nana

「囚われの文化財(秋那兎)」
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「いやあ〜待ってました、あるよあるよ!そりゃあもう、君にピッタリのすごく稼げるいい仕事がさぁ!」 「久々に聞くと胡っ散臭いな、その台詞......我ながら、よく今まで引き受けてきたもんだわ」 じゃあやめとく?と、口を尖らせて求人の紙を引っ込めたサトウさんに、私は、そんな事心にも思っていないんだろうからとっととよこせと、右手を突き出した。勿論、サトウさんはサインだけ書けばもう完成してしまう契約書と一緒に、それを返してきた。そうこなくっちゃ、調子外れだ。 まあ自分で言うのもなんだが、数多の面倒ごとをくぐり抜けて来た猛者であるからして。治験のバイトの一本くらいなんとかちょろまかしてみせるって、意気込んだはずだった。しかし、私は今現在、蛍光ピンクの液体を片手に喉を鳴らしている。 「......やばい、すんごい想定外」 いざ登場したお薬を前に、俄然、興味が湧いてしまった。自分の悪いくせだ、好奇心に抗えない。契約書には身体に大きな変化を生じる可能性があるとは書いてあったけれど、短期間の間性転換する薬なんて、夢みたいな話じゃないか。とりあえず、飲むと仮定しよう。もしもの事態に備えて、研究員の中にタナカさんとハナコちゃんが待機しているから、倒れても多分一命は取り留める。問題はその後だ、治験の報酬に加えて何かよっぽどの金になる効能がこれで得られるか? 「......。」 答えは、Yesだ。 効果が現れるまで別室で経過観察をすると告げられて、タナカさんとハナコちゃんに連れられ、待合室のソファでアンケートを埋める間、なんとなく体の節々に違和感を感じていた。伸びをするたびに少しずつ、伸びる身長。私の計画は、この調子なら多分、稼げるコンテンツを錬成する。 「秋那兎さぁん、一体何するつもりですか、あんなに念入りに袖から液体を逃すチューブ仕込んだのに......」 「自由に使える男の身体が手に入るんだよ?決まってんじゃん、コス写でポートレートを撮る。乙女のニーズに応える自信なら大アリだから」 「......嫌な予感がします」 「お願い、そのついででいいから、そのまま関西メガネくんと絡んで。そのあとタナカ、あっきー総攻めで頼む、切実に」 「あ、その手があったか!!」 「ありません、いけません」 全力で首を振って立ち上がった172cmのタナカさんの真向かいで、今だけ178cmの私は、なだめるようにポンポンと頭を撫でてやった。 ーーーーーーーーーーーー 秋那兎さんが、治験のバイトで50万、“具現化した乙女の欲望、奇跡のコス写集”で150万、合計200万稼ぎました。

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