nana

絶体絶命
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 Episode.4 「信じた理由と操り人形」後編  フィオナはずっと、答えを探している。  数年前、後方支援部隊が襲撃を受けた際に。味方の少女を守るために、敵兵を殺した。少女の目の前で。  あの時の少女の怯えた顔を、フィオナは忘れない。  きっと彼女に悪意はなかったのだろう。だけど、正義感の強かったフィオナの心に、怯えたような彼女の視線は確かな傷と迷いを与えた。  命令に従って戦うことが、敵から国を守るために戦うことが正しいのだと信じていたけれど、果たしてそれは本当に正義なのだろうか、と。  その答えをずっと探し続け、正解が分からないまま戦争は終わってしまった。  それでもなお、フィオナは正解を求め続けている。  願いが叶うという月の塔に辿り着いたフィオナが最初に目にしたものは、かつて自分が守った少女だった。  見覚えのある青髪を揺らし、呆けたような顔をしている。  「お久しぶりです」  静かにそう告げた。何を言われるのか、怖かった。仕方のなかったこととはいえ、彼女にとって自分は人殺しなのだ。何を言われても否定出来ないと思った。  「あ……」  言葉より先に、彼女の瞳から大粒の涙が零れた。軽い衝撃と共に、そのまま勢いよく抱きつかれる。こんな反応をされるなんて、予想もしていなかった。  困惑したフィオナに気付いたのだろう、照れたような泣き笑いを浮かべたリタは、ようやく言葉を紡いだ。  「あの時、私のことを助けてくれて、ありがとうございました。ずっと、これが言いたかったんです。あの時、初めて戦場を見て、びっくりして、何も言えなくて……ごめんなさい」  フィオナから身体を離したリタが、深々とお辞儀をしながらそう告げた。  お礼を言われるだなんて、思ってもいなかった。謝られるなんて、思ってもいなかった。  フィオナのしてきたことは、間違っていなかったのだろうか。桜色の瞳から涙が伝った。  「私、もう一度あなたに会いたくて……それで、月の塔に来て願ったんです。こんなに早く叶うだなんて、思ってもいなかったけど……」  続いたその言葉に、息が止まった。  月の塔で願いを叶えるには、代償が必要だ。フィオナはここに来るまでに会った紅い瞳の人形に、そう聞いていた。  願いを叶える代償は、願った本人の寿命。  即ち、リタはフィオナとの再会を願ったがために、死んでしまうということだ。  どうしてそんなことを願ったの。そう聞こうかと思った。だけど言葉にはならなかった。  フィオナの表情から何かを察したのだろう、リタが言葉を続けた。  「良いんです」  そのまましなだれかかるようにして、フィオナに体重が預けられる。  「私は、願いが叶ったから、それで満足なんです。だけど……最後に、お願いがあって」  紡がれる言葉が途切れ途切れになっていく。  「彼女を……さっき、飛び降りようとしていた、彼女を……助けてくれませんか。昔の、私と同じように。お願い、です」  発せられる言葉に、軋むようなノイズが混じった。分かった。力強くそう答える。その言葉に安心したのか、リタは静かに目を閉じた。  人間とは違って、動かなくなってもその身体の重さが変わることはない。だけど彼女の生命の終わりが、やけにはっきりと感じられた。  自殺を止められ、突然始まった再会劇を見せられている間。ジゼルの意識はずっと、闇に食われているように、霞に支配されているように。ずっとずっと、ぼんやりとしていた。  ただ分かったのは、ああ、蝋燭に願えば死ねるのだな、ということだけ。  それ以外のことは、どうでも良かった。  飛び降りるのと蝋燭に炎を灯すのならば、後者の方が容易い。  フィオナが自分の方に向かってくるのには目もくれず、ジゼルは蝋燭に近付き――  ――硝子の割れるような甲高い音が、狭い空間に響き渡った。  リタの死を見届けたフィオナが、最期に託された願いを叶えようとジゼルの方へ駆け。  甲高い音に振り返って、まず目に映ったのは紅だった。世界の全てを焼き尽くすような、燃えるような紅。  軍服を着た紅い人形が、喜色を浮かべ、鮮やかな黄金の瞳でこちらを見据えていた。手には可愛らしい容姿に不似合いの大きな鎌を持っている。月灯りが反射して銀色の光の筋が伝った。  痛いくらいの殺気。軍人としての直感が告げた。  恐らく彼女は、フィオナ達を殺そうとしている。    少女が慣れた動作で鎌を振りかぶる。大仰な動作。その隙を狙い、空いた彼女の左胸に向かって銃弾を撃ち込む。聞き慣れた発砲音。リタを守った時と同じ音。  確かに攻撃は通ったはずなのに、微塵も動揺がなかった。硝煙の匂い。鎌の長い柄の部分で足を払われそうになり、間一髪で避ける。  今の一連の動作で理解した。闖入者の狙いは、フィオナではない。ジゼルだ。  そう認識すると同時に、フィオナは動いていた。ジゼルの方へ向け、バランスを崩しかけた身体を投げ出す。  グシャ、と何かが潰れたような音がした。フィオナの腹部が鎌に切り裂かれ、真っ二つになりかけていた。意識があるのが不思議なくらいに、酷い損傷だった。  最期の力を振り絞り自らの願いを伝えた、リタの泣き笑いがフラッシュバックする。  フィオナは、約束を守れたのだろうか。願いを叶えられたのだろうか。  闇へと誘われる意識の中、ジゼルの無事を確認するため、閉じようとする瞼をこじ開ける。  最期に見えたのは、塔に火を放ち、窓辺から飛び降りようとしているジゼルの虚ろな笑顔だった。 ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ 🌼朱らむ空が 今日はこんなにこわい 知らなければ幸せでいられた? 🖤暖かい灯火 ひとつまた落ちる ✉こうやって知らぬ間に失ってた あの優しい声  🖤信じてしまったの 僕にはそれだけだった 🌼心なくせば 楽になれるなんて そんなの嘘 そのまま 壊れちゃう ✉甘い闇 嘆いても 助けは来ない ✉🖤🌼愛してくれなんてね 今更 動け もつれる足 この檻を抜けろ 明日を掴むために 絶望を駆け抜けろ ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ 🌼フィオナ(cv.Karin) https://nana-music.com/users/8971783 🖤リタ(cv.月瀬ひるく) https://nana-music.com/users/8587910 ✉️ジゼル(cv.いろは) https://nana-music.com/users/4491955 ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ #十六夜マリオネット SS:柚乃

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