
千秋
エフェクトなし (目の前にあるのは、一台の古めかしいテープレコーダー。 通信機器という通信機器がいつ諜報に使われるかわからない状況で、これはひどく前時代的ながらも、最も理にかなったセキュリティと言えるのだろう。 アンティークショップの店長がかちりとスイッチを押し込めば、キュルキュルという読み込み音と共に、聞き覚えのある声が明るく響いた) あー、あー、聞こえているだろうか! こんな形で話すことになってしまって、すまない。 いや、まずは、こうして君のもとへ届けてくれた店主のかたにお礼を言うべきだろう、ありがとう! (相変わらず、彼の声は明るかった。まるで、私の前から、何も言わず立ち去ることを、心の底から受け入れていたみたいに。 或いはこれも、彼の優しさなのだろうか。 次いでこの街の現状を語る声は、少しだけ落ち着いていて。 そして何より、決意を固めた眼差しが伝わるほどに、真剣そのものであった) さて、君も聞いてのとおりだと思うが、今晩、隣国の軍がこの都市に攻め入ってくる。 俺はこれから招集に赴いて、作戦を提案しにいくところだ。 うまくいけば、ひとつ迂回路を作って、市民をこの街の外へ安全に避難させられる。 ……いや、俺がきっとうまく行かせるから、その時は、君も速やかに避難してほしい。 この城壁が崩れるだなんて、この街の誰も信じていないし、実際、そう思われないように市民への情報が渡されている。 ……だけど、本当は少しだけ危ないんだ。 (彼の声に、少しだけやるせなさが混じる。 街の、国の、市民の未来を守るため意思を固めた英雄の、その向こうにある人間の部分が、弱さが。 後ろめたそうに顔を覗かせるのは、なんとも痛々しく思えてならなかった) 俺はずっと知っていたのに、市民のみんなを騙すようで心が痛かった。 誰も傷ついてほしくなんかないのに、争いを止めるためにもまた争うしか方法がない、こんな状況はひどく恐ろしかった。 ……やはり、現実というのはままならないな。 (諦めたように笑うのは、この人間の悪い癖だ。 それを、ずっと。1番近くで彼を見てきた私だけは知っていた) だけど、この街を出た後で、争いを終わらせたあとで、君のことを迎えに行くという約束だけは、裏切らないと信じてほしい。 また会って、話をしよう。 話したいことも、伝えたいこともたくさんある。 それに俺は、また君の笑顔が見たい。 誰を敵に回そうが、君に助けが必要なときは、俺が絶対に助けに行くから。 ……だから、きっと待っていてくれ。
