
magnet
Sooty House - Girl in the mirror -
【 間違いなど無いんだと 思わせて 】 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 「……う、そ……」 静謐な空間に発された声は、聞き間違えかと思うほどか細く、尋常じゃないほど震えていた。 それは、今にも消えてしまいそうな、頼りない蝋燭の灯火のようで──それでも、燃え移るにはじゅうぶんすぎた。 「うそ、嘘……嘘、嘘、嘘……嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘……! 嘘! 嘘よ、うそ。そんなの、嘘でしょう? ミアはもういない、なんて、そんな……そんなの、嘘よ。ねぇ、嘘だと言って……?」 「ミラ様……」 頭から立ち昇っているすすは、私が夢の話をしているときからずっと、出たり途絶えたりと切り取り線を描きながら、じわじわと断続的に、天井を黒く染めあげていく。 痛いぐらいに握りしめられてすすの付いた手に、震動が伝ってくる──ミラ様は、声だけでなく、身体も震えているのだ。 火が、広がっていく。炎になっていく。 「いつも、みたいに……ミラが、『ミア』って呼んだら、ただ……『はい』って、返事して? おねがい、おねがいよ……」 ぜえぜえ、ひゅうひゅう。 呼吸のリズムを崩し狂わせ、喉からひどい音を鳴らしながら、それでも、そうしないとおかしくなってしまいそうだと言わんばかりに、その喘鳴に紛れて交えて、言葉を紡がれる。 その、全身で顕現している、周囲の空気に触れるだけで肌が爛れてしまいそうなほどの不安が──私をも、蝕む。 ……やっぱり、言うべきじゃなかったんだ。 胸裡で小火を起こしていた闇色の感情が、大きな炎火となって、私の我が侭を焼き焦がし──代わりに、吐き気を催すほどの後悔がこみあげてくる。 言うべきじゃなかった。言わなければよかった。 こんなの、私が永遠に我慢しつづければよかった話なのだ。 夢と目が合っても、すぐに逸らせばよかった。背ければよかった。背を向ければよかった。そうすれば、こんなに鮮明にはならなかった。 痛い想いをさせることになったとしても、『私』を手放すことなんてできない? 叶えることが難しいとわかっていても、見なかったことになんて、できなかった? なにを、いまさら。 今までずっと、してきたじゃない。 私は、ミラ様が好き。ミラ様と一緒にいたい。 だから、ミラ様のためなら、なりふり構わず何でもしたかったのでしょう? ミラ様の望む通りに振る舞っていたのでしょう? ミラ様にとって、私は──『ミア』以外の、何者でもないのだから。 『私』をぶつけたって、ミラ様の癒えない傷が浮かび上がるだけ。 それなら、もう──ぜんぶ、なかったことにして。 早く、諦めないと。 ミラ様が、ほんとうに壊れてしまうまえに。 取り返しがつかなくなるまえに。 「ミラとミアは、ずっと一緒……ずっと、ずっとよ? ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっと一緒なの……だから、だから── だから、いなくなったなんて、信じたくないっ……!」 ──え。 「……ミラ、様……?」 「ミラとミアは、ずっと一緒にいるの! 一緒にいるって、約束したのよ! なのに……それ、なのに……ミアがいなくなった、なんて……嫌っ、嫌! そんなの、信じたくない! いかないで……いかないで、いかないで、いかないで……離れていかないで……置いていかないで……! いかないでよ、ミア!」 え……? 『信じたくない』……? 嘘を吐かないで、ではなくて……? それって、まるで。 ミア様がいなくなったことを、知っているみたいじゃない。 ミラ様、は……覚えている? ミア様が、自身を庇って亡くなったことを……忘れたわけではない? 『お披露目』で起こったことを、理解している? 理解はできても、受け入れたくなかったから……私をミア様に見立てることを、『選んだ』? あの日から、今日までのことは──防衛反応として、無意識下に記憶が封印されてしまったわけではなく。 妄執に取りこまれてしまったのではなく。囚われてしまったのではなく。 自ら、都合の良い空想へ飛びこんだ? ぜんぶ、ごっこ遊びにすぎないのだと知りながら? ミラ様は──見たくない現実の存在を、認識している? あの日のことを、忘れてなどいない? ほんとうは……わかっているの? 覚えているの? 私が──『ミア』ではなく、マイアだってことも? 「……ミラ、様……」 「ミア。