
後悔と哀の隙間
BGM:雨とペトラ しっとりver バルーン
雨は嫌いだ。 空が泣いているようだから。 雨音の向こうに、自分を責める声が聞こえる気がするから。 お前が泣かないから代わりに泣いてやっているのだ、と。 6月中旬。 俺は休みを取って、一人で墓参りに向かう。 自分が手にかけた家族の墓参りだなんて、よく考えたらおかしな話だろう。 しかし、毎年家族の命日が近づくと微かに残る良心の呵責というやつに苛まれるのだった。 そして不思議なことに、命日には必ず雨が降るのだ。 それは今年も例外ではなかった。 他に人の気配がしないことを確認して、皐家の墓前に立つ。 墓前には毎年恒例の“果たし状“と柏餅が入ったビニール袋が置かれていた。 こんなものを用意している暇があったら掃除をしておいてくれればいいのに、と思いながら雑草だらけの墓を見やる。 墓参りに来たところで、何を悔いるでも懐かしむでもない。 ただ淡々と墓周りの掃除を済ませて花を供える。 この日持ってきたのは、妹が好きだった花だ。 いつもは無難に墓参り用の花を買うのだが、今日立ち寄った花屋で不思議と目に入ったこの花を思い切って買ってきてみた。 『見て、お兄様の髪と同じ色…とても綺麗なの』 そう言って妹がその花を贈ってくれたことがあった。 照れくさそうに頬を赤らめながら、その花をそっと手渡してくれた。 そんな妹が愛おしかった。 でも、妹は俺を嫌っていたらしい。 俺には愛奏(アカネ)という妹と、柚綺(ユキ)という弟がいた。 弟妹と言っても、どちらも正確な兄弟ではなかった。 愛奏が初めて実家へ来た日、父親と愛奏が話しているのを俺は偶然耳にしてしまった。 『葵羽くんと兄妹になりたくない』と。 理由は聞けなかった。 足が自然と動いて、その場を立ち去ってしまったから。 その日から、愛奏は“妹“に、俺は“お兄様“になった。 そんな記憶を掘り起こしているうちに、ふと気づけば供えたばかりのピンクの紫陽花は雨に濡れていた。 愛奏はピンクが良く似合う。 そう思って、よくある青や薄紫のものではなく少し珍しいピンクの紫陽花にした。 『元気な女性』『強い愛情』など、ピンクの紫陽花は花言葉も温かい意味のものがある。 自分とは対象的で皐家の陽だまりのような存在だった妹を思い出し、俺は愛らしい紫陽花の花をそっと撫でる。 そして、忘れないうちに…と“果たし状“と柏餅の入ったビニール袋の外側についた雨粒をハンカチで拭いてから一旦カバンに仕舞い込み、替わりに一枝の白い紫陽花の花を置いて。 この“果たし状セット“を早朝に置いた彼は、仕事帰りに律儀にまた墓前に来て、俺が“果たし状セット“を持ち帰ったかどうかを確認しにきているらしい。 一度だけ、急な呼出がかかって仕方なしにそれを置いて帰った年があった。翌年はその恨みが込められていて、“果たし状“の内容が例年の2倍に膨れ上がっていた。 “果たし状“だなんて名ばかりで、内容はほとんど近況報告だ。昨年は警察に就職したから首を洗って待っていろと書いてあったが、今年は何が書いてあるのか。 これも毎年恒例で、墓前で“果たし状“を小さな声で読み上げる。相変わらずの汚い字で解読に手こずるが、家族も内容が気になるだろうからと思い、持ち帰る前に読み上げることにしている。 “果たし状“の終わりはこう締め括られていた。 『俺がアンタを捕まえるまで死ぬなよ。勝手にくたばったら俺も愛奏もアンタを許さねぇぞ』 あんなに小さかった弟が一丁前にこんなことを書くようになったかと鼻で笑いながら、俺は“果たし状“を再びカバンにしまって帰路につくのだった。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 【お題】「雨音」「花言葉」「片思い」 【紫陽花の花言葉】 「冷淡」「無情」「辛抱強い愛情」「家族団欒」 (青):「あなたは美しいが冷淡だ」 (ピンク):「元気な女性」「強い愛情」 (白):「寛容」 【出演】皐葵羽、冬野柚綺 【制作】悠生 企画 CROSS×CHAIN様 https://nana-music.com/users/8832729 皐葵羽🕊↓ https://nana-music.com/playlists/3359953 冬野柚綺❄↓ https://nana-music.com/sounds/056ac439 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ #バルーン #雨とペトラ #原曲キー #ぴよのナウい伴奏 #しっとりver
