§幻想舞踏会§ 後日談【二】~紅色ノ姫君の優雅なる一日~
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後日談【二】~紅色ノ姫君の優雅なる一日~
「ていなん様~?」
窓から火山の見える城の廊下で、ジェイドが扉を叩きながら中にいるであろう人物の名を呼ぶ。
しかし一向に返事は無い。
「…まだ寝てるのかな?」
「あれ?ジェイド様?」
通りがかった林檎が扉の前で首を傾げるジェイドへと声をかける。
「あ、いや…ていなん様を探しているんだけど。」
「ていなん様?朝一に出かけられましたよ?
確か、コクジョーシサツしてくるって…」
「………国情視察?」
ジェイドは林檎の発言を聞くと扉をノックすることなく開け放つ。
その部屋はもぬけの殻だった。
机には昨日依頼をした書類がそのまま残されている。
「…………。」
ジェイドはスタスタと城門へと向かい歩き出す。
「ジェイド様?どちらへ!?」
「ていなん様を回収してきます。」
「…ガンバッテクダサイ」
ジェイドのていなん捜索(日常)が始まった。
~~~
一方ジェイドによる捜索が開始されている事等知る由も無いていなんは、太陽の輝く白ノ国を散策していた。
「ふーん…なんだかザ・A型の国って感じだw」
整然と立ち並ぶ白を基調とした建物の街並みを物珍しく見て回る。
そんなていなんの美貌に、道行く女性は全員恍惚の溜息を漏らしていた。
ふとソワソワと見つめる女性グループと目が合う。
ていなんは、軽く笑うとウインクをひとつ飛ばす。
「「きゃあああああ♡」」
黄色い声が響き渡った。
街並みの向こう側に見える城が目に入る。
(どうしよっかな~…。まりーちゃんに会いに行くなら、光姫への謁見って名目にしないと難しいし…手土産買ってくか…。)
ていなんへと話しかけようかと、ソワソワしている女性グループへと向かって行く。
「ハァイ、可愛い子猫ちゃん達♡
ここら辺で有名な菓子屋さんを知ってたら教えてくれないかな?
君達みたいな御洒落で輝いている女の子にピッタリな…ね♡」
「は…はいっ…♡!!」
「ありがとう、じゃあ君達をそのお店まで僕がエスコートするよ♪」
「「きゃああああ!!!!」」
歯の浮く台詞も美形が語れば様になる。
ていなんは女性に囲まれながら、店へと向かって行った。
~~~
「てぃー様♡御出身はどちらなんです?」
「僕かい?僕は赤ノ国のしがない市民さ♡」
「いつまで白ノ国にいて下さるのティー様?」
「うーん…今日は用事済ませたらすぐに帰っちゃうけどまた来るよ♡」
すっかり女性に囲まれ大人気となっているていなんは、いつも通り身分も名前も(性別も)隠し街中を手土産片手に歩いていた。
「てぃー様のご用事ってなんですの?」
「それはねー……、ん?」
ふと目の端に、見慣れたシルエットが映り視線を向ける。
「…退いて下さい。」
「そんな事言わずにさあ。」
「庇いだてするって事は代わりに君が遊んでくれるんでしょ?」
明らかに柄の悪い男性陣の中心で、1人の女性を背後へ隠すようにまりーが立っていた。
「嫌がる女性を無理やり連れて行くなんてダメですよ。」
まりーが怖気づく様子もなく反論する。
「いやいやw俺達楽しく遊ぼうとしてたのにお姉さんが勘違いしたんじゃないの?」
「そうそう、ていうかお姉さんも一緒に遊ぼう?」
男達の言動に呆れたように溜息をつく。
(脱走した姫様を探しに来ただけなのに、面倒な事になったな…。
この程度、捻り上げる位大したこと無いんだけど。
王宮の制服を着たままだから下手に攻撃(暴力)なんて出来ないし…。
というか私のこの服を見ても突っ掛かってくるってことは、他国の訪問者かな…。)
まりーが困ったように悩んでいると、1人がまりーの腕を掴む。
「さ、一緒に観光し」
「おい」
腹の底から響くような怒気を含んだ声がしたと思うと、まりーを掴んだ男の手が捻り上げられた。
「ぐぁ!?」
「汚い手で触んな。」
先程までの笑顔など消えたていなんがそこにいた。
「僕のまりーちゃんに何してくれてんだ…?
死にたいの…?
お前、その服のブランドからして赤ノ国のもんだろ。
二度と国に帰れないようにしてやるぞ…」
「お…折れ…!」
痛みでろくに声も出せない男へ殺気を諸にぶつける。
他の男達もていなんの気迫に圧倒されたじろいでいた。
そのまま足を払い蹴りし、男性は背中から無防備に地面へと叩きつけられる。
「本当はどっかの青い天然野郎みたいにブッ飛ばしたいけど、白ノ国に迷惑かけらんないからこれ位で勘弁してやる。
僕の気が変わらないうちに消えろ雑魚共が。」
悶絶している1人を抱え、男達は足早に去って行った。
まりーが呆然とていなんを見つめる。
「てぃー様…?なんでここに?」
「…まりーちゃん!!!」
まりーへと飛びつく。
「大丈夫?怪我はない?何かされた?!」
「だ、大丈夫です!大丈夫です!
てぃー様のおかげで何ともありません!!」
先程までの殺気が嘘のように、ていなんはまりーを抱きしめる。
まりーは顔を真っ赤にしながらていなんを宥める。
「なんで白ノ国へ来てるんですか?」
「あ、そうだった。
まりーちゃんに会いたいから今から光姫の謁見と称して城に行こうとしてたんだ。」
手土産を見せながら照れくさそうに笑う。
「えーと…姫様なら現在絶賛脱走中でして…。」
「あ、そうなの?」
ていなんは少し考えると、思い立ったようにまりーの手を引く。
「よし、じゃあ一緒に光姫探そ♪」
「え!?」
「ついでに白ノ国を案内してくれると嬉しいな♡」
「えええ!?でもてぃー様がつまらないんじゃ…」
「…何言ってるの?
まりーちゃんと一緒なら、僕どこでも嬉しいし楽しいんだけど。」
少し膨れたように口をとがらせてまりーを見つめる。
(てぃー様…可愛過ぎる…。)
「………。
じゃ、じゃあ…お願いします…」
「決まりだね♡」
2人は手を繋いだまま、市街地へと向かって行った。
~~~
「はぁ…相変わらず妬けるほどの仲良しだこと…。」
まりーとていなんの仲睦まじい様子を、光姫は屋根の上から頬杖を突きながら見つめる。
足元の路地裏では男達がボロボロの状態で完全にのびていた。
「…今日は、2人に見つからないよう頑張らないといけませんねぇ。」
まりーの嬉しそうな顔を眺めながら面倒臭そうにぼやく。
しかしその顔は笑顔だった。
「今日は2人でデートを楽しんでくださいね。
まりーさん、ていなんさん。」
…この日の夜、白ノ国までていなんが足を延ばしているとは知らず、一日中赤ノ国内を歩き回ったジェイドから、
帰宅してから○時間、ていなんへと説教が降りそそいだのは言うまでもない。
………後日談【二】 了
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