§幻想舞踏会§ IF・Annihilate~散り逝く徒花達・前編~
§幻想舞踏会§
§幻想舞踏会§ IF・Annihilate~散り逝く徒花達・前編~
- 89
- 9
- 0
§幻想舞踏会§
【IF・Annihilate】
(※このストーリーは別分岐のIFストーリーです。
第三十一話の分岐選択にて
【光姫を殺す】
を選択した場合のストーリーとなります。
制限条件として、
①大陸の侵食は停止中・隊士達は島に閉じ込められている。
②光姫の呪いはまだ進行が始まったばかりである。
③天然様はまだ嫉妬している自身にも気づかない無自覚天然であること。
④ミヅキヒメを呼び出すか呼び出さないかで意見分かれが起きていること。
です。)
~散り逝く徒花達・前編~
静まり返った真夜中。
広場北部にある五隊長会合室には、窓から光が漏れていた。
椅子に腰かける人影は4つ。
最奥中央の席のみが空席となっていた。
「…こんな真夜中に呼び出してごめんなさい。」
人影のひとつ。
レイカが3人の隊長達に声をかける。
ていなん、朱、そうまは深刻な面持ちでレイカの言葉を待つ。
「レイカちゃんどうしたの?光姫以外の隊長を呼び出すなんて。」
「………。」
そう、呼び出したのはレイカだった。
眉間に皺を寄せ、皇妃様から受け取った書簡を握りしめる。
「…呼び出したのは他でもない。
白ノ姫様についてよ。」
「…。」
固唾を飲んでレイカの言葉を待つ。
「…私は煉獄の管理者である姫様は、悪ノ王の手先と踏んでいるわ。
理由はいくつかある。
・なぜ今まで煉獄という単語がでておきながら隠したか。それは関係者だということを隠す為。
・姫様はここまで切羽詰った状況でも私達に隠している事がある。それはきっとバレたら都合が悪いから。
・そして子守唄にあった『花嫁』あれは紛れもなく姫様のことよ。
ただでさえ姫様は私達とは比べられない程の力を持っている。
悪ノ王と姫様が一緒になったら…それこそ世界の終りよ。」
「…つまり、姫様は僕達にとっての敵だと…
レイカさんはそう言いたいんですか?」
そうまが震える声で尋ねる。
「ええ、そうよ。」
朱とていなんはうつむき、黙って何かを考えている様子だった。
「みんな…呼び出したのは他でもないわ。
姫様は私達一個人で挑むには戦力差がありすぎる。
全員で…
………。
………姫様を殺しましょう。」
ていなんが目を閉じると、光姫と笑い合うまりーの姿が浮かぶ。
しかしそれ以上に、王である父、城下の街並み、そして自分の隊士達の顔が心を覆った。
(…そう、僕は姫だ。)
「わかった。レイカちゃんの意見に乗るよ。」
暗く低い声でていなんが同意する。
「私も賛成です。宰相として、国の為に動きます。」
朱もそれに続く。
そうまは拳を握りしめ、唇をかみしめていた。
「約束します。ここでの内容は絶対に漏らしません。
だからもう少し…考えさせて下さい。」
そうまの脳裏には、いつか昔に見た眩しくも暖かい笑顔が浮かんでいた。
(僕は…王になる為に………。)
レイカはそうまの様子を横目に、作戦を練る。
「姫様は呪いに蝕まれている。
この機を逃さない訳にはいかないわ。
だけども厄介なのはあの布陣。
私達の部隊と違い、白の部隊は戦闘要員が少ない分サポートに特化している。
…姫様とまりーさんという主戦力を最大に発揮させるために。」
「…攻防回復補佐全てを兼ね備える部隊ですもんね…。
私の部隊は脳筋か変態しかおりません。」
「朱さん意外と言うね…。」
「そう、姫様の防御膜が隊士を守り、隊士は攻撃手を強化及び補佐、万が一は回復し、敵への遠隔操作による妨害も可能。
そして、攻撃手を倒しても後に控える姫様が強大だわ。」
「無敵の布陣とも言えるね…。
到底攻略なんて無理じゃない?」
レイカが首を横に振る。
「いいえ、姫様には唯一の弱点とも言えるものがある。」
「…弱点?」
レイカはこの話を切り出すときに既に決めていた。
心を鬼にすることを。
「…隊士達をまず姫様から引きはがす。
そして、人質にするの。」
「………。」
「…全員を?」
「1人で十分よ。他の隊士は…私に考えがあるわ。
広場に呼び出しさえできれば。」
「…だったら………」
その日、夜が明けるまで五隊長室の明かりが消えることは無かった。
~~~
翌日の夜、光姫を拠点に置いたまま白光天照隊の隊士5名は広場にやってきていた。
「…まりーちゃん、ここで待ってればいいのかな?」
「みたいだね…。」
まりーの手には手紙が握られている。
【 姫様の呪いについて、黒ノ秘術でなんとか緩和できるかもしれない。
ただ内容に問題ありなので、姫様に相談する前に皆の意見が聞きたいの。
姫様以外の隊士は全員、夜噴水前に集まって頂けるかしら?】
確かに他の隊士達も集まっている。
まりーは無意識にていなんの姿を探すが、まだ来ていないようだった。
「どんな内容なんだろう…」
レインが眠たい目を擦りながらぼやく。
その時だった。
突然みー、レイン、夜、シャアの足元に黒いゲートが開く。
そのまま言葉を発する猶予もなく、4人はゲートに飲み込まれていった。
「なっ!?
