nana

同田貫正国
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駄目だ。分かっている。 でも、無事かもしれない仲間がそこにいるのに、見捨てられる程私は強くないのだ。 ごめんなさい、同田貫。 誰も、誰も来ていないから。勝手に私が出ただけだから。 戸を開ける。物の積み上げられた中に、確かに巴形薙刀は居た。左腕と腹が赤く染まっている。 「……主」 私は答えられなかった。声を出さないようにすることが癖になってきている。 「……手入れを、してくれないか」 近くの道具箱を漁る。古いものだが、打ち粉ぐらいはあった。 巴形薙刀に近付く。 ……待って。 そんな、 「………………あ…………」 「……どうした?」 この眼は、この刀剣の瞳は、真っ赤だ。 尋常じゃない。紅に輝いている。 彼が持つ、あの……洋酒のような、鮮やかな赤ではない。血に赤い絵の具を混ぜて、べたべたと塗りたくったような。 「……………………ああ…………そうか。 許せとは言わない。これは……盲点だった。影響を受けるのなら」 巴形は私の腕を掴む。 「当然だ。俺に逸話はないが、記憶はあった。嫁入り道具に使われた記憶が」 瞳は一層輝く。 「ここに異性が居るなら、契りが起こる。この呪いが、主にも……すまない、すまなかった」 赤黒い淀みが、喉の奥に入り込む気がした。焼ける。燃える。 そうか。そういうことか。 個体差を完全に忘れていた。この巴形薙刀は、少し記憶が残っていたのか。 「あ…………が」 「…………っ」 巴形は、本体を持ち、自分の膝でへし折ろうとする。バキッ、とささくれるような音と共に、彼のその柄は少しだけ、少しだけだが、確実に歪んでしまった。 「力技だが……せめてもの、抵抗だ。きっと瘴気も弱まる」 事実私の喉を駆け巡る不快感と焼ける音は消え去った。だが、彼は……助からないというのか。瞳が、さらに赤くなっている気がする。 「……早く行け。少し休ませてもらう」 何かが薄れていく。 頭の奥の方で、彼の事を。とある薙刀、一振りの事を。 彼が眠りに落ちた時、私は……そこで誰かと出会ったことを忘れた、のだと思う。 目の前には一人、異変が起きてから初めて出会う、巴形薙刀がいた。 『早く行け』 言葉だけは、忘れるつもりは無い。 そこで何があったのかは分からなくなってしまったが、彼の言う事は、無駄にするつもりは無い。 戸を閉める。 静かに、巴形の眠りを思い出そうとしながら、同田貫を待つことにした。 → https://nana-music.com/sounds/0448c755/

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