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君が夜の海に還るまで
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Episode.3 「褪せる記憶と贖罪人形」後編  セレ―ナは、空っぽだった。  罪を償うためには、自分が死ぬしかないと思っていた。  そうすることでしか、自分の犯した罪は赦されないと思っていた。  だけど、変わることのないと思っていたその考えは、変わってしまった。  大戦後に助けた敵国の人形、レイアによって。  彼女は叶えたい願いを叶えるために月の塔へ向かうと言った。それに着いてきてほしいのだと頼んできた。  彼女がどうなろうとセレ―ナには何も関係ないはずなのに、どうしてか断れなかった。  きっとレイアが、セレ―ナと同じ罪を重ねた人形だと薄々気付いていたからなのかもしれない。  最初は、彼女を月の塔へ送り届ければ、すぐに死ぬつもりだった。はやく楽になりたかった。救われない穢れたこの身を救って欲しかった。  だけど、レイアはセレ―ナを変えた。  二人きりの小さな旅の途中、様々な話をした。大戦中の話もした。それぞれの抱えた罪の話もした。レイアはセレ―ナと同じだった。  けれど、レイアはセレ―ナと違って。許されるためには生き続けなければならないと考えていた。  死んで欲しくないだとか、一緒に生きようだとか。そういったことを、直接的な言葉で告げられたわけではない。    だけど、セレ―ナの心に巣食っていた諦めと死への憧憬が、レイアと話すことで少しずつ溶けて消えていった。  レイアの隣でこれからも生きてみたい。そう思えるようになった。  だから、セレ―ナも願おうとしたのだ。  変わることのない日々を。レイアと二人で過ごした、静かで尊い日々の不変を。  先に塔にいた人形、アイリスが炎に願うのが見えた。退廃的な世界に似合わない鮮やかな炎が辺りを包む。  大戦中であれば、他の人形が目に入った時点で警戒した。セレ―ナにとって、生きることは命を奪い合うことだったから。  だけど、今はもうそんな必要なんてなかった。相手もこちらに微塵も興味がない様子で、殺意も感じられなかった。    ――だから、大丈夫だと思っていたのに。  セレ―ナはこれから、レイアと二人で歩んでいくのだと、信じていたのに。  願い終えた桃髪の人形が振り返る。同時に短い発砲音がして。衝撃が走った。  銃声は鳴りやまない。二発、三発、四発。連続でセレ―ナの身体に傷を付け、五発目で左肩に穴が空いた。  「レイア」  愛おしい少女が、何が起こっているのか分からない表情で、澄んだ灰色の瞳をこちらに向けている。    逃げて。    その言葉が声帯を震わせる前に。次の銃弾がセレ―ナの身体に穴を開け。  何が起こったかも分からないまま、言いたかった言葉を伝えられないまま。  セレ―ナは、静かに事切れた。  記憶の中の彼女は、いつでも優しかった。それはアイリスの都合の良い幻想だった。  アイリスは願いを叶え、すべてを思い出した。前線で戦い命を落とした、あの人の最期の言葉を。  「……お願い、国のために……最後まで敵を殺してね」    アイリスは、その言葉を忘れてしまっていた。それは許されないことだった。  彼女は最期まで、国のために戦おうとしていた。敵を殲滅しようとしていた。だけど、その願いは、アイリスのせいで叶わなくなってしまった。  ならば、アイリスが代わりに叶えなければ。それがアイリスのすべきことで、アイリスの生きる意味なのだから。  蘇った記憶を元に、塔の内部にいた少女人形二体を見据える。薄緑の髪を持つ人形は、かつて戦った敵国と同じ軍服を着ていた。  殺すべきは彼女だ。何の疑いもなくそう思った。  忘れてしまっていたあの人の最期の願いを叶えなければ。頭にあるのはそれだけだった。    大戦が終わった後も腕は鈍っていなかったようで、正確に銃で殺すことが出来た。  呆然と立ち尽くしていた長い水色髪の少女が、殺した人形に駆け寄るのが見える。  駆け寄る、ということは。味方なのだろうか。  そんな冷静な判断と共に、次の弾を装填して撃った。死体を抱えた少女は避けようともしない。彼女のことも、殺さなければ。そう思い同じように発砲しようとし、それよりもターゲットの少女人形が窓辺に駆け込む方が早かった。  アイリスが視界に映っていないかのような、空っぽの瞳。  視線が一瞬アイリスの方に投げかけられ、発砲より先に少女は窓から飛び降りた。少女の死体を抱きかかえたまま。  この高さから飛び降りれば、どれだけ耐久性の高い人形でも、死んでしまうだろうに。   数秒後、遠くでぐしゃりと身体の潰れる音が聞こえた。  アイリスの身体も変に重鈍い。自分の意志で身体が動かない。窓から見える黒い海に意識を持って行かれそうになる。  「代償なのかもしれないな」  素直にそう思った。何の代償も必要なく、願いを叶えるなんて都合の良い話があるわけがない。  アイリスは、最期の彼女の願いを、果たすことが出来たのだろうか。  自分自身の願いを、叶えることが出来たのだろうか。  叶っていれば良いなと願いながら、アイリスは静かに目を閉じた。  冷たい風の中、レイアの身体は宙を舞った。セレ―ナの亡骸を抱きかかえて。  死ぬことで許されたい、というセレ―ナの願いはきっと叶ったのだろう。  セレ―ナの隣で生き続けたいというレイアの願いは、叶いそうにないけれど。  大切な人と一緒に死ねるのなら、そう悪くはないのかもしれない。  レイアは、贖罪なんかよりも、ずっとずっと大切なものを見つけた。    レイアはもう、空っぽではなかった。 ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ 💍いつか僕も夜の海に還るから、 その時まで さよならをしよう 🌈「嫌いなあなたの とても綺麗な声を 忘れてしまえたら いつかは救われるかな 💠嫌いなあなたと 笑い合いたいと思えば それはきっと呪いのように わたしを縛るのだろう」 💍震える手で手紙を書いた 🌈その喉はもう二度と震えないのに 💍💠🌈いつか君が夜の海に還るまで、 💠僕の声を覚えていて 💍💠🌈いつか僕も夜の海に還るから、 その時まで、さよならをしよう ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ 💍レイア(cv.07) https://nana-music.com/users/96726 💠セレーナ(cv.篠宮.) https://nana-music.com/users/7307172 🌈アイリス(cv.しぃな。) https://nana-music.com/users/1278084 ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ #十六夜マリオネット SS:柚乃

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