
今剣
瘴気に纏われた彼を救うためには、それしか方法がないのかもしれない。また、彼が正気を失って襲ってくる可能性だってあるだろう。今剣は、全てを許すように微笑んでいた。 「おねがいします、あるじさん」 私は、泣きそうな顔で、震える手で短刀を掴んだ。 「ぼくのしあわせは、あるじさんのしあわせです」 それは、決して嘘ではないらしく、彼の瞳は、澄んで綺麗な夕焼け色に満ちていた。私は、どうしても一つだけ聞きたくて、彼へ問いかけた。 「今剣、また、会えるよね…?」 私の言葉に答えず、今剣はにこりと微笑んだ。 本丸の涼しげな縁側で、赤い目をこちらに向ける彼はとても綺麗で、まるで白昼夢のようである。 この悪夢を終わらす方法が、これしかないのであれば。私は今剣に応えてあげたい。 それでも。それでも…。 「無理だよ…」 …私は、刀を手放した。手が震えて、短刀を持っていられない。今剣は、私の刀なのだ、家族なのだ。 殺せるはずがない。そんな残酷な勇気、私にはなかった。 「私には、無理だよ。今剣を殺せない…」 今剣は、そんな私を見て、分かっていたかのように穏やかに微笑んだ。私が取り落とした刀を拾い、そして、 → https://nana-music.com/sounds/042def7d/
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