ミア、ミア、ミア。ミアよね? ミアなんでしょう? ねぇ、おねがい……ミラを、抱きしめて。ぎゅってして。こわい、こわいの。おねがい……」 ミラ様は、切羽詰まった様子で強請ったかと思うと、こちらのリアクションを待たず、目前の私に飛びついてきた。 ぎゅ、と。 真っ黒な腕で、強く強く抱きしめられる。 胴体が千切れてしまいそうなほど痛くって、息苦しくて。 だけど、それ以上に。 ミラ様が、私の『顔』を見ようとしていないことが──なんだか、うれしかった。 ミラ様の安心材料は、『ミア』の『顔』だ。 ミラ様は、『ミア』の『顔』が、自分の感情の鏡写しであることを確認して──ミラとミアが一心同体であることを再確認して、心を落ち着けるのだ。 なのに、今は──私の肩に顔を埋めて、違う極どうしの磁石のように強くくっついて、私の顔を見ようともしない。 もしかすると、今のミラ様は──私の顔が、『ミア』ではなく『マイア』に見えるのかもしれない。 『マイア』を認識したら、『ミア』がいなくなってしまう。 だから、私を見ないようにしている。 そんなふうに思えたのだ。 ……変な話よね。見ようともされていないのに、『私』自身を見てもらえたような気分になるなんて。流石に、都合よく考えすぎかしら? それでも──あぁ。 私は、生き人形失格だ。 従者は、自分の幸せよりも、主人の幸せを願うべきなのに──身の程を弁えず、夢を……欲を、持ってしまって。 そのために、ミラ様の理想を壊して。 それだけでも、とんでもない重罪なのに。ついた星を取り上げられるどころか、私自身を処分されてしまってもおかしくないほどの大罪なのに。 そんな罪を犯し、こんなにもミラ様を傷つけてしまったことが、ほんとうに申し訳ないのに──吐きそうなほどの後悔が押し寄せていたはずなのに、今は。 今は──ミラ様の中に『マイア』が残っているかもしれないことが、うれしくてしょうがない。 ずっと、ミラ様は、あの日のあの瞬間を、忘れ去ってしまったのだと思っていた。ミア様が亡くなったことを、なかったことにしたのだと思っていた。 だから、自分の隣にいるのは『マイア』ではなく『ミア』で。 ミア様が失格したことを、『マイア』の存在と一緒に忘却することで辻褄を合わせ、正気を保っているのだと。 そう、思っていた。 だけど──それは、違って。 ミラ様は、ミア様が自分を庇ったことを、きちんと知っていた──けど、ミア様にいなくなってほしくなかったから、私を『ミア』として扱うことにした。 忘れたのではなく──忘れたふり。 あの日、ミラ様は──嫌な現実から目を逸らし、見ないふりをすることを決めたのだ。閉じこめることを決めたのだ。 私が、『私』から目を逸らし、見ないふりをすることにしたのと同じように。閉じこめることを決めたのと同じように。 それなら──決して、忘れてしまったわけではないのなら。 『マイア』は、完全に消えてしまってなどいない。 ミラ様の中に、存在する。 「……、……」 疲れてしまったのだろう。ミラ様は、いつのまにか私の肩で寝息をたてていた。 ──お影様の身の回りの世話も、生き人形の仕事だ。 だから私は、眠ってしまったミラ様を起こさないよう、お召し物を替え、ベッドに運ばなければならない。 ……ちゃんと、やる。 絶対に、ちゃんとやるから、だから。 だから、今は。 「…………」 そっと、腕を伸ばし──ミラ様のドレスに包まれたその身体を、抱きしめ返す。 今は、もう少しだけ──ミラ様のぬくもりに、触れていたい。 私が犯して点した希望の灯火を、感じていたい。 そんな、どこまでも我が侭な『私』を──もう少しだけ、許してくれますか。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 𝒍𝒚𝒓𝒊𝒄𝒔 🎗か細い火が 心の端に灯る いつの間にか燃え広がる熱情 🎀私の蝶 不規則に飛び回り あなたの手に鱗粉を付けた 🎗絡み合う指ほどいて 🎀唇から舌へと 🎗許されない事ならば 🎀🎗尚更燃え上がるの 🎀🎗抱き寄せて欲しい 確かめて欲しい 間違いなど無いんだと 思わせて キスをして 塗り替えて欲しい 🎀魅惑の時に酔いしれ溺れていたいの 𝑪𝒂𝒔𝒕 🎀ミラ(cv.朔) https://nana-music.com/users/2793950 🎗ミア / マイア(cv.小日向奏乃) https://nana-music.com/users/5171643 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 𝑻𝒂𝒈 #Sooty_House #magnet #ちび
