nana

泉
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(まだ客の少ない居酒屋。 普段の宴のような集まりとは打って変わって、2人用のテーブルの目の前には、睨むようにこちらを見つめる上司が1人) わざわざ呼び出されたってことは、もう要件はわかってるよねぇ? そ、あんたの昼間のあのミス。あれ、どういうつもりでやってんのか聞きたいんだけどぉ? (……あぁ、よりにもよってこの人に捕まってしまった。 鋭く厳しく、遠慮のない物言い。 内容も的を得ていて、反論の術もないのでさらに都合が悪い。 まともに食らって、自分の未熟さをありありと自覚させられるのは、誰にとっても心地のいいものではないだろう。 また悔し涙を飲み込みながら帰りの電車に揺られるのだと思うと気持ちは重たく、ただ迫り来る攻撃に備えて、縮こまることしかできなかった) ちょっとぉ〜?下ばっかり向いてたんじゃ返事も聞こえないじゃん。ちゃんと俺のほう向いて話して。 『不安だとは思ってたけど、自分に任された仕事だし、他の人に迷惑をかけたくなかった』……? (それが、よくないことだとは分かっている。結果的により迷惑をかける可能性だって承知している。 ただ少しだけ、今回は間が悪かったのだ。 どの部署の先輩も忙しい案件が立て続いて、これ以上の手間をかけさせるのは気が引けた。 声をかけようといっても、ピリリとした空気にどう接するか少し思案している間に、タイミングが合わなくなってしまって) だーかーらぁ、俺教えたよねぇ? ぜーんぶ1人でやるんじゃなくて、取り返しがつかなくなる前に、遠慮せず周りを頼れって言ってるわけ。わっかんないかなぁ。 (……全て、分かっているから悔しかった。 分かっているのに、その一歩をきちんと踏み出さなくて。 役に立ちたいと思っているのに、かえって迷惑ばかりかけて。 こうして、こくこくと頷くことしかできないのだって、本当に無力で惨めで仕方がなかった) あのねぇ、誰もあんたをひとりぼっちの犯人にして、責めようなんて思ってないから。 解決できる問題は全力で手を貸すし、そうじゃないなら一緒に謝る。あんたみたいなのと仲間になるって時点で、全員その覚悟でやってんの。 (……そんな自分に、この人はなんて優しいのだろうか。 物言いに遠慮がないのは、生ぬるい注意なんかより、もう同じミスをしないと心に誓うように。 内容も鋭く的を得ているのは、それだけ部下をよく見て育てようとしているから。 そんな彼に、自分は何かを返せただろうか。 否、こうやって、恩を仇で返すばかりだ。 叱られる怖さより、反論できない惨めさより、 そんな自分の不甲斐なさに、気づけば眉間へ熱が回っていた) ああいや、泣かないでってば。っていうか何に泣いてんのそれ。 ……あーもー、ちょーうざぁい! ほら、俺の胸で良ければ貸してあげるから、憎くて憎くてたまらないんじゃなければ、使ったら? (……ああ、なにがなんでも、ひとの前で泣かないって、決めていたのになぁ。 こんなに人として未熟で、子供みたいに泣き虫な私にも、目の前の彼は優しかった。 普段の刺すような言い回しとは打って変わって、背中をさする手が優しくて。 わけもわからないまま、いつしか、声は小さな嗚咽に変わっていた) いい? あんたは入ってきたばっかだし、できないことがたくさんで当然。 みんなそこから成長してるの。そんで、1番成長するのは素直なやつ。 だからたくさん失敗して、悩んで、相談して、ゆっくり成長したらいいよ。遅いことなんてないんだから。 で、自分がまだ甘えてると思ったら、俺のところに来ること。 そしたら、もっとえら〜い人に怒られる前に、俺がたっぷり叱ってあげるから。

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