
同田貫正国
足音がする。 通り過ぎて行った以上、同田貫ではない。 ……そう言えば、残った日記はまだ、読んでいない。 残った日記……今剣の日記。 今までの日記において、少し様子がおかしいと言われていた刀剣男士達は、五振り。 物吉貞宗。 疲れた、と言いたげな表情、仕草が多くなったという。普段、彼は気丈でいることが多い中でこの姿は確かに特異だ。また、少し運が悪いと言えることが頻繁に彼に起こっていたらしい。 蜂須賀虎徹。 暗い、あるいは苦痛が垣間見える表情が多くなったという。長曽祢虎徹の存在によるものでは、と思ったが、長曽祢のことになると少々過剰な反応をするので、別の要因と思われる。 小烏丸。 落ち着きは普段通りだが、笑顔を見せることが少なくなったようだ。短刀と遊ぶ時はにこやかだが、誰も見ていない時、恐ろしい程無表情になるという。時折、遠くを見ていることがある。 今剣。 行動に怪しい点が多かったようだ。遊んでいる中、一人別の場所へと行ったり、戦場でもごく稀にあらぬ方を向いたり、など。ただし、いつも通りの行動や発言をするのでかなり気が付きにくかったらしい。 大倶利伽羅。 左腕をぐっと押さえることが多くなった。時々爪が食い込み血が滲む程に力を入れる時があった。その仕草から最も分かりやすい異常であると思われるが、何かを感じ取るような反応をする時があったという。 この五振りのうち、一振りの日記はここにある。 『きょうのゆうしょくは、しょくだいきりとかせんがつくったかれーでした。 からすぎず、あますぎず。とてもおいしかった。』 『あまりよくないゆめをみました。せんじょうで、なかまがおれていく。いくさとはいえ、きょうはぼくのしゅつじんのひなので、えんぎがわるいとおもいました。』 『このにっきは、ぼくだけがよむ、ぼくのにっき。だから、ここに、すこしだけかきたいことがあります。さいきん、なにかがほんまるにいるようなきがするのです。』 ─────これは。 とある日、彼がとある夢を見て、戦場から帰ってきた日。その日を境に、異変が起こっていたのかもしれない。何故なら、ここから先は今剣が、とある「なにか」から逃げる日々が続いているからだ。 『ぼくをおいかけたりおそったりするかげは、ほかのだれにもめをむけません。このかいぶつは、ぼくだけをみている。』 『ひるにあそんでいても、あいつがあらわれるようになりました。いわとおしや、ほかのたんとうのみんなとあそぶじかんは、あのかげからにげるじかんへとかわりつつある。』 『きょうは、かげがすこしおとなしいひでした。つかれているのできょうはここまでにしておこ 』 『きょうはまえよりもずぅっとおそろしくなっておそってきました。ほんまるのなんにんかは、きづいたり、ほんのすこしえいきょうをうけたりしているみたいです。ごめんなさい。ぼくがよびよせたのかもしれない。』 最後に日記が書かれたページは、私が、とある現状を確信するのに充分過ぎるものだった。その文章量は文字数にして十三。短いが、これ以上の情報は無いと言っていい。 『とりつかれた。もうだめだ。』 確信した。 今剣が、この事件における最初の瘴気の器。それはつまり、この瘴気を蔓延させた原因でもある。文章から察するに、瘴気は彼を乗っ取ったと考えるべきだろう。 いや、その表現からすると、瘴気というよりは、怨念と形容するのが正しい。 怨念について調べていた。なるほど、凄まじくオカルトだが、納得がいく。いってしまう。もしその怨念が、戦場で散っていった他の本丸の刀剣男士達や、時間遡行軍のものであれば、彼の見た夢は予知夢とも言うべきものだったのだろうか。 「………………」 同田貫はいつの間にか帰ってきていた。 どっかりと、しかし物音を立てず座り、紙にはこう書いた。 『クロがわかった 今剣』 『そのりゆうは?』 少しの、彼は大丈夫という期待と共に記す。 『ひきいてた 巴形 おおくりから を』 『その二人のようすは?』 『手負いだ』 傷の付いた、二振りの刀剣男士。 それが意味することは、あちらには手入れの技術がないということ、とも取れる。怨念が全てを指揮しているとしたら、その怨念が審神者、もしくは時の政府の何者かである可能性は消え去ったと見ていい。単に手入部屋が足りなかったとしても、最悪手入部屋ではなくとも手入れが可能であることを考えると、その技術がないのはほぼ確実。 『じかんがない おれも少し えいきょうをうけてる』 同田貫の瞳が赤みを帯びている。 ───もう迷っている暇はない。 今すぐに、今剣を探し出す。 そして────。 彼の中の、何者かを止めるのだ。 → https://nana-music.com/sounds/0448c6f6/
