
今剣
「…今剣」 静かに声をかけると、ゆっくりと彼が目を開いた。兎のような、透き通った赤い瞳が、こちらを注視する。 「寝起きなのにごめんね。でも、ちゃんと話して欲しい。前回のことも、前々回のことも、全部覚えてる。私、今剣を、みんなを救いたいの。どうすればいいの?」 今剣は、目を少し細めて微笑んだ。 「あるじさま、ぼくはもう、すくわれてますよ? 」 この空間のどこが救われているというのだろう。ゾンビのように虚空を見つめる皆のことを思い返し、彼を睨みつける。しかし、少しも気に止めずに、彼は無邪気に言った。 「だって、こうすれば、あるじさんもみんなも、ずっとここにいられるんです。しんだあるじさんも、しんだみんなも、でていっちゃったことだって、みんなみんなぱられるわーるどにしちゃえば、このせかいでは、みーんないきていて、みーんないっしょなんです」 彼が心の底から救いを必要としていないことを知り、衝撃を受ける。また、脱出した筈の私が、今でもこの世界に囚われていたという事実にに呆然とした。 「このせかいでみーんな、しあわせです! 」 曇りのない笑顔で、今剣はそう言う。 震えながら、それでも私は、…。 言葉を紡いだ。 → https://nana-music.com/sounds/042dd925/
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