nana

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🎡 捨てられた影が踊るバラッド 🎠 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第8幕『ゲートの先には』  サロンの繁忙期を終え、イリスがAMに戻ってきた時には、既に屋外劇場は大盛況であった。敷地内にまばらに散っていた悪魔たちが一斉に集い、熱狂して手を叩く姿を見るのは、一体何年、いや、何十年ぶりだろうか。 「まあまあ、何の騒ぎかしら」  頬に手を当ててゆったりと首を傾げたイリスは、そこで数週間前にウォルターから聞いた連絡事項を思い出す。 「そういえば、業績をあげないと消されちゃうんだとか何とか、言ってたわね」  あの時は、悪魔たちの舞踏会のための準備でてんてこ舞いで、AMからの業務連絡は全て右から左へ受け流してしまっていた。今になって思い返せば、とんでもない知らせである。 「まあ、私が居なくても立て直しは良い方へ向かっているみたいだけれど」  自分で口にしておいて、イリスは些か気分を悪くする。ファニイや双子たちなんかは、知らせを受けたその日に頼ってきてくれても良かったのに。それに、あの人も。  イリスの意識は、瞬時に目の前の舞台から逸らされ、ある一人の男性に集中した。もう三ヶ月近く家を留守にしていたのに、彼は会いたいの一言すら寄越さなかった。 「腹立たしいわね。私のことをなんだと思ってるのかしら」  彼女とて、忙しさにかまけて愛してるの一つすら伝えられなかった癖に、それはすっかり棚に上げてしまったようだ。イリスはゆらゆらと苛立つ心を抑えながら、人混みの中に彼の姿を探した。やがて、喧騒から少し離れたところに鼻歌を歌いながらフラフラと歩く不格好な背中を見つけると、イリスは軽やかに助走をつけ、鋭いピンヒールで真っ黒な背広を蹴飛ばした。 「いってェ! 何すんだてめェ!……って、お、お前、イリス!?」 「久しぶりに妻に会えたって言うのに、そのお顔はなぁに? 今朝帰るって伝えたはずだけれど、いつもの格好のままなのね」  そう言って漆黒の瞳でジロリと睨んだ先には、拠れたスーツに緩んだネクタイをかけた、長髪の青年の姿があった。蹴飛ばされた衝撃でだらしなく地面に腰を落とした彼は、ロイヤルブルーの双眸を気まずそうに逸らしてへらりと笑う。 「いやー、そ、そうだったかなァ? ほら、ここ何日か、劇場の方が異例の盛り上がりでよォ、俺も結構慌ただしくしてたんだよなァ」 「そう。言いわけをするのね」  地の底から湧き上がるような声に、スーツの彼──シェスタはビクッと肩を震わせる。 「ち、違うんだよォイリスちゃん! 俺ァお前のことを忘れたことなんて一度も、ただの一度もねぇぜ!」  必死の弁明も虚しく、それでもイリスが表情を変えないでいると、シェスタは肩を落としてしおらしく眉を下げた。 「……本当になァ、悪かったよ。今夜は何処か食事にでも行こう。お前の好きなオーケストラのコンサートにだって」 「嫌よ」  尚もばっさりと言い放つイリスに、シェスタもお手上げといった様子で縮こまる。しかし次の瞬間、イリスは体重を預けるように彼の右腕に抱きつくと、波打つ桃色の髪の間から、悪戯な笑みを覗かせた。 「なぁんてね。オーケストラより、あっちにしましょ。ファニイ達が演劇をしているんでしょ? せっかくなら、私も見てみたいわ」 「イ、イリスちゃあん! それでこそ俺の可愛い奥さんだぜ」  シェスタは途端に陽気な声色になって、イリスの髪のひと束摘むとそっとキスを落とした。 「もう、くすぐったいのに」 「良いじゃねェか」  街灯が照らす夜の街に、寄り添う二人のシルエットが濃く深く映し出されていた。イリスはくすくすと笑いながら、シェスタの腕を、きつくきつく抱きしめる。  この不器用でヘラヘラした男が、地獄街きっての問題児、切り裂き魔シェスタだとは誰も思うまい。獰猛なこの男を手懐けることが出来る私は、きっと誰よりも魅力的な女だ。そう自覚して、イリスは益々笑みを強めたのだった。 ─────────────  ところ変わって、高速で回り続けるメリーゴーランドの下。ふわふわとした紫色のツインテールの少女が、サーモンピンクの舌をちろちろと出してロリポップを舐めている。彼女の名前はミュー。AMに所属するキャストの一人だ。彼女が表情の読めない目で見上げる先には、メリーゴーランドの屋根に腰かけて、そっくりな不機嫌顔でぐるぐると回っている双子の姿がある。 「演劇、夜の部が始まっちゃったのね。いい加減機嫌を直すのね」  ワインレッドのドレスにかけられた小さなポシェットからキャンディの包みを取りだし、ミューは双子に向かって差し出した。 「ほら、ミューの取っておきをあげるのね」 「要らないっ! あっちいって!」  双子の妹──ゾーイは、歯を剥き敵意を顕にした。対する兄のネヴァは、感情的では無いものの、冷ややかな視線でミューを睨みつけている。 「悪いけど、帰ってくれない? ボクたちは今、キャンディなんて食べてる気分じゃない」 「……そう」  しかし、酷い物言いにもミューは動じない。何故なら、ミューには彼らが不満を滲ませる理由を知っていたからだ。  事の始まりは、先日行われた演劇のオーディション。AM再興のための第一歩となる一大プロジェクトに、双子も堂々と参加表明の意を示していたのを覚えている。一番初めにファニイが協力を煽った時はけんもほろろに断ったくせに、随分と虫がいい話だと、ミューは他人事のように思っていた。そして、ミューの危惧した通り、案の定彼等は選考に落ち、こうして不貞腐れているというわけなのだ。  ミューは小さくなったロリポップをもうひと舐めして、どうしようもなく幼稚な彼らを見上げる。これは退屈から抜け出すチャンスだと思った。 