nana

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🎪 叶わぬ願いは打ち上げられ 🎭 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第15幕『If you call it love……』前編  サーカス劇場の舞台裏から地下に降り、道なりに右へ進むと、人生再演劇場の入口に辿り着く。スーと一定の距離を保ちながら歩いていたセイルは、慣れた手つきでズボンのポケットから古びた鍵を取り出し色褪せた鍵穴に差し込んだ。 「客席の裏側には、過去300年分のデータが残っている。私は2029年に死んでいるから、ギリギリ消されていない」 「2029。まだ戦争の始まるずっと前だ。凄く豊かな時代だったと本で読みました」  ずらりと並ぶデータを眺めながらスーは事も無げにそう口にした。だが、無意識に羨んでいるような口調になっていたのかもしれない。視界の端で、セイルがそっと目を逸らしたのが見えた。 「どうだかな。私は、まあ恵まれていたんだとは思う。お前たちのように、命を脅かされるようなことは……ほとんど無かった」  彼女が最後に少しだけ言い淀んだのをスーは聞き逃さなかった。いつもの彼ならお構い無しに問い詰めている所だが、今その必要性は感じない。何故なら、今から答え合わせが出来るから。 「ほとんど、ね。まあ見れば分かりますか」  セイルの名前が書かれた黒いテープを取り出して、彼女に言われるがまま映写機にセットする。スクリーンに映像が写るタイミングで客席裏の白い扉を開けて劇場に降り、ど真ん中の席に座った。  顔を上げたスーが一番初めに見たのは、桃色の美しい髪にベッタリと赤黒い血をつけ、涙を流しながらこちらに向かって懺悔をする女性の姿だった。 「ごめんね、セーラ」  ママはそう言ってセーラを抱き締めた。甘いケーキのような香水の香りと生臭い血の匂いが混ざり合い、途端にセーラは吐き気を催した。彼女の視界には、さっきまでパパだったモノが無機質に横たわっており、見開かれたままの目がこちらを凝視していた。 「マ、マ…………」  カチカチとなる小さな歯から漏れた声は、絶望の色をしていた。 ───────────── 「セーラ、忘れ物はない?」 「大丈夫! いってきまーす」  伯母のドーラがキッチンから声を張り上げている。それに負けじと大声で返事をしてから、セーラ・ルーベンスは元気よく玄関を飛び出した。  あれから、母が家庭内暴力に耐えかねて父を殺した日から十年。彼女は明るく美しい少女に成長していた。父が死に、母が人殺しになった、あの地獄のような光景からセーラを救ってくれたのがドーラ伯母さんだった。母の従姉だという彼女は、ショックで口も聞けなくなってしまったセーラを引き取り、優しく慈しみ今日まで育ててくれた。彼女のおかげでセーラの傷は少しずつ癒えてゆき、再び笑えるようになったのだ。  そしてもう一人、セーラの人生に光を与えた人物がいる。セーラはいつも家の向かいの公園で、その人物を待っていた。 「ベッキー、こっちこっち」 「おはよう、セーラ。ふふ、今日も負けちゃった。相変わらず早起きね」  そう言って微笑んだのは、幼馴染みのベッキーことレベッカだった。焦げ茶色の癖毛を太い三つ編みにして、可愛いそばかすと優しそうな目を持った可憐な少女。  当時、セーラの家で起きた事件を知った同級生たちは、こぞってセーラを化け物を見るような目で睨みつけた。犯罪者の子どもは犯罪者になるのだとか何とか、根拠もないことを言ってセーラを苛めた。そんな時、唯一味方になってくれたのが彼女だったのだ。  それからずっと、セーラはベッキーが大好きだった。心優しくて、いつも傍で笑顔をくれる、大切な人。その感情が友情では無いと気がついたのはいつ頃だっただろうか。暴力を振るう父親のトラウマから、男性を避け続けていたセーラはいつしか、恋情の思慕を女性に向けるようになっていた。幾つもの淡い恋と失恋を繰り返した後で、彼女の運命の矢はベッキーへと向いた。 「あのさ、ベッキー」 「どうしたの? セーラ」 「……ううん、何でもない。早く行こう」  けれどセーラは、その事実をベッキーに伝えるつもりは無かった。ベッキーの恋愛対象は男の人で、きっと気持ちを伝えても困らせてしまうだけだ。それならいっその事、親友のまま死んでいった方がずっと良い。この想いは秘めておくべきだ。セーラはそっと心に誓った。  だがある時、彼女の決意を揺るがす出来事が起きた。ベッキーに恋人が出来たのだ。相手は、二人の通うハイスクール『クイーンローズ女学院』の隣のカレッジに在籍する先輩だった。チャラチャラとした見た目の軽そうな男で、セーラは一目見ただけで嫌悪を示したが、ベッキーはまるで絵本の王子様のことを語るかのように彼に酔いしれていた。 