nana

Calc.
92
8
コメント数0
0

 Episode.4 「信じた理由と操り人形」前編  願いが叶うと噂されている、海辺に立つ月の塔。  その天辺に、二体の人形がいた。  リタが塔の頂上に辿り着いた時、既に一人の人形が窓辺に佇んでいた。  見たことがない服を着て、何の感情も窺わせない乾いた瞳でリタを見据えている。  「……あなたも、叶えたい願いがあるんですか?」  リタよりも少し背の低い、淡い緑髪を持つ人形に向け問いかけた。そうでもしなければ、今にも消えてしまいそうだった。感情のない瞳というものは、不安をかきたてるらしい。  目の前の人形――ジゼルは小さく頷き首肯した。  彼女にもきっと、何かあったのだろう。そう思い、リタは目の前に広がる蝋燭の中から手近なものを選び、そっと炎を灯した。  勢いよく燃え上がった炎が周囲を明るく照らす。光を見たのはいつぶりだろうか。  大戦が終わってから、太陽が顔を見せることはなくなってしまった。あるのはただ、灰に煤けた曇り空か、世界を飲み込むような暗闇を灯す星空だけ。  人間がいなくなり、街灯りも消え。光に触れる機会がなくなっていた。  そんな暗闇の世界で、リタが月の塔を目指したのには理由がある。    リタは大戦中、後方支援の役割を担っていた。負傷者の救護であったり、物資の運搬であったり。戦うために作られていないリタは、当然戦場に立ったことなんて一度もなかった。  だけど、何が起こるか予測できないのが戦争というもので。  ある日、後方支援部隊は敵襲を受け、壊滅した。リタを使っていた人間達もほとんどが殺された。  どうするべきか分からずに、殺されそうになっていたリタは、ある人形に救われた。  助かることを諦めていたリタの前で、風になびいた紫の長髪を一生忘れない。  凛とした瞳の、戦うために作られた、兵器の人形。  彼女はリタを殺そうとしていた敵兵を殺し、リタのことを逃がしてくれた。  だというのに、リタは。あろうことか、彼女に怯えてしまったのだ。  初めて見る本当の戦場と、容赦なく人を殺せる人形を目にして。感謝より恐怖の感情が勝り、お礼も言わずに逃げ出してしまったのだ。  数年経った今も、そのことをずっと後悔している。  叶うことなら、もう一度会ってきちんとお礼を言いたかった。命を救ってくれたことに対して。助けてくれたことに対して。  リタの希望になってくれたことに対して。    その願いを叶えるために、リタは塔を訪れた。目の前の蝋燭に願いをかける。  「私を助けてくれたあの人と、もう一度会えますように」  願い事を終えて顔を上げると、先程の人形が窓から身を乗り出そうとしているのが見えた。その光景を認識すると同時に彼女の方へ駆け寄り、その手を掴む。  「何してるのっ……!?」  碧色の両眼に、ぼんやりとした光が灯った。    ジゼルは、弱虫だ。  元々は戦うために作られた人形なのに、設計ミスのせいかジゼルはずっと臆病だった。  そして戦場に送り出されたジゼルは逃げ出した。与えられた任務を放置して。  そして、そのせいで共に戦っていた親友が死んだ。  ジゼルが逃げ出したことで崩壊した戦線を立て直そうとし、その結果命を落としたらしい。  後悔した。どうして逃げ出したのだろうと、己の弱さを呪った。  それでもきっと、ジゼルは逃げ出してしまうのだろう。もし時を戻せたとしても、同じことを繰り返すのだろう。自分のことは、自分自身が一番よく分かっていた。  だから、死ぬことでしか救われないと思った。許されないと思った。  はやく親友のところへ行って、謝りたかった。  人形は、自分の武器を使っての自殺が許されない。そんなことは出来ないように設計されている。  だから、死ねる場所を探した。どこでも良かった。確実に死ねる場所なら、どこでも。  だけど、それは知らない人形によって止められた。飛び降りようとした身体は宙を舞わずに現実に引き戻された。  どうして止めるのだろう。必死に自分に向かって紡がれる言葉を聞きながら、ジゼルは思った。 ジゼルは、はやく消えたいだけなのに。  何を言っても届かない。そう思った。どれだけ言葉を紡ごうと、彼女の心には何も響いていないようだった。  それでも止めたくなかった。リタの命は知らない少女に救われた。  だから、今度はリタの番だった。貰ったものを、返したいと思った。どうすればいいのかは全く分からないままだけれど――  コツ、コツと。硬質な足音が、塔に響いた。リタの方へと近付いてくる。誰かが、塔へと続く階段を上っている。  階段と部屋を隔てる扉が開き。紫の髪が風になびいた。  「え……?」  時間が止まったかと思った。リタのことを救った少女人形が、目の前にいた。  願いが叶うという月の塔の噂は、本物だった。 ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ 🌼すれ違いは結局運命で 全ては筋書き通りだって ✉悲しみを紛らわせるほど 僕は強くないから 🖤弾き出した答えの全てが 一つ二つ犠牲を伴って ✉また一歩踏み出す勇気を奪い取ってゆく ✉🖤🌼いつか君に捧げた歌 今じゃ哀しいだけの愛の歌 風に吹かれ飛んでゆけ 🌼🖤僕らが出会えたあの夏の日まで ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ 🌼フィオナ(cv.Karin) https://nana-music.com/users/8971783 🖤リタ(cv.月瀬ひるく) https://nana-music.com/users/8587910 ✉️ジゼル(cv.いろは) https://nana-music.com/users/4491955 ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ #十六夜マリオネット SS:柚乃

partnerパートナー広告
music academy cue
0コメント
ロード中