
山姥切国広
私は咄嗟に山姥切の腕を掴み、走り出した。 「なっ、おい、主!?」 彼の驚きの声も無視して、私は走る。 彼の手を離さないように、強く握り締めながら。 そして考える、どこへ逃げるかと。 先程限界まで走り続けていたために、既に自分の体力は底を尽きている。 そう長く走ってはいられないのだ。 ならばどこかへ隠れるなりしてやり過ごさなければ……。 どこか、隠れる場所は……。 そう思って辺りを見回した。 そして気付く。 廊下の先が拓けて、庭が見えると。 ということは、この先は縁側となっていて外へ出られるわけだ。 ───離れ。 それを思い付いた私は、なけなしの体力を振り絞って外へ走り出た。 ───見付けた。 離れだ。 私は山姥切へ離れを指し示すと、二人でそこへ駆け込んだ。 そして直ぐ様文机と畳を使って戸を締め切り、漸くひとつ息を吐く。 けれど、ここにも長くはいられないだろう。 なんとか打開策を見付けなければ……。 未だ外へ警戒を向ける山姥切を横目に、私はぐるりと室内を見回す。 そして。 ───畳を剥がしたところにぽつんと、ひとつの帳面を見付けた。 畳の下にあったのだろうか? だが、それにしては嫌に綺麗なままだ。 何故だろう。 それが無性に気になった。 そして、ゆっくりとそれに手を伸ばす。 手に取り、ページを捲る。 『見るな!!』 誰かがどこかで叫んだ気がした。 それは、日記だ。 いや、日記と言うには、あまりに。 あまりに、滑稽。 『主が死んだ、敵に殺された、守ることができなかった、こんなことはあってはならない、間違っている、間違い……マチガイだ、なにが?歴史……レキシ……レキシダ、主ガ死ぬトイうレキシがマチガイなんダ……正さなければ、正さなケレば、正サなケレば正サナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバタダサナケレバ』 ああ、そうだ。 ───私は、もう死んでいたんだ。 → https://nana-music.com/sounds/0442ecd9/
