
創
お久しぶり、ですね。 ぼく、今日は、お別れを言いに来たんです。 ……ふふ、悲しい顔はしないでください。 こんなに、鮮やかに覚えていることばかりなのに こんなにも『忘れてしまいたい』って思うのは、 ぼくにとってはあなたがきっと、最初で最後のひとだから。 ぼくが、次の一歩を踏み出せるように。 ぼくが、あなたを忘れてしまえるように。 どうか、あなたも全部、忘れてください。 ……なんて ぼく、いつからこんなにわがままな子になったんでしょうね。 せめて、ここにぜんぶ置いていくから。 だからどうか、忘れさせてください。 春の日差しが射す教室の、あの窓際の席で2人 あなたと内緒話をするのが、ぼくの幸せだったこと。 一面に咲くひまわりのなか、笑ったあなたがとてもきれいで 夕べの涙の意味を聞くのを、つい躊躇ってしまったこと。 黄色く染まった並木道の、少し遠くを歩くあなたの 隣に立って歩いているのが、ぼくだったらと願ったこと。 冷たいこの地面の下で眠る、灰になったあなたを想って ……全部忘れて欲しいだなんて、強がりな嘘をついたこと。 (そっと、手桶と柄杓を地面へおろす。 まだ新しいアーバングレーは、数分とかからず細かな汚れを落とされきっていた。 音もなく置かれた黒いチューリップは、手向けるにはあまりに不似合いで、餞別にはあまりに皮肉なものだった) これは、わがままでずるい僕からの、ひどくいじわるなお願いです。 あなたも知らない、ぼくだけの気持ちは ぼくが忘れてしまえたら、きっと、最初からなかったものになるはずだから。
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