「幸せの青い蜜蜂」(星干し2)
秘密結社 路地裏珈琲
「幸せの青い蜜蜂」(星干し2)
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星干しさんのアンサー↓
https://nana-music.com/sounds/0514ff0d
「これ、は.......」
「青い、蜂?...い、いやどう見ても」
たどり着いた底は谷のような岩盤質の空間で、洞窟が奥へ奥へと広がっている。そこで淡い青を発光させながら咲き乱れる、かすみ草のような花。これがまさに、学者たちの言っていた群生地に違いなかった。しかし一点だけ、大きくこれまで思い描いていた風景と異なる現実が、突きつけられている。
花から花へと飛び交う、手のひらサイズの人形のようでいて、美しく透き通ったガラスの羽を羽ばたかせる、青い綿毛のドレス。
「妖精...!!!!」
星干しの声に甲高い隙間風みたいな不協和音がそこかしこであがり、妖精たちが慌てふためき洞窟の奥へと散ってゆく。数人、よろよろと力なく地に落ちて、仲間がそれを引き上げようとしたけれど、か弱い腕は引き込まれ、そのまま一緒に落ちていってしまった。
「待って、私たちは何もしないわ!怪我してるんでしょ、応急手当ての心得があるの、どうか触れることを許して!」
言葉は通じているのだろう、恐怖で泣きそうだった手負いの彼女は、予想外の呼びかけにぽかんとして、ヒビの入った羽をゆっくり止めた。
そこらの様子をうかがいながら、サトウがゆっくり花に触れ、慎重に写真で切り取ってゆく。よく見れば枯れかけの花が多く混じり、環境状態はじりじりと入り口から悪化しているように思える。踏み荒らした地面の跡と怯える妖精から、星干しは瞬時に状況を察し、膝をついて手を上げて見せた。
「ごめんなさい、私の同種がきっと非礼を働いたんだわ。代わりに、お詫びさせて」
そっと差し伸べた空っぽの手のひら、指先に、妖精の柔らかな手が触れる。
青い蜂蜜には幸福感を少しだけ増幅させる作用があること。彼女たちの住処は密猟者に狙われ、長い間青い蜂に姿を変えてずっと逃げ続けてきたこと。青い花は彼女たちの歌に誘われ生えてくる特別な植物、だけれどついに住処がこの洞窟だけになってしまい、花も絶滅に追い込まれていること。
全てを語って泣き出してしまった妖精を、そっとハンカチで包み、星干しが立ち上がった。
「サトウさん、得意分野でしょう...人を脅すための、とびきりの悪知恵を出してください。私は、ここを守るための準備に取り掛かります」
(続)
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