nana

鶯丸
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「あそこの部屋、行ってみない?」  そう言って私は、少し開いていた扉の方へと足を向ける。部屋に入る直前に、その場に立ったまま動こうとしない鶯丸に気付いた私は、何してるの? 行くわよと声をかけた。彼はワンテンポ置いて返事をすると、いつも通りの緩慢な動作で私の後ろに続く。 「――さて。なにか収穫があるといいのだけれど……」  そうして、部屋を探索していく。いつの間にか休憩している鶯丸を見ては叱責して、家探しの如く部屋の色んな所をひっくり返して……を繰り返して、かなりの時間が経った。  ここにはなにもない、と判断して帰ろうかと床に手をついて立ち上がろうとしたとき、それに当たるものがあった。 「あら? これは……」  どかそうと手に取ったとき文字らしきものが見えた気がして、もう一度【それ】に目を凝らす。私の見間違いではなかったようだ。確かにそこには小さな子供が書いたような文字が書かれている。それは、いわゆる【手記】と呼ばれるもの。ひらがなばかりのそれは、ある刀剣を彷彿とさせた。 『――あるじさまは、なぜあんなにもがんばるのでしょう。がんばるのはよいのですが、あるじさまはどをこしているきがします。あるじさまがいなくなってしまったら、ぼくたちはどうなるのかな……――いっそ、とじこめてしまったらいいんでしょうか……?』 「……なに、これ」  【それ】を【意味のある文章】として認識した瞬間、背筋が凍るような思いがした。震えていると、私の後ろから鶯丸の腕が伸びてくる。それは私の手から手記をひょいとさらっていった。 「う、鶯丸……!?」 「これを書いたのは――今剣か」  ペラペラとページをめくりながらいつもの声音で言う彼。あの文章もだが、それを見ても動じないことにも戦慄した。 「……まあ、”閉じ込める”のもいけないことではあるんだが――主。仕事を詰め込むのも、あまりいいことではないと俺は思うぞ。主はひとの子なのだから、俺たちが思っているより限界が訪れるのだって早いだろう」  仕事というものは、休み休みやるものだ。その方が身体にもいい、そう言いながら鶯丸は手記を私に向ける。「で、でも仕方ないでしょう? 終わらないんだもの……」と言いながら私はそれを渋々受け取った。 「あまり根を詰めすぎるな、という話だ。今剣も恐らく、主のことを心配しているんだろう」 「……そうだと、いいのだけれど」  拭いきれない違和感と恐怖を抱えながら、手記を見つめていた。しばらくそうしていると、近くにいたはずの鶯丸が私を呼ぶ声が遠くから聞こえる。 「えっ、あ、なに?」 「ここはあらかた探したんだろう? 次はどこを探すんだ?」 「あ、えぇ。そうね……」  返事をしてから部屋を出て辺りを見渡す。どこに行こうかと思考を巡らせながら、その横ではあの手記のことを考えていた。否、考えざるを得なかった。  手記に書いてあった文章とこの状況を鑑みる。「私を閉じ込める」という言葉、目覚めたときから周囲に満ちている黒い瘴気と……目の赤い、石切丸。この三つの間に何か関係があるとしたら……? → https://nana-music.com/sounds/044a2fe7/

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