「それでねっ、今度彼とドライブに行くの。楽しみだなぁ」 「……そう。楽しんできてね」  学院の中庭でベッキーの話を聞きながら、セーラは彼女には見えないようにぎゅっと拳を握りしめ、耐える。本当は死ぬほど悔しかった。我慢できるわけがなかった。あんなチャラ男より、私の方が貴女を楽しませられるのに。ドライブで見る景色よりもっと素敵なものを見せてあげられるのに。嫉妬が募り、思わずそう口にしそうになった彼女だったが、直ぐにその声を飲み込んだ。人がやってくる気配がしたのだ。  中庭に面した渡り廊下から、一人の老齢の女性が歩いてくるのが見えた。グレーの髪に切れ長の青い瞳を持った彼女は、二人の姿を見つけるとにこりと微笑んだ。 「中庭でおしゃべりかしら? 素敵だわ」 「院長先生! こんにちは」 「院長先生もお昼休みですか?」  二人の問いかけに、院長先生であるミセス・エレナはまたも柔く破顔した。 「ええ。お天気がいいので、私も中庭でお茶をしようと思ってね。ちょうどお母様の銅像も見えるでしょう?」  そう言って、院長先生は中庭の真ん中にある銅像を見上げた。それは、院長先生の母親であり、この学院の創立者でもある女性の像だ。セーラたちとは少し違ったミステリアスな顔つきの女性が、ぎゅっと口元を引きしめ空を見上げているその像は、全ての女学生の憧れだった。 「確か、院長先生のお母様は、日本の方だったんですよね」 「ええ。葉子さんと言って、志の高い、素敵な女性でしたよ。母としても、先生としても、私は彼女を慕っていました」  院長先生は、ふっと目を細めてセーラ達を見ると、優しい口調でこう続けた。 「母は、母の師から学んだ教えを、この学院の教えとしました。全ての人が平等に日の下を歩けるように、隣人には進んで手を差し伸べなさいと、生前よく口にしていたものです」  院長先生は、順番に二人の手を優しく握ると、皺だらけの頬をゆっくりと動かして、子守唄を歌うように呟く。 「ですから貴女達も、どうか、誰にでも優しくあれる人になってくださいね」  まるで聖母のような院長先生の仕草を目にしたベッキーは、途端に頬をぽっと赤らめて何度も頷いた。染まりやすい彼女のことだ、きっと今の言葉をロマンチックに感じたに違いない。 「ええ。必ず先生の教えを守ります。ね、セーラ?」 「……そうだね。先生、私も守ります」  流されるようにして口にした台詞には、僅かな罪悪感が秘められていた。私のような人間は、これから先何があろうとも絶対に、院長先生やベッキーのようには成れないだろうと、心の何処かがざわめきだす。  だってお前は、犯罪者の娘じゃないか。暴力を振るう者の娘じゃないか。そんな血が交わって産まれた人間が、どうして隣人に愛など捧げられようか。  心の声は次第に音を荒らげていく。セーラの鼓動が全身にくまなく響く。  声はこう言っていた。お前が彼女に抱くのは愛ではない。嫉妬に醜く歪んだ、ただの独占欲だと。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖LYRIC〗 暗い 暗い 深海 ヴェールに包まれるは ラ ラ ラ ラ ラ ラブか? 奪い 奪い 叶わぬ願いは打ち上げられ さ さ さ さっさと去るか? 届け 届け それでも光は潰え水面 その遥か ラブカ クライ クライ 未開の想いは足らぬ 足らぬ 至らぬはラブか? ラブカ ラララ ラブカ ラブ なのか? 甘きラビュー ラビュー ラビューか? それはバグ バグ バグか? 嘘と嘘で濁ったアイ アイニージュか? 腐る愛 愛 愛か? 咀嚼 吐き出し泣くか? 届かぬ距離で待っていたってしょうがない 白亜病 ラ ラ ラ ラ ラ ラブカ ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖CAST〗 🦩セイル(cv:しぃな♀) https://nana-music.com/users/1278084 〖ILLUSTRATOR〗 白水 https://nana-music.com/users/10113554 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖BACK STAGE〗 ‣‣第14幕『閻魔降臨』〖STORY ONLY〗 https://nana-music.com/sounds/068cb25e 〖NEXT STAGE〗 ‣‣第16幕『If you call it love……』後編 https://nana-music.com/sounds/068eb7e1 #CIRCUS_IS #柊キライ #ラブカ

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