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§夢幻ノ箱庭§ 第五話~白ノ都市~
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§夢幻ノ箱庭§ 第五話~白ノ都市~ 大陸で最も陽光が降り注ぐと謳われたその土地は白い建物が整然と立ち並び、そのほとんどが研究施設だった。 研究内容は主に薬学と遺伝子学に特化しており、その土地で作られる薬はもはや国にとって必要不可欠なものとなって いた。 そこはかつて白ノ国と呼ばれていた都市。 国が統一され、与えられた名は第一都市・天照街。 通称<白ノ都市>と呼ばれた。 奉仕の精神が強く、他者への干渉魔法を得意とする人々の多い白ノ都市では【薬学・医学】を統括し、 国の統一後、白ノ神官は真っ先に国中へ優秀な医療チームを配置した。 元青ノ国に記されている過去の歴史を繰り返さないように… ~~~ 「…以上が全支部の研究進捗状況です。」 緑髪の小柄な女性がまりーへと、都市内にある研究施設の月次報告を淡々と済ませる。 「うん、どこも遅延はなさそうね。 いつも丁寧にありがとう眠兎ちゃん!」 「いえ、これも研究員の仕事ですから…」 俯きながら照れくさそうにつぶやく。 そんな彼女をまりーは微笑ましく眺めていた。 眠兎がそわそわと辺りを見渡す。 「と、ところで…本日光姫様はどちらに…?」 まりーの報告書を持つ手がピクリと動いた。 脳裏には先ほど見た窓の開け放たれた状態の執務室と机に積み上げられた書類の山が蘇る。 本来ならば月次報告は光姫も共に聞くはずが、まりーが迎えに行った時には既にもぬけの殻となっていたのである。 「し、私室で神官としての公務を行っていると思うな~?」 「そうですか…」 眠兎が残念そうに声を落とす。 「そっ、そうだ。ハイコレ来月の予定表。納期が今月よりも厳しめだから支部毎にフォローし合ってね!」 話題を切り替えるべく、まりーが資料を渡す。 眠兎はざっと目を通していく。 「ん?まりー様。ここ文字間違えてますよ。」 「えっ?あ、ごめん…」 ~~~ 研究員の月次報告を終えると、まりーは城の外へと飛び出していった。 辺りを見渡しながら真っ直ぐと道を進む。 そして白いマグカップと可愛らしい天使の絵が描かれた木製の看板が印象的な平屋の建物へとたどり着く。 扉を開けると、珈琲の芳醇な香りが鼻をくすぐった。 「「いらっしゃいませー」」 「あ、みーちゃん!」 まりーがカウンターで談笑している女性へと話しかける。 「あれ?まりーちゃんどうしたの?」 「…姫様がまた脱走したんだけど、ここに来なかった?」 「ん~今日、みぃは午後から勤務だったから午前はわからないな… あさいー?午前中姫様って来てた??」 みーは首を傾げながら奥で掃除をしている黒髪の人物へと話しかける。 あさいーと呼ばれた女性は髪色や顔つきこそ違えど、みーと雰囲気がどことなく似ていた。 「姫様が来てたらもっとお店繁盛してるかな…。今日は朝から閑古鳥だよ。」 「そっか…」 まりーが残念そうに肩を落としていると、後ろから扉の開く音がした。 「「いらっしゃいませー」」 「こんにちは…って、まりーしゃん?」 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには大学生のレインがいた。 「あれ?レイちゃん、学校は?」 「今日はもうコマは無いので、ここで美味しい珈琲でも飲みながらお勉強しようかなって!」 「そっか、偉いねぇ」 まりーが頭を優しくなでる。 「さて、私は姫様を探しにいかないと…」 冷ややかな空気を背にまりーが店を後にしようとする。 「まりーちゃん、一杯だけでも飲んでいかない? どうせ姫様はいつものようにお散歩してるだけだって♪」 みーが冷気を察し宥めるように肩へ手を置く。 「この頃脱走頻度が本当に多いのよ…! 仕事も本当に必要最低限のものだけされたらすぐ後は押し付けてくるし 顔合わせたと思ったらおちょくってくるし、 昼食も召し上がらずに出かけたり、 寝室の準備をしてもお昼寝だって最近されてないし、 神官となってから抑圧珠の数も減らして、常に神域を気にしてらっしゃるし、 加護の恩恵で力こそあれどちゃんと自己干渉術で魔力を蓄えているのか解らないし、 昨日だって帰ってきたらすぐ寝てしまうから疲れてるでしょうに… というか脱走を隠したり、フォローしたりするにもこうも頻度が多いとレパートリー増やさないと…」 ブツブツとまりーが小言のようにつぶやく。 「まりーちゃん、大概姫様に甘いよね…。」 「え?そう???」 みーの後ろではあさいーとレインも頷いていた。 ~~~ 「それじゃ、みーちゃん御馳走様!」 まりーはあのまま珈琲を一杯堪能し、店を出た。 (ここじゃないとすると、やはり次に可能性が高いのは…あそこしか無いか。) まりーは街並みの向こうに見える花の形をした台地を見つめる。 「まあ、あそこにいるのなら姫様も何か悪さをしている訳じゃ…」 乾いた笑い声と共に独り言を発してると、台地の上から純白の光が突如空に向かって放たれた。 開いた口もそのままにまりーは硬直する。 その後衝撃音が遅れて聞こえてきた。 「あ…あ…あの姫ぇ~…!? 一体何やってんの!?!?!?」 まりーが愕然としながら悲痛な叫びをあげる。 通りすがりの人々は驚いた様子でまりーを見るが本人はお構いなしに頭を抱えている。 「ふふ…ふ…。 帰ったらみっちり説教して差し上げなくては…」 まりーは表情に影を落としたまま、全速力で走り出した。 ~~~ 「おい!そうま!」 ボブが何かに気づき隣りを走るそうまへと声をかけ、 うながされるままそうまは台地を見上げる。 白い光が煌めいたかと思うと、空へと一直線に放たれた。 遅れて衝撃音が二人の元へと届く。 「…やっぱり姫様いたか~。」 そうまが軽く上がった息を整えながら苦笑いをする。 ボブはガックリと肩を落としていた。 「とにかく急ぐぞ。つか、そうま! お前もっと早く走れんのか!」 「無茶言わないでよ。僕はボブやさきちゃんのように運動神経は特別良い訳じゃないんだ。」 そうは言いつつも二人の速度はどんどん上がる。 台地が目前に迫ってきた。 「そうま、二人分飛べるか?」 「余裕。」 走りながらそうまが右手を開くと、一冊の本が現れる。 本のページが勝手に捲られていき、あるページで止まると、そうまは歌を奏でた。 歌のリズムに合わせて風が二人を包み込む。 互いに合図も無く同時に跳躍すると、そのまま空へと身体が浮かび上がっていった。 ~~~ 「…ん?」 夜蝶は遠くからこだまする音がかすかに聞こえ、足を止めて音のした方を見る。 視線の先には台地があり、白い光がかすかに見えた気がした。 「…スクープの予感♡」 夜蝶は立ち読みしていた雑誌を元の場所へと戻すと、笑顔で走り出した。 ~~~ 「お疲れ様でした。本日はここまでです。」 山乃がパタンと本を閉じる。 机の上ではていなんが頭から黒い煙を出しながらグッタリとうつ伏せに倒れ込んでいた。 「ああ…しんど…。僕、神官とか別になるつもりは…」 山乃に叩き込まれた知識が頭の中でグルグルと回る。 そのまま首だけを動かし、窓から見える神域の台地を虚ろな目で眺める。 「…はぁ…まりーは今頃何してるんだろ………ん?」 独り言をぼやいていると、台地の上で何かが光った気がした。 「今の…光姫の…?」 ていなんはすぐさま窓を開けて台地を食い入るように見つめる。 小さく土煙が上がっているのが確認できた。 「…山乃ちゃん、僕出かけてくるよ。」 身支度を素早く済ませ、足早に部屋を後にする。 「本日は終わりましたので大丈夫ですよ。 いってらっしゃいませ。 明日のお勉強は本日の復習と新しい項目を覚えましょうね。」 笑顔でお辞儀をする。 ていなんの肩が[勉強]という単語で跳ね上がった。 ~~~ 「皆怪我は無いかしら?」 やっと耳が聞こえるようになったレイカは改めて、スタッフ達の安否を確認する。 保安組織の三姉妹は神官様へ報告すると筆談にてやりとりをして、早々に退散していた。 「窓ガラス以外は無事ですオーナー!」 「はち蜜ちゃんが怯えてる以外は大丈夫ですオーナー!」 「なるせが心配性による心労で顔面蒼白ですオーナー!」 なるせはふあのんに宥められ、黒蝶は机の下に隠れてしまったはち蜜を引っ張り出そうと必死になっていた。 「………全員無事のようね。」 レイカは男が去って行った方向を見る。 その先には、神域と言われる台地がそびえ立っていた。 キラリと、太陽とは違う光が台地の上で輝いた気がした。 (…?) 目を凝らすが遠くてよく見えない。 衝撃音が小さく耳に届いた。 「…なるせ達は支店で通常営業。 黒蝶とはち蜜は今日は店休にして店内の片付けと掃除をしてて頂戴。」 「…? はい、解りましたが… オーナーは?」 黒蝶が問いかける。 「…私はちょっと出かけてくるわ。」 そう言い残すとレイカは足早に店を後にした。 (…無事ならいいのだけど…。) レイカがひらけた場所で歌を口ずさむと、大きな黒いゲートがぽっかりと口を開けるように現れた。 躊躇う事無くその中へと進んでいく。 レイカを飲み込んだゲートは音も無く消えて行った。 …第六話へつづく。

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