
鶯丸
「――きゃっ!?」 とにかく怖くて怖くて仕方がなくて、ずっとがむしゃらに走っていた。 だからだろうか。目の前にまで迫ってきていた、青年の姿すらも捉えることができなかったのは。 「……主」 「え、」 上から降ってきた声に、思わず体がこわばってしまう。 恐る恐る顔を見上げると、そこには緑色の髪を持つ青年が立っていた。この本丸には、私以外は刀剣男士と管狐しかいない。そしてこの声は聞き違えるはずもなく。 「……うぐいす、まる」 無意識のうちに目の前の彼の名を、呼んでしまっていた。 「良かった。無事だったんだな」 ほっとしたような顔で問い掛けてくる彼。 ……さっきの、顔と、同じ……。 その穏やかな笑顔は、先ほどの石切丸を彷彿とさせた。 「……あ、あのっ……、その、私……っ」 こわばり、彼から離れようとする体。絶えず零れる涙。それだけで言いようのない大きな恐怖に駆られてしまうほど、私は追い詰められていた。 「主……! もう大丈夫。俺は主の味方だ」 そう言いながら、彼は私を優しく抱きしめる。 一瞬見えた彼の瞳は、いつもと同じ、けれどとても綺麗な、鶯色をしていた。 → https://nana-music.com/sounds/0448c861/
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