nana

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流され、辿り着いた洞窟の奥、彼女はいた。一瞬、生気を感じられなかった、が、 俺を見た途端、虚な目が開かれた。 「ア…スト…!?」 ああ…エーレだ…。こんな姿でも、すぐ俺だって、気づいてくれた。 『エーレ、やっと見つけた…』 一体何年経ったのかわからない。ひどくやつれているけど、あどけない瞳に、その幼い顔つきは、殆ど俺が最後に見た、エーレの姿のままだった。 「う…そ…」 信じられないといった表情を、浮かべる。 そりゃそうか…。 『随分、待たせたな…』 俺も、こんな形で再会できるなんて、思わなかった。こんなにも何年も待っていてくれているなんて、思わなかった。 「ううん…」 まだ驚きを隠せないといった様子だが、 俺の言葉は、通じているようだ。 さすがはエーレと言ったところか。 エーレのやせ細った手が、そっと俺の額に触れる。 「あの後、あなたは消滅してしまった。もう私には再びあなたの命を繋ぎ止める手段がなかった…」 『そうだよ。俺は確かに死んだ。そんで、何もかも忘れて…こないだまで…ただの狼として…生きてた』 こんなにボロボロになって待っててくれたエーレを前に、罪悪感を感じる。 「何度もあなたを蘇らせようと試みた。だけど、無理だった。やがて私の魔力の影響で、各地で歪みが生まれた。私は『災厄の魔女』と呼ばれるようになった」 『うん…』 イリスやリンデから、聞いた話だ。 「あなたの元に行きたくて、死のうとも思った。何度も、何度も…。だけど、死ねなかった。私はもう私自身、世界の理から外れていたの。私を排除しようとする世界も、もう、私の魔力に太刀打ちできない」 淡々と語るエーレに、胸が締め付けられる。 一体俺は、どれだけ辛い想いをさせてしまったのだろう。一度エーレに命を救われた時から、二度と悲しませないと、決めていたのに…。 「どうやって…ここへ…?」  おそらく、エーレが驚いた理由のひとつだ。 この洞窟に入った時から感じる違和感。 ここはエーレの結界によって、外界から遮断されている。 正直俺にも、どうやってここに来れたのかわからない…。 そして、結界内への侵入者に、エーレが気づかなかったという事。 『子供に、出会ったんだ。そしたら、どんどん色んな事、思い出して…。連れてきてくれたんだ。ふたりの、子供達が…俺を…エーレの所に…』 「そう…不思議な、子たちね…」 ふたりの気配はもう、感じられなかった。 それ以上問う事もなく…。少しの沈黙の後、 表情の無いエーレの瞳から、一筋、涙が流れた。そして… 「さみしかったよ…アスト…。会いたかったよ…。。。ずっとずっと言いたかった…。…大好きだよ。愛してる。…守れなくて…ごめんね…」 押し殺していたものが決壊したように泣き崩れた顔は、昔から変わらない、エーレのままだった。愛しさと、後悔と、色んなものが、込み上げた。 こんなにも時を経て、エーレが言ってくれたのは、叱咤でもなんでもなくて。 昔から素直じゃないエーレが俺に、初めてくれた、愛の告白だった。 ドジだけど、ずっと守ろうとしてくれたのも知っていた。こんな俺を、誰よりも大切に想ってくれてるのも知っていた。 そんなエーレが俺の世界の全てで、何よりも大切で何よりも守りたかったのに… 『俺の方こそ…ごめん。ほんと情けないよな。。お前を…エーレの…心を、守れなくて、ごめん…』 少しだけ首を横に振って、エーレは言った。 「…ぎゅって…抱きしめて…ほしかった…」 正直、今すぐこの手で抱きしめたい。 けど…今の俺は…ただの狼であって… ちょっと…エーレが言うような抱きしめるという行為は難しいっ!! 飼い犬みたいに飛びつけばいいのだろうか…でも、それもなんか違う気がする。。 あ、そうだ… 『…エーレ…今のお前なら、俺を前の姿に戻せる?』 既に理から外れた存在だ。そして、その裁きも、今のエーレには断罪の執行を為す術もない。 正直、前の姿に未練はない。 むしろ、産まれた時から母親しかいなくて、その母親も俺が幼い頃に病死、半獣人として虐げられた記憶しかない。忌まわしいとさえ思った姿だ。 だけど、ただひとり、エーレが愛してくれた、俺の、姿だ。 「…アストは、死んで前の肉体を失って…今は転生して、魂だけ残した新しい命…さぁ…どうかな…やってみるね。」 エーレの顔が近づいてきて…その唇が、鼻先に触れたかと思うと…生温かい舌の感触が、口内に滑り込んできて、反射的に噛みつきそうになったけど、堪えた。 気がつけば、俺はその両腕で、しっかりとエーレを抱きしめて、懐かしい唇の感触を、夢中で貪っていた。 微かに甘い吐息を漏らすエーレが、可愛くて、愛おしくて、だけど、その閉じた瞳からはとめどなく涙が溢れてて… もう絶対離さない。そう、心に誓った。 「…はぁ…アスト、がっつきすぎ」 「な…それは…エーレの方だって…てか、いつの間に、俺…元の姿に…」 「ふふ…気持ち良すぎて気づかなかった?」 なんだかやっぱり、前のエーレとは少し違う気がする。。オトナの余裕みたいなのかましてくる。 「お姫様のキスで呪いを解きました…的な?」 「キスしたかっただけのくせに…」 「アストは、したくなかったの?」 「いや、したかったです。。」 やっぱり手玉に取られてる感。。。 「今の私は昔みたいに詠唱して魔法を構築しなくても、私自身が魔法陣のようなもの。つまり、無詠唱で魔法を発動できる」 「強ぇ…」 「だからアストに、直接魔力を流し込んだの。どうやら、成功したみたい」 そして、少し生気を取り戻したような微かに火照った顔で言った。 「おかえりなさい、アスト」 「ただいま、エーレ。ずっと待っててくれて、ありがとう」 …………………………… シクレですが、折角なのでBGMお借りしました🙇‍♀️ お借りしたBGM『想い』 シュリ様 https://nana-music.com/users/1956237 …………………………… 🌻とりあえず、ちゅうする。。。(〃ノωノ) そういうお話← ここに来て、やっと好きと言えたエーレさん。 ツンデレが過ぎませんか…? 何気に台本の1話、2話はエーレさん目線なので、今回のみアストさん目線で書いてみた。 #シュリオリジナル #シュリBGM #小説

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UTAO
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