nana

彼女はそれを駆け落ちと言った。
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「良いんだよ。 あの町嫌いだったし、 全部全部、水の底に沈むのざまぁだよ。 だって、ねぇ? 初めての東京で買った服も変だって笑われて、 芋臭い服しか許されなくて、 マニキュアもろくに出来ない。 狭い町だからどこ行っても知り合いばっかりで、 おたくの子供マニキュアしてたよーって、 悪いことじゃないのに、 まるで悪いことみたいに言われる。 それで、私だけじゃなくて親も白い目で見られる。 だから他人の顔色ばっかり窺って、 おかげで愛想笑いだけが上手くなったよ。 だから嬉しかったよ。 一緒に遠くに行こうって言ってくれたの。 どこに?って聞いても何にも決まってなくて、 多分、私一生、君と歩いた駅までの事は忘れないと思う。 私の数歩先を歩く君の後ろ姿とか、 途中で食べた蒲焼きさん太郎の味とかも、多分絶対忘れない。 もう大人なのに、道路の白線を渡って歩いたのもずっと。 ごめんね。 私帰る。 あの町がダムになるまでやっぱり離れられない。 私あの町唯一の20代だよ。 どこに住むことになっても、 私の誇れる所はそれしかない。 悪い思い出ばかりの田舎町だけど、思い出なんだよ。 私の故郷。 だからごめん。 あの町がダムになったら、また駆け落ちしよう。 待ってるね。」

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