§幻想舞踏会§ 後日談【三】~第四試合・薄黄蘗の間/有能、だからこそ不憫~
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§幻想舞踏会§ 後日談【三】~第四試合・薄黄蘗の間/有能、だからこそ不憫~
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後日談【三】~第四試合・薄黄蘗の間/有能、だからこそ不憫~
かつて空を浮かんでいた島々が地上に降り立ち、七色ノ宝石に与えられた本来の使命が終わっても部隊の戦いは続いていた。
国を統一するにあたって国の象徴になると決定された七色ノ宝石の稼働エネルギーは、宝石自身が作り出した闘技場ノ間で放たれた魔力を吸収する方法以外なかった為である。
隷属魔法の使い手である光姫や青ノ国の知識、黄ノ国の職人技術を持ってしても稼働エネルギーの転換法を変える事はできなかった。
各国王の協議によって七ノ国として統一されるのは数か月後、試合でいうと二試合分だ。
それまでは国同士の交流戦という形で、部隊は空の上にいた頃と同様に戦うこととなった。
~~~
薄黄蘗の間では、白光天照隊と黄晶麒麟隊が対峙していた。
第一試合の呼び出しがかかる。
黄晶麒麟隊で一番最初にその文字を見たのは、珀斗だった。
「かんちゃ…闘技場の…見て…」
プルプルと震えながら、となりで音ゲーに夢中になっていたキャンへと声をかける。
キャンは言われるがままに空を見上げる。
白光天照隊の試合隊士の名に、光姫の名前があった。
「……(絶句)
…みんな…私の骨は頼んだ…。」
時は数日前に遡る。
いつものように雑談をしていたキャン達は、自然と今回の対戦相手の話題となっていた。
「光姫様とは当たりたくない。」
「骨になる。」
「いや…骨すら残らないかもよ…。消し飛ばされる。」
全員の脳裏には、[魔石ノ意志]討伐時の光姫の魔法が焼き付いている。
死ぬことはないとわかっていても、あの一方的制裁を見ては腰が引けてしまう。
そんな会話をした後の告知だった。
キャンが覚悟を決めて闘技場へと向かって行く。
闘技場では光姫が既にキャンの到着を待っていた。
~~~
試合が開始されると同時にキャンは闘技場内を駆け出す。
そのスピードは目に追えるものではなかった。
光姫も動くことすらない。
ただキャンのいなくなった前方のみを見ていた。
―…踊れ 独りでも
ステージの上 幕上がり
沸くオーディエンス
さあIt's Show Time!
見開いて逸らすな目を
眩しく孤高の新世界(ニューワールド)
歌声と共に地を、壁を、空を駆けて増す速度を殺さぬよう身体を捩じらせ背後から渾身の力で蹴りを放つ。
地盤には亀裂が入り、土煙が立ち上がる。
雷の轟音の様に破壊音が響き渡った。
常人離れした身のこなしで崩れた闘技場内で距離をとる。
土煙が晴れていくと、光の膜につつまれた光姫がその場から一歩も動かずに立っていた。
「キャンさんの蹴りはとてつもない威力ですね…。」
光の膜には亀裂が入っている。
魔力耐性には優れていても物理耐性には限度があるようだ。
光の膜がそこまで傷つくところを隊士達は初めて目の当たりにした。
光姫が静かに歌を口ずさみだす。
―…あなたの夢をあきらめないで
熱く生きる瞳が好きだわ
負けないように悔やまぬように
あなたらしく輝いてね
目視できるほどの輝きを放つ光の球が無数に生まれ、キャンの周囲を覆い尽くす。
「目で追えないなら、動ける場所を埋め尽くして動かないでもらうしかありません。」
そのまま光の球は増え続け、闘技場を埋め尽くした。
キャンの笑顔がひきつる。
「軽く言わないでいただけますか…姫様w」