「ミューのアイデアなら、ファニイたちよりもっと凄いことができちゃうのね」 「「……え?」」  あっちへ行けと言ったくせに、双子はミューの小さな呟きに、声を揃えて反応した。やはり、彼らの意欲は消えてなどいなかった。AM再興のためと言うよりは、ファニイ達に目に物見せてやろうと考えを煮詰めているに過ぎないだろうが、これは使える。 「ミューと一緒に、新しいプロジェクトをやってみるのね。そしたらきっと、ファニイたちも悔しがるのね」 「……その言葉、本当?」 「嘘ついたら針千本のーますッ! キャハハ!」  未だ疑り深いネヴァの隣で、ゾーイは既に乗り気だった。ぴょんっと小粋な音が聞こえてきそうな動きでメリーゴーランドから飛び降りると、ミューの手にあるキャンディを一粒かっ攫う。 「やろうよぉー、おにーちゃん!」 「……仕方ないなぁっ」  一呼吸置いて、ネヴァもメリーゴーランドから飛び下りる。彼もまたミューのキャンディを口に放り込むと、コロコロと転がしながら目を細めた。 「報酬がキャンディって、ボクたち子どもにはピッタリだね」  双子たちの機嫌は、もうすっかり晴れたようだった。ミューは彼らの後ろ姿を見つめながら、喜びに震える小さな手をそっと握りしめた。  これで基盤は整った。上手くことを運べば、オーディションの場で見かけた『彼』と接触できる。『先生』によく似た面差しの、ミューと同じ髪の色を持つ『彼』と── 「きっとあの子なら、先生の行方を知っているはずなのね」  気がつけば、双子がはるか遠くから手招きをしていた。ミューは僅かに唇を引いて微笑むと、ゆっくりと闇の中に足を踏み出した。 ───────────── 「とてもとても素晴らしい劇でした! ブラヴィッシーモ! 拍手喝采!いやはや素敵だ!」  軽快に革靴を鳴らしながら、カミリアは一歩歩みを進める事に大仰な感想を言い放つ。彼女の隣で、少女のような出で立ちをしたエメラルドグリーンの髪の少年が、うんざりと言ったようにため息をついた。 「うるさいなぁ。どう見ても素人芝居だったじゃないか」 「いえいえ、ちっともそんなことは無いでしょう! 無能集団にしては!に、しては! よくやったものです! 特にあの、ファニイという少年! 以前から面白い子だとは思っていましたが、あの、溢れんばかりのパッション! 益々惹かれます!」  褒めているのか貶しているのか分からない絶妙な言葉選びで、カミリアはまた饒舌になる。この状態の彼女には、もう何を言っても無駄だった。少年はまた大きくため息をつくと、先程出てきたばかりのAMのゲートを振り返る。監査に呼ばれ、せっかく無様に這い蹲る罪人たちが見れると思ったのに、出だしがこれでは正直面白くない。 「どうせなら、足掻いて足掻いて、その先で絶望して欲しいなぁ」  少年の瞳孔がキュッと縦に縮んだ。それはまるで、獲物を捉えた肉食動物のように、剣呑とした空気を放っていた。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 🎬人知れず泣いた裏腹なLie 🎢悪いのは賽か知る由もない 🪗疑いの対価この身で擬態 🎬孤独だ Shadow Shadow 🧵街角にて悪魔に魂をSell 🍭暴いて喰わずとも中身はNull ✂️笑顔で絆したら迷わずKill 🎢孤独な Shadow Shadow 🪡暗闇を照らした爪先にゃHell 🕸迷いもしない そのアタマはIll 🪗誤魔化しの解に構えつつChill 🎬孤独な Shadow Shadow 🪡足りない ザラザラの愛 煙れば甘い 🧵今宵もハイエナは狩りの様 🕸顔も知らない 聖者の裸体 🪗刺す音に酔う 🍭オーダー エゴのじゃれ合い 潰せジュブナイル ✂️痛みが快楽に変わる頃 🎢聞こえるだろう 🎬捨てられた影が踊るバラッド ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖CAST〗 🎢ファニイ(cv:中条瑠乃) https://nana-music.com/users/1791392 🎬ウォルター(cv:yuma*) https://nana-music.com/users/2381215 🪗ユナ(cv:nagi) https://nana-music.com/users/2014957 🪡ゾーイ(cv:海咲) https://nana-music.com/users/579307 🧵ネヴァ(cv:ラムネ) https://nana-music.com/users/7020177 🍭ミュー(cv:唄見つきの) https://nana-music.com/users/1235847 ✂️シェスタ(cv:桐生りな) https://nana-music.com/users/6037062 🕸イリス(cv:RAKKO) https://nana-music.com/users/5226056 〖ILLUSTRATOR〗 中条瑠乃 白水 https://nana-music.com/users/10113554 えりざ https://nana-music.com/users/2137656 秋ひつじ https://x.com/akhtj0801 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖BACK STAGE〗 ‣‣第7幕『廻り始めた歯車』 nana-music.com/sounds/06abec43 〖NEXT STAGE〗 ‣‣第9幕『予定調和』 https://nana-music.com/sounds/06ad5197 #AMUSEMENT_AM #Azari #ShadowShadow

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