nana

明石国行
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ぱちりと目を覚ました五虎退が最初に見たのは こちらを不安げに見た瞳と、剣呑さを帯びた瞳だ。 前者は我が主、後者は仲のいい短刀と大太刀の保護者だ。 自分がそのような目で見られることに全く心当たりがない。小心者の五虎退は、その事への恐怖で今にも泣きそうだった。 「……どうや?」 「うーん、多分…大丈夫だと思う…。目だって、いつもの綺麗な色だし。」 「あっ…あの…!ぼ、僕、なにかしてしまったのでしょうか…!どうしよう…す、すいません!」 パニックになった頭で、やはり自分がなにかしでかしたことと、覚えていないことへの罪悪感が酷く自分の心を締めつけた。 「ああ!いいのよ五虎退!仕方ないっていうか、事故っていうか…えっと、その…ね!明石!」 「せやせや、自分はなぁんも悪ないで。せやから泣くな、な?」 「ううっ…ぐすっ…すびばせん…っ!本当になにも覚えてなくってぇ…っ!」 「うんうん、ゆっくりでいいの、大丈夫よ五虎退。ごめんね、怖かったね」 そういって優しく撫でてくださる主になんと答えればいいものか。おそらく自分はとんでもないことをしてしまったのだろう。しかしながら先程までの記憶はぽっかりと穴が空いてしまっているようで、何も覚えていない。 ──────思い出せ!思い出せ! 「あっ…!」 「なにか思い出した!?」 「黒い、じめじめに触って…そしたら、なんか、苦しくなって…うっ…」 「無理せん程度でええんやで、ほんで?」 「ううっ…あるじさま、に、っすて、捨てられちゃうかも、って…!うぐっ…」 そうだ、廊下を歩いていたら急に黒いじめじめが張りついてきて…それからのことは薄ぼんやりとしか覚えていないが、主に捨てられてしまう映像を延々と見ていた気がする。 「そっか…そっか…つらかったね…うん、うん…」 「うええええん!!!!!あるじさまぁ!!!!」 「よしよし、私は五虎退大好きだよ、怖かったね、一人で頑張って、えらかったね…っ!」 怖いことを思い出して、涙がぽろぽろでる僕を抱きしめてくださるあるじさまも、とても苦しそうだ。ああ、そんな顔をさせたいわけじゃなかったのになあ。 「五虎退。この本丸はとってもおかしい状態なの。私達は元凶を探すから、五虎退はここに…」 「僕も連れていってください!」 せめて、あるじさまをまもりたい、僕じゃ力不足かもしれないけれど、きっと、きっと役に! 「あかん。」 「あ、明石…!」 「明石さん…!でも、僕もお役に立ちたいんです!だから!」 「その気持ちは分かる。せやけどあかん。いつまたおかしくなるともわからんし、元凶倒しに行くんに足でまといおったら邪魔にしかならんやろ。」 「っ、そんな言い方…」 おろおろと僕と明石さんを見るあるじさまは気づいていないのだろう。明石さんから、微弱な、けれども鋭い殺気を感じる。 壁に寄りかかって腕を組みながらこちらをみるその不思議な色合いの眼には、「主を死なせるつもりか」という非難の色がありありと浮かんでいた。 「…いいえ、僕、いい子でお留守番しています。主様と明石さんが無事に帰ってこられるように、本丸が元に戻るように!」 両の拳を固く握りしめて、自分の”思い”を声に込めた。本当に小さな加護しかできないけれど、それでも、役に立ちたかった。 自分だって刀剣男士だ。神の端くれだ。ならばその力を持ってして、この人の子を守ろうではないか。 「……すまんな。」 主様に加護を付与したことに気がついたらしい明石さんが小さく微笑んで僕の頭を撫ぜた。 「……ご武運を。」 僕にできるのは、ただ祈ることだけ。 → https://nana-music.com/sounds/043cafbd/

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