
「Happy starting🌱」(テディxケネディ)
秘密結社 路地裏珈琲
ふたりの恋には、掟がある。 ひとつ、デートは二人っきりで、夕陽を見送ってから。 ふたつ、待ち合わせはお静かに。 みっつ、キスは優しく。 強風に煽られて、やっと甲板へと降り立った俺に、ケネディが飛びついてきた。2週間しか一緒に居なかったし、3日会えなかっただけなのに。もう二度と逢えないかもしれなかった俺たちは、奇跡みたいな腕の中の存在に、泣きそうな笑顔で頬を寄せ合う。乾いた冬の風の匂いがする彼女と、春っぽい土の香りを連れてきた俺に、ようやく幸せが約束された瞬間だった。 「......もう喋っていい?」 「だめ、人の気配がする」 「しないよ、だって私、テディが来る事、秘密にしておいたもん」 「ケネディ、俺に君の返事を届けてくれた“イケメンのお兄さん”を甘く見過ぎだよ」 「イケメン、の?ちゃんと手紙はポストに...」 あっと口元を抑えて振り返った彼女は、すぐに分かっただろう。沈みかけの夕陽が炙り出した、甲板の樽や空箱、よくわからない機材から伸びる影は、浮き足立って揺れる幾つもの人の影で、バレているやらいないやら、一体どっちのつもりなのだろう。身を寄せ合って、くすくす笑っているそれは、俺とケネディの恋の続きを邪魔するつもりはないようで、俺にはとても愛らしい妖精さんか何かに見えていた。 彼女は、やっぱりお姫様だった。大事に大事に愛されて育ってきた、彼ら秘密結社のお姫様。まあ、つまりは、とんでもない女の子に恋をしてしまったってこと。俺みたいなモノを“餌付け”する時点ですでにそんなことわかり切っていたんだけど。毎晩思い描いていた彼女の、本物を腕にした今、やっと実感が湧いてきたのだ。 「これは責任重大だなぁ」 「まだ引き返せるケド?」 「まさか!しっかり落とし穴に突き落としといて、それ言う?」 ちょっと借りるね、と叫んで、俺は彼女を抱きかかえ、甲板から勢い良く飛び降りた。もうじき彼女は旅に出る。だから、まだ見せたことのなかった大きな羽で、もうじき上ってくる赤い月を見に散歩に向かおう。風の音をBGMに、街の外れで瓶ジュースを乾杯するんだ。そして、リングプルの指輪をはめて、彼女になって下さいっておねだりして、キスを交わしてハッピーエンド。もうお互い答えはわかった上でのプロポーズごっこなんて、照れくさいけど、許してほしい。目に耳に、僅かばかりお揃いの記憶を残して、また次に逢える日まで、俺達は月の満ち欠けを毎晩数えなくっちゃならないんだから。 「テディ」 「なに?」 「......呼びたかっただけ!」 風で聴こえないふりもできないこの距離で、俺は今日目一杯、彼女に好きを伝える決意を固めた。 ーーーーーーーーーーーーー 吸血鬼の青年テディと、ケネディちゃんが恋人になりました。 今後の展開に影響します、末長くお幸せに!
