
三日月宗近
逃避行
「…お願い、逃げて三日月。」 「しかし主、それではお主が…」 「彼等の目的は私の筈。だから、三日月だけなら逃げられる。お願い、逃げて。」 「……すまんが、それは聞いてやれぬな。」 「どうして…きゃっ!」 ふわりと身体が浮く。考えるまでもなく三日月が私を抱き上げたのだ。そしてそのまま、三日月は廊下を一目散に走り出した。 「離して!おろして、お願い三日月、あなた迄死なせたくない!」 「主と共に死ねるのならば本望だ。」 「そうじゃない、あなたは、私の傍にいてくれた、たった一人のかみさまで、だから…!」 「主よ、俺は付喪神である以前にただ一振の刀だ。主に振るわれ、主の手の中で潰えることこそ誉。最期のひと時まで、共に在らせてほしいのだ。」 「三日月…」 逃げた所で所詮、何も変わりはしない。むしろ敵に背を向けたことで襲われやすくなるし、現に後ろから無数の足音が迫っている。 だというのに、三日月はとても穏やかな顔をして「まるで駆け落ちでもしているようだ。」なんて笑うものだから、三日月ごと貫かれた腹の痛みなんて一瞬感じなくて。時間にすればたった数秒だったけれど、私たちは二人きりで笑いあっていた。 → https://nana-music.com/sounds/043fbef3/
0コメント
ロード中
