nana

明石国行
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「ぬしさまッ!!ぐ…!」 「目ェ覚めてすぐそれですか、いやあ〜ほんますきやなあ」 「ぬしさまは…!」 意識が覚醒してすぐに、最悪のもしもが脳内を占領した。最後に彼女と共にいたであろう刀に安否を確認すれば、「無事や」とかえされた。 「いやあ、ほんま大変でしたわあ。さすが三条様。」 「明石……」 「格が違うっちゅうか、自分らなんかとは大違いですわ。」 「明石…」 「おーらっちゅうん?でもそのスカした態度たまに気に食わんのですわ。」 「明石」 ペラペラと話し続ける明石だったが、こちらの気持ちを察せぬ程頭の足りない男ではない。 何度か名前を呼びかければ、ピタリと止まってこちらを見る。 ぬしさまが今無事でいるのは、この男が傍にいたからだろう。狂気の奥底に自我が沈みこんでいく中、決死の思いで出した合図に気がついたこの男だったからこそ。 「申し訳ございませんでした…ッ!この小狐丸、危うくぬしさまをこの手で殺めてしまうところだった…ッ!!」 彼に向き合い、三条としてのプライドを全て脱ぎ捨て、床に頭をつけて謝罪する。本来ならば、ここで刀解されてもおかしくはないことを自分はしでかしたのだ。 「お前がいなければ、今頃ぬしさまは……」 「あー。自分そういうふうに後からぐちぐち言われるのほんま苦手なんすわ。」 「!」 床についた頭を上からぐっと押され、そう言葉をかけられた。罵倒され、叱責されることを覚悟していたというのに、その斜め上の返答はなんぞ。 と彼の声に耳を傾ける。 「…正直、こういうんは慣れとらんのですけど…。」 「自分一人やったら、絶対に本能剥き出しの小狐丸はんは倒せへんかった。あれは、ぎりっぎりまで小狐丸はんが自分保とうとしとってくれたおかげでの勝利っちゅーわけですわ。」 いつもの巫山戯た呼び名ではなく、しっかりとした名前で呼ばれる分、言葉の一つ一つがとても重い。 ずっしりと暖かな重みが心に重なって、思わず唇をキツく噛み締めた。 ああ、なんと器の大きな男か。 「…すまなかったっ…!」 「せやからもうええって」 ほら、顔上げてください、と言われてすっと面をあげる。かち合った不思議な色合いの瞳からは、相変わらず感情を読み取ることが出来ない。 しかし、少しだけぬしさまと同じような優しい色が浮かんでいたことに気がついて、思わず息を呑む。 「んじゃ、自分主はんのとこいってきますわ。」 「ええ。……頼みましたよ、明石。」 「ほいほい」 ぬしさまのいる方へと歩いていく背中に、「私も連れていけ」とは言えなかった。 またいつぬしさまに傷をつけてしまうともわからない。なによりも、こんな情けない顔をぬしさまにみせるなどあってはならない。 頭の回転が恐ろしく速いあの男ならば、必ずやぬしさまのことを守り抜いてくれるだろう。 「ぬしさま、どうぞご無事で……。」 せめて、と微弱に感じる温かな霊力の元へと加護を付与する。 どうか、これ以上彼女が傷つきませんように。 どうか、あの男が──────。 → https://nana-music.com/sounds/0433352b/

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