nana

§夢幻ノ箱庭§ 第三話~黒ノ都市~
96
20
コメント数0
0

§夢幻ノ箱庭§ 第三話~黒ノ都市~ 大陸で最も美しい夜が見れると謳われているその土地に住む人々は、 古来より美意識がとても高く、身だしなみから街並みの装飾まで細部にまで「美」を追及していた。 多くのブティックが立ち並ぶネオン街は都市一番の店を目指して日々競い合っている。 そこはかつて黒ノ国と呼ばれていた都市。 国が統一され、与えられた名は第三都市・夜叉街。 通称<黒ノ都市>と呼ばれた。 黒ノ市民は美意識の高さと併せて規律に厳しい傾向があったこともあり、 【治安】の統括を任されている黒ノ都市は、 国を影から支える意味を込め<影ノ都市>とも呼称されていた。 ~~~ 元黒ノ国の皇妃であり、現神官の一人である女性の部屋へと従者が入ってくる。 「神官様、赤ノ都市より連絡があり、強盗犯グループの主犯格と仲間二名が現在逃走中。 黒ノ都市へ侵入した可能性が高いとのことです。 尚主犯格が未申請の特殊魔法所持者である為、捕獲は困難を極めているとのことです。」 「…保安組織の第十三班に連絡を。市民の安全が最優先よ。」 「あの三姉妹ですか…、かしこまりました。」 従者は会釈をし退出する。 誰もいなくなった部屋で、女性はお気に入りのサークレットを指でなぞりながら窓から遠くに見える花弁型の台地を見 つめる。 「特殊魔法所持者…。 …あまりあの姫に借りは作りたくないのだけど、いざという時は仕方ないわね…。」 ため息交じりの声は、誰に聞かれる事もなく消えて行った。 ~~~ 黒ノ都市で最も人気があるブティック【Reika・本店】は今日も開店するべく支度を各々進めていた。 「集合!」 オーナーであるレイカが手を叩き声をかけると、店内のスタッフがものの数秒で一列に並ぶ。 「開店前に新人を紹介するわ。 今日から働くことになったはち蜜よ。」 レイカの隣ではち蜜はおずおずと頭をさげる。 「はじめまして!これからよろしくお願いします!」 他のスタッフは笑顔で彼女を迎えた。 「はじめまして、私はなるせ。今日だけヘルプでいるけれど、 普段は隣りにいるふあのんとオーナーの支店を任されてるの。」 「ふあのんです。なるせさんと支店勤務してます。」 「私は黒蝶、本店で働いてるから美容の事に関しては何でも聞いて!」 「私は春華、サボりに関しては…あ、ナンデモナイデス。 あ、オーナー、睨まないで…」 レイカが溜息ひとつつくと、仕切り直しとばかりに発言する。 「…はち蜜は本店で働いてもらいます。 支店の方は店長であるなるせの方針に変わらず任せるわ。 今日の新作は神域の地形をモチーフにした花柄の…」 新作のオススメ商品の情報を淡々と説明していたその時、 「そこまでだー!!!」 突然店の扉が開かれ、黒い保安制服に身を包んだ一人の女性が飛び込んできた。 スタッフが全員驚いて振り向く。 「強盗犯はどこだー!!!」 「………一体何事?」 制服で保安組織だという事はレイカもすぐに気が付いたが、その女性が突然入ってきた意味が解らない。 高らかに声を上げているその女性にあっけにとられていると、 とつぜん後ろからげんこつが彼女へと振り下ろされた。 ごつんと鈍い音が響く。 「あだっ!?」 「こら海月!いきなり飛び込んだら失礼でしょう!」 「ちょっ…お姉ちゃん痛い!」 「仕事では歌々と呼びなさいと言ってるでしょう。」 「これは海月が悪いかな。」 後方から海月と呼ばれた人物と同じ制服を身に纏った女性が二人現れる。 レイカは[海月][歌々]という名前と三人組という光景に、大体の察しがついていた。 「…これは保安組織の三姉妹ではありませんか。 私の店に何の御用かしら?<何が視えたの?>」 「うちの妹が失礼しました…。 ぽすとの方でこの店に赤ノ都市より逃走中の強盗が来ると<出た>ものですから…」 レイカは腕を組み、眉間に皺を寄せて考える。 「そう…。 ならそれは<回避>したいわね。 皆、今日は店を閉めて休…」 レイカが突然の店休を宣言しようとしたその時、 突然店の窓ガラスが割れて三人の男が転がり込んでくる。 割れた窓の向こうからは、赤ノ都市の魔導騎士が追いかけてきていた。 「…遅かったか……。」 レイカが割れたガラスを見つめさらに深い溜息をついた。 「チィッ!」 飛び込んできた男の一人が保安の制服を見て大きく舌打ちをする。 「なんで保安の奴らが先回りしてるんだよ!」 「兄貴…コイツら例の三姉妹じゃ…!」 窓の向こうからは赤ノ騎士達、 右には彼の保安三姉妹、 左にはか弱そうなブティックのスタッフ達。 強盗達がとる行動は明白だった。 「お前ら!店のスタッフを人質にしろ!」 「「「!?」」」 大柄な男の命令で二人の男がレイカ達へと襲い掛かる… いや、襲い掛かろうとしたが、二人の男たちの動きはピタリと止まった。 「…?お前たち何してんだ!さっさと…」 「いや…兄貴…体が…!」 二人は身をよじって身体を動かそうとするが、それ以上前にも後ろにも動かない。 「…私の店を壊し、汚し、挙句にスタッフを人質に? ふざけないでちょうだい?」 レイカの歌声と共に影が無数の糸になり男達を縛り上げていく。 その様子を三姉妹は感嘆しながら眺めていた。 「ふぅ~♪さすがレイカさん。 私達の出る幕はなさそうだねお姉ちゃん?」 「だから仕事中は歌々と呼びなさい…。 私達は残ったあの大柄な男を捕獲しましょ。」 「はーい。」 大柄な男は、悔しげに歯ぎしりしながら周囲を見渡す。 …そして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。 「…悪いな。捕まる訳にはいかねえんだ。」 大男は大きく息を吸うと、空気が震える程の叫び声を上げだした。 あまりの大声に店内にいた人達はもちろんのこと、外の騎士達も全員が耳を塞ぐ。 大男の最も近くにいた仲間であろう二人の男は泡を吹いて気を失ってしまった。 「くっ…これは…!」 歌々が魔法を展開するべく歌を奏でようとしたが、時はすでに遅かった。 (…何も聞こえなくなってしまった。) 大男の咆哮を聞いた全員の耳が麻痺し、周囲の声どころが自身の発する声すらも聞こえなくなっていた。 「へっ、闇医者に集音機能のある魔石を体内に埋め込んでもらってるんでな。 俺の魔法<咆哮サイレント>の効果範囲は全方位半径5メートルは余裕で超えるぜ。」 自身の声が聞こえないと歌も正常に紡げない。 誰もが魔法を正常に発動できない状態となっていた。 「安心しろ、俺が一定以上離れるか、一定時間経過すれば効果は切れる。 その間に俺は逃げさせてもらうぜ。 …って、聞こえてねえか。」 下品に大口を開けながら大男は反対側の窓から逃げて行った。 (私達姉妹の魔法は戦闘にはあまり向いていないとはいえ、厄介な魔法所持者ね…。神官様に報告しないと…。) 怯えるスタッフを宥めるレイカと、悔しげに地団太を踏む海月を宥める歌々は目を見合わせ、うなずいた。 強盗犯は、残り一人。 …第四話へ続く。

partnerパートナー広告
UTAO
0コメント
ロード中