
今剣
案の定、彼の元へきた今剣は、私を詰った。 「ぼくはみんなをころしました。そして、あなたにきょぜつされました」 「なのに、きれいさっぱり、こうしてなにもなかったかのように、のうのうといきているなんて…!いったいどういうことですか…!」 彼はやはり焦げたお守りを握りしめ、大きな涙を零した。年相応のその姿に、少し私は、安心する。彼が戻ってきた。今剣は、私の刀剣は、もう狂ってなどいない。 感情豊かで素直で優しい、いつもの彼自身だった。 「今剣」 「あるじさま、いま、むねのうちがすっきりしているんです。あなたがぼくをすてるわけないこともわかる」 「あなたが、あんなことをしたぼくもみんなとびょうどうにあいしてくれていることもわかります。ねえ、ぼくは…」 「今剣」 私は、彼の両頬に手を添えた。そして、嗜めるように聞く。 「私が聞きたいのは一つだけ。あなたは、今でも私のことを愛してる?」 彼は、兎のような赤い瞳から、ぽろぽろと涙を零した。 「あいしてますよ」 「あなたがぼくを、そしてみんなをころしたことをしりながらも、それでもあいしています」 彼の涙は甘い飴玉のように、堰を切って溢れ出した。 私は、それを優しく拭う。 「私も、あなたが大好き。愛してる。みんな生きてる。だから、ね。これでいいじゃない」 今剣は、涙を零しながら、また小さく、ずるい、ずるい、と漏らした。そう、ずるい。でも、これが幸せでなければ、何をそうだと言うのだろう。 → https://nana-music.com/sounds/0438ec1f/
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