
同田貫正国
今剣は、この本丸でも手練、古参の男士だ。 同田貫もそれなりに手練ではあるが、彼ほどの戦闘能力を持っている訳では無い。二振りが来た時期の差は約五ヶ月。 男士、三日会わざれば、刮目して見よ。 その五ヶ月で、今剣は相当の実力を手に入れたのである。 同田貫と共に走り続ける。 もう物音を殺す必要はない。先程から他の刀剣男士達が見当たらない。 静か過ぎる。 考えられるのは三つ。 一つ目。黒幕が他の刀剣男士達を集め、迎撃の準備をしているのか。 二つ目。あるいは、全員がたまたま、別のところへいるのか。 最後。それとも、最悪の可能性───他の者達が全て、錬結の素材になってしまったか。 私が最も今の状況でこれだと信じたいのは二つ目だが、こんなに上手くいくわけもない。二振りは徘徊させてしかるべきだ。 だとすれば考えられるのは一つ目か、最後の可能性。どちらもかなり悪い状況。この可能性しかまともに考えられなかったことが、少し虚しかった。 「…………」 同田貫が立ち止まった。腕が震えている。 相対する宙には赤い光が二つ。 ……まさか。 「こんにちは、あるじさま。いや、こんばんはだったかな……」 「逃げろッ!!」 「にがしませんよ。どこにも」 後ろへと身体を向けて、走り続ける。 角を曲がり、全速力で逃げ出した。 ───見えたのは同じ場所。同田貫は背後にいる。出られない。 もしや他の刀剣達がいなくなったのではなく、私達が結界か何かで隔離されたから、こちらからは認識が出来なかった……? 「あるじさま。ぼくをすてて、にげるなんて。いけませんよ」 「そんなつもりは……!」 「うそはいけない。ぼくたちは、おれそうになっても、てきをたおすためにかりだされた。くるしい。おなかがさけてる。なかになにかいる。ぼくたち、ぼくは……あるじさまをにがしません」 何を、言って……。 ぼく「たち」?おれそうになっても?なにか、いる? 私は今まで彼らが折れそうな時は、すぐにでも手入れを施す程慎重に運用してきた。 ……確かに、何振りかは折れたことがある。時間遡行軍だけではない。検非違使は容赦なく外敵を排除する。その餌食になった刀剣男士は、この本丸では四振りいる。怨念の正体はその刀剣男士達とでもいうのか。その怨念と化した者達が、その中にいるというのか。 「ちがいますよ。ぼくはぼくです。ぼくたちは。ほかのおれたものたちはかんけいない」 「お前がどんなだろーが関係無い。何振りその中にいようがいまいが、要は……お前は敵だ。叩ッ斬る」 何も言い出せなかった。 殺さないで、とか、やめて、とか、どうしてそんなことに、とか。言いたいことは沢山あったが、言い出せなかった。 私は今から、遠くから眺めていた戦場の景色の一端を、間近で見ることになる。 血飛沫の上がる殺しの一片を。 → https://nana-music.com/sounds/0448c6ff/
