
明石国行
「主はん!」 突然大きな声と同時に強い力で抱き寄せられる。 驚いて彼の名を呼ぼうとすれば、彼は眉間にしわを寄せて震えた手で私を抱き締めた。 「あ、あかし?」 「よかった…まにあった…」 「?なんのこと……」 意味のわからないことを呟きながら前方を睨む明石の視線を辿ると、そこには一振の刀が深々と床に突き刺さっていた。 ──そう、私が先程まで立っていた場所だ。 思わずひゅっと小さく息を呑む。 明石が助けてくれなかったら、今頃私は……! 生々しい死の香りに戦慄していると、突然暗闇から生白い手が現れ、その刀の刀身を迷いなく掴んだ。 「ああ、ぬし、さま…ぬしサま…ふふ…はハ…」 そこにいたのは、不気味な笑みを湛えた小狐丸であった。刃の部分を力の限り掴んだせいで、その手から鉄臭い液体が溢れだしている。 ぶわりと瘴気の濃さを増した空気を吸ってしまい、思わず吐き気を催した。どうやら血も穢れてしまっているらしい。 「あ…かし…きぶ…きぶんわるい……」 「ああ…せやった、主はんは霊力がただの人間並に減っとるんやったな。……ほんなら、自分がすぐ片付けるんで、どっかの部屋で隠れとってもらってええですか?」 「そんなこと…っ!」 「大丈夫やって、ほら、あんまりあちらさんもまってくれへんみたいやし?」 チラリと目線を向けると、苦しみながらのろのろと歩み寄ってくる小狐丸の姿があった。 真っ赤な瞳はどろどろとした憎悪、嫌悪、怒り、嫉妬などの負の感情が溢れ出していて、思わず身を引いてしまう。 「そう、そのままそっちに走らなあかんで。ええ子やから、振り返らんでな。」 引いた体をぐっと押され、耳元でそう囁かれる。 私自身、もうここにいても足でまといになるだけだと理解してしまって、泣きながら示された方向に走った。 ひたすらに彼の無事を願って。 → https://nana-music.com/sounds/0432b107/