闘技場を映しだす画面を完全に【白】が覆い尽くした。
宝石が七色に光り、闘技場の上空に文字を映し出す。
第一試合
勝者、
白光天照隊 光姫
~~~
「姫様…骨だけでも残してくれるよね…?」
試合の結果を見届けた珀斗が隣にいる夜蝶へと声をかける。
「骨だけじゃ…いくらかんきゃんでも…w」
腕を組みながら苦虫をかみつぶしたような顔で夜蝶は言葉を詰まらせる。
「…はっ!三つ編みと傘も残してもらわなきゃ!」
「そうだね!姫様なら命だけ持ってくだけで身体は残してくれるかもしれない!!」
「全身残してもらおう!?」
「というか生きて返してもらおうよ!?」
「ボロボロでもかんきゃんならすぐに回復するよね!?」
盛り上がる珀斗と夜蝶の背後から人影が近づく。
「めちゃくちゃ私を残してもらえるかの話をしてるwww
ボロボロでも私はすぐ回復するのさ!!」
そこには、笑いながら傘をさしたキャンがいつものように立っていた。
「かんちゃん!」「かんきゃーん!!」
2人はキャンへと飛び掛かって行く。
キャンの骨も、三つ編みも、傘も、命も、無事だった。
~~~
そこは淡く白い光を放つ城。
1人の使用人がせわしなく動き回る人物へと声をかけた。
「まりー様」
「はい?」
まりーは書類を片手に振り向く。
「光姫様がお呼びになってます。」
「ん、わかりました。すぐ行きます。」
書類を簡単にまとめ上げ、脇に挟むと足早に階段を上がって行く。
近衛兵の立つ入口からさらに奥へと進んでいき、つき当たりの重厚な扉をノックした。
「姫様、まりーです。」
「どうぞ入って~!」
扉の奥から明るい声が響く。
まりーは大きな扉を軽々と開けて入室する。
そこには、光姫が部屋の中央に立ち、黒ノ国のレイカが黙々と採寸していた。
「今ねー、レイカさんに新しい服を仕立ててもらってるんです♪
この間のドレスが本当に美しかったので!」
「あら、まりーさんこんにちは。」
レイカが手を止めて会釈をする。
「レイカさんこんにちは!
姫様、あのドレス気に入ってましたもんねw」
まりーが部屋の隅に飾られているドレスと青い薔薇、そして夜蝶が撮ったボブとの写真が入れられた写真たてをチラリと見る。
「で…姫様、御用件は?」
まりーの問いかけに光姫はにっこりと笑顔をつくる。
「あのねあのね…
…呼んだだけw」
まりーの笑顔がこわばる。
「…こんの…w」
「姫様?そうやってまりーさんで遊んで業務妨害してはダメよ?」
レイカがフォローにまわる。
「そんな!妨害だなんて!
まりーさんの仕事を妨害してたら私の仕事やってもらえないです!
つまりサボれないから邪魔しない!」
「…じゃあ今のは?」
「………。
ささやかなスキンシップ♡」
まりーが笑顔をそのままにこめかみに血管を浮き上がらせる。
「姫様…午後のアフタヌーン・ティーは取り止めです。
その分お仕事しましょう。」
「なっ!?」
「はあ…残念です。
姫様の好きなFortnum&○asonの茶葉とシフォンケーキを用意してたのに…」
「のおおおおお!?」
「姫様動かないでちょうだい。まだ採寸が終わってないわ?
あと、これは自業自得ね…」
レイカはクスクスと笑いながらも手を動かしていく。
光姫は口を開けて愕然としていた。
(まあ…姫様に甘いまりーさんの事だから、きっと何だかんだアフタヌーンティーは行うんでしょうけど。)
まりーがそっぽを向きながらも、部屋を退出せずに持ってきた書類の業務を隅の席で行うその様子をみて、小さく笑みをこぼした。
外では雲一つない空の上で太陽が輝いていた。
………後日談【三】 了
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