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鶯丸  Bad End1
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 私は、鶯丸の肩越しに見える扉――つまり、外へと通じる扉を見やる。外、という言葉に惹かれた。あの扉の向こうに広がっているのは、私が求めている「外」ではないのかもしれない。そうだとしても、ここで立ち止まっているわけにはいかない。 「鶯丸、外に出るわよ」 「あぁ、わかった」  彼は簡単な返事をして、私のあとを歩く。扉までは誰とも何とも遭わずに辿り着いた。ほっとする反面、寂しく思う。他のみんなはどうしたのだろうかと考えながら、扉を開けた。  ――そこには本丸のなかと同じ、黒い瘴気に満ちている光景が広がっていた。辺りは暗い。月も出ておらず星も見えないので判別は難しいが、恐らく夜なのだろう。そこは、私の求めている「外」とはだいぶかけ離れた場所だった。 「ここは……、中庭か」 「……まあ予想はしていたけれど。少し期待していた分、やっぱり堪えるわね」  まともな刀剣男士が傍に居てくれているため、まだ平静でいられるが、やはり恐怖心と焦燥感はぬぐえなかった。むしろ、どんどんそれを煽られているような気さえしてくる。  ――しっかりしなくちゃ。私は戻りたいのでしょう? だったら、こんなとこでウジウジしてらんないわよ!  私は自分で両頬を叩き、自分を奮い立たせようとした。 「……よしっ!」 「――ふっ……」  気合を入れたところで、上から声が降ってきた。へ、と間抜けな声を上げて先ほどの声が聞こえた方を向こうとしたとき。 「大丈夫だ。俺がいる」  その言葉と共に、頭に心地良い重みを感じた。私はまた驚いて今度こそ彼を見上げると、彼はこの場に似つかわしくない爽やかな笑みを浮かべている。心が暖かくなって、私も無意識に笑顔になっていた。 「えぇ……ありがとう、鶯丸」 ◇ 「――ここも収穫なし……ねぇ、鶯丸。そっちは?」  中庭を探索し始めて悠に数時間は経っていた。時計は持っていないけれど。随分長いことこの広い中庭の色んな所を探索していたが、未だに何も手掛かりになりそうなものは無い。もちろん、脱出できそうな扉や、こういう状況にありそうなゲートの類も。もう自分で思いつくところは全て踏み入れた。あとは手分けしての探索を任せていた鶯丸の結果次第だった。 「あぁ。すまないが、こちらも何も見当たらなかったな」  鶯丸はそう言いながら、縁側に座っている。普段「休み休みやるもんだ」と言って畑仕事をサボったりしている彼。いつも通りなその姿に、少しだけ怒りと呆れが沸いた。 「……早々に諦めたんじゃないでしょうね?」 「まさか。一通りは見て回ったぞ」 「…………」  ……それ、「見た」だけでは?と言いたくなる喉を鳴らし、言葉を飲み込む。「さて、次はどうする?」と彼に聞かれたためしばし思考を巡らせ、他のところを探すしかないと結論を出した。 「ほら、ちょっとだけ扉が開いてるお部屋があったでしょう? 次はそこを探索しましょ」  私の言葉に、分かったと頷く鶯丸。それじゃあ行くわよと、最初に中庭に出た扉に足を向けたときだった。 「主!!」 「えっ、なに――」  いつもの彼からは想像もつかないような、焦りと殺意の篭った声が聞こえた。その声に驚き、振り向こうとした瞬間に耳をつんざくような金属音が辺りに響き渡った。 「――……ッ!」 「!? う、鶯丸……!!」  その時の私の視界に映ったものは、彼の大きな背中と、その向こうに見える――時間遡行軍。そして、鶯丸の本体と交わる槍。おそらくは、今目の前にいる時間遡行軍の得物だろう。鶯丸は、私を背にして時間遡行軍と対峙していた。 「なんで……!? なんでこんなところに、時間遡行軍なんか……!!」 「主、逃げてくれ」 「……え、?」  横目で私を見た鶯丸の発した言葉を、理解できないでいた。そして反射的にそんなことはできないと叫ぶ。 「なんてこと言うの! 貴方ひとり置いていけないわ、必要なら私だって戦うわよ!!」 「主、頼むから、言うことを聞いてくれ」  鶯丸の、幼子をなだめるような声音に、何も言えなくなってしまった。「でも……でも……!」と繰り返していると、彼が微笑む。 「俺の実力では、こいつを足止めすることしかできない。情けない話だが、それは主を守りながらではできないんだ。……そんなに心配しなくていい。あとから追いかけるさ」  ――だから、行けるな? 雪乃。  それが、最後だった。私は泣きながら後ろの扉に向かって走る。後ろからは、激しい金属音が聞こえていた。  中庭から扉までの距離はそんなに遠くはなく、走ればすぐに着いてしまう。だが、今の私にはその距離であってもとても長く感じる。  ――扉を閉める音が、やけに大きく聞こえた。 ◇ 「……ッ、ふ、ぅっ……」  扉にもたれてずるずるとへたり込む。自分が情けなくて涙が出る。戦闘の心得は十分にあったのに。肝心なところで、なにも役には立たなかった。大切なひとすら、守ることができないだなんて。 「……でも、いつまでも泣いていられない……あのひとも、追いかけるって言ってたから」  私も、頑張らなくちゃ。  そう思って涙を拭って立ち上がろうと下を向いた瞬間――。 「――え?」  自分の腹から伸びる、鈍色に光る「モノ」。白く、綺麗に輝くように磨き上げられた彼らの「ソレ」とは違い、黒く、濁った光をたたえる「モノ」が、廊下の蛍光灯に照らされて煌めいていた。そこから滴る「赤」を視認したとき、ようやく自分に起こったことを理解する。同時に、ひとつの事実に辿り着き、私は戦慄した。 「そんなッ……じか、ん、そこう、ぐん……ッ!? アレ一振りじゃ、なかったのッ……!?」  私は、先ほどの槍とは違う時間遡行軍に刺されていた。自分の腹から伸びる刃は、確実に槍のものではない。  そのうちに私の意識は薄れ始める。 「っ……ごめん、ね、うぐいす、まる……」  ――貴方のこと、待っていられなかった。  その言葉さえ言えずに、私の意識は闇に堕ちた。 *Bad End1 * continued? → https://nana-music.com/sounds/040bbc61/

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