nana

「蒼の探索」(しろ)
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海底探索が何往復も続いて、夜が訪れた頃。 しろちゃんが、夜行性の生物の溜まり場で“それ”を見つけた。 杖を携えた勇壮な姿、おそらくは件の王様を模した像のようで、写真を通してみても、時間経過や保存されたコンディションのわりに傷みが少ない。機械の彼が、愛おしそうに目を細めたのを見て、私は、彼が毎日像の世話をしていたのだと知った。 不意に、彼が口を開く。 「良かった、王様が、お一人になられていなくて」 「優しいんだね」 「......王妃様が愛された方ですから、私にとっても大事な人です」 彼の横顔は、これまでに見たどんな表情より穏やかで、だからこそ私の胸には、小さな引っ掛かりができた。 確かに王妃は彼を大事にしたかもしれない。けれど、結果的に彼は先の見えない深海で、生まれた時から荷を背負い、自分で愛を補完して長らく過ごしてきたのだ。 少しだけ近くに届いた、彼という存在が、急にまた手の届かないところに行ってしまった気がして、聞いていいものかどうか躊躇うよりも早く、聞かずにはいられないことだった。 「与えるばかりで、それでいいの?君が愛しているのは、いったい誰なの?」 “意地悪だったらごめん”だなんて、相手を気遣いたいのか自分を弁護したいのかわからない言葉に、自己嫌悪で眉が下がったけれど、彼はそのまま言葉を抱いて佇んでいた。 帰ってきた答えはとても冷静で 「まだ、愛を見つけていません。まだ、愛という曖昧模糊なヴェールの向こうを見ていないのです」 たったその一言だけ。 分かっていたはずだ、彼の本質は、機械であると。 私は、いったい何を期待していたのだろうか。 友達に、そんな女やめときなよって言うようなノリで、距離感で...。 ーーーーーーーーーー 王様の像の画像では、何も思い出せなかったみたい。 少しだけ“彼”の考えが知れた。

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