
今剣
「でも、それなら、何万回も私は誰かを失うの? 何万回も誰かが死ぬ苦しみを知るの? そんなの、…」 牢獄みたいだ。無理矢理生かされた私達は、いつまでこうしていけばよいのだろう? 身震いがする。 「しらないほうが、よかったですよね。あるじさんがのぞむなら、ぼくがあるじさんをころしてあげますよ?」 今剣は、自分の短刀を構える。 「ぼく、こんどは、あるじさんがおもいださないように、がんばります」 そう言った今剣は無邪気に笑ってはいるものの、私にはそれが痛々しく見えた。傷ついた短刀を放っておける筈がない。私はそれを制止した。 「やめて。やっぱり、そんなのおかしい! 今剣、貴方ひょっとして、全ての記憶を覚えてるの…? そんなの…!」 そんなの、考えるまでもない。気持ちが麻痺するほど、恐ろしいものだろう。 「辛かったでしょう、苦しかったでしょう。もう、一人で抱え込まないで。私も、全部背負うから、もう終わりにしよう。」 震えながらそう言う私を、今剣は不思議そうにじっと見つめた。 「あるじさまは、ほんとうに、こののろいをおわらせたいんですか?」 彼が首を傾げる。私は、精一杯頷いた。なんとかして、この連鎖に終止符を打ちたい。本当の本丸に戻りたい。 「そしたら、おしえてあげます。まだまにあうんですよ。あるんです、くりかえさないほうほう。」 今剣は私から少し離れ、何かを取り出した。彼の次の言葉を、祈るように待った私は、次の瞬間、絶望する。 「いま、あるじさまがぼくをころせば、みんなののろいがとけます」 彼が私へ手渡したそれは、紛れもなく、短刀『今剣』であった。自分の本体を持つ私を恐れもせずに、真っ直ぐに自分を見た。 「まだしょうきはじゅうぶんにひろまっていませんので、いまのうちにぼくごとはらってしまえばいいんです。ぼくはにげませんよ」 彼が嘘をついているようには見えない。 「さあ、はやくしてください。ぼくのきもちがかわらないうちに」 今剣の赤い目が不気味に輝く。 それしか。それしか方法はないのだろうか。 私は、今剣を… 。 殺す。 → https://nana-music.com/sounds/042dee8d/ 殺さない。 → https://nana-music.com/sounds/042decd1/
