/users/1819852 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 🖼PLAYLIST https://nana-music.com/playlists/4280930 #HEL_L_ETTER #HandS_END #1000年生きてる #いよわ
