
一人用声劇台本『ぼたん鍋』
台本.くらげ/演者.
#くらげの台本 #十二支台本 【前書き】みかんさん主催の十二支台本企画に参加、執筆しました。担当干支は亥。尺が足りず、前後編に分けられたBGM無し台本となります。 【企画ページURL】https://nana-music.com/sounds/0539e1fe 利用される際は関係者各位のプロフィールや作品キャプションに目を通し、利用規約があればそれに従いましょう。本作については特にありません。 【以下前編】 『ぼたん鍋』 降り積もる雪が音を吸い、シンとした晩のこと。一軒のあばら屋で男と老爺が鍋を囲んでいた。大きい獣でも獲れたのだろうか、具材は肉ばかり。 「歳をとると脂こいのは」 そう言って、箸を握りすらしない老爺と頻りに奥の部屋の戸を見る男。二人はあばら屋の主人と客の関係にあった。 「すまないな。見ず知らずの己(おれ)を泊めてもらうばかりか、鍋まで馳走になって」 「情けは人の為ならず。この辺りは雪深いですから”土地勘が無く迷った方などは、何に代えてもお助けするように“との、我が家の古くからのしきたりに従ったまでで。全て私どもが勝手にしたこと、どうか懐を痛めないでください」 「それはできぬ。実はな主人。己(おれ)は道に迷った末にこの家を訪れたのではない。友人とその知人から“変わった鍋がいただける”と聞いて訪ねたのだ」 【以下後編】 「桜鍋を食べた友人が言うには娘が三人、紅葉鍋を食べた知人が言うには娘が二人居たそうだが、俺が来た時には先ほど主人と共に奥に引っ込んだきり戻ってこない一人だけ。相違点はあれど、代価を受け取らない理由は一致している。家違いでしたなんてことはないだろう。 見たところ、貴方は足を悪くしていて、そのせいか暮らしぶりも良くないようだ。前に世話になった二人の分も含めて受け取ってはーーわかった、わかったよ。そう険のある顔をされるな。ところで、これは何鍋だ?」 「ぼたん……」 「牡丹鍋か。臭い、固さ。己(おれ)の知っている牡丹鍋とは何から何まで違う。なるほど変わっている。ああいや、こう言った方がいいか。美味しい!こんなにも美味しいのだから、娘さんも食べたらいいのに」 「食べられませぬ、娘には。ぼたんには、もみじには、さくらには。貰い手がついてしまいましたから」 シンとした晩のこと。(『ぼたん鍋』/了)