皆!?!?」
取り残されたまりーはいなくなった全員の足元を叩く。
それは何の替わりもないいつもの舗装された地面だった。
「…こんばんは、まりーさん。」
はいつくばるまりーの元へとレイカが歩み寄る。
「今の魔法は…レイカさんの転送術ですよね…?
皆はいったいどこに…?」
まりーはレイカの異様な雰囲気に警戒しつつ、尋ねる。
「…ちょっと席を外してもらったわ。
………拠点島に。」
四方から攻撃音が鳴り響く。
白ノ拠点島以外で防衛システムが作動し、対象者を殲滅せんと動きだしていた。
「…ま、…まさか…!!!」
助けに行こうと立ち上がり、そこで気付く。
まりーは他の隊士達に囲まれていた。
「悪いけど、まりーさんには人質になって頂くわ。
姫様を殺すのに、貴女の存在が必要不可欠なの。」
「姫様を…殺す……?」
まりーの手に鋭く輝く光の剣が現れる。
怒りに呼応して身体の内から光が漏れ出していた。
「…みんな、皆して…そういうつもりで…!!
私が…大人しく言う通りにすると思うの!?!?」
まりーの高ぶった魔力を抑え込めず、胸元に付いた抑圧珠にヒビが入る。
「まりーさん、出来れば貴女をあまり傷つけずに捕えたいのだけど…そうはいかないようね。
でも残念ながら、貴女の相手は私ではないの。」
「誰でもいい…!!!
姫様にあだなす者は全員私が切り伏せる…」
まりーはレイカの元へと駆け抜け、迷う事無く剣を振り下ろす。
しかしその剣はレイカに届く事は無かった。
突然間を割って入ってきた人影が持つ双剣によって受け止められてしまう。
「まりーちゃん。」
「…てぃー…様…?」
背後から影が落ちる。
気づいたまりーはとっさに飛びのくと、ジェイドの振り下ろされた大剣が広場の地面を抉った。
ていなんがレイカの前に真っ直ぐ立つ。
まりーを見つめる目に、情の光は一切なかった。
ていなんの周りに赤炎鳳凰隊の隊士が集まる。
「まりーちゃんは強いからね。
…僕達が相手だよ。」
(戦闘訓練された赤の騎士団であるジェイド達5人とてぃー様…)
「…本気なのね…。」
「ああ…本気だよ…。」
まりーは小さく笑う。
抑圧珠にさらにヒビが深く入った。
「…姫様に降りかかる火の粉を払うのも、私の役目。」
「僕の業火は焼き尽くすまで消えないよ。」
「姫様は罪人じゃない…ただ、皆が勝手に姫様へ理想を押し付けてるだけで…
…あの方は…、あの子は…、誰かに頼る事を知らない只の寂しがり屋な人間なの…。」
「………。」
「姫様を1人で逝かせたりしない。」
「…かかれ。」
ていなんの合図と共に、赤の隊士達は飛び掛かる。
まりーはそれらをいなし避けると、植林の方へ走った。
「…まりーちゃんの戦い方は東洋の島国に伝わる『忍』と呼ばれるものだ。
死角の多い所で戦うのが得意だよ。
皆気を引き締めて。」
「「「ていなん様のおおせのままに」」」
ていなん達は足早にまりーを追いかけて行った。
~~~
まりーとていなんが植林の方へと消えてから数十分。
破壊音が空に小さくこだましていた。
「………予定より早く気付かれたわね。」
レイカが白ノ拠点島から飛んでくる光に気づく。
光姫が広場中央へと降り立った。
「…レイカさん、これはどういう事?
私の隊士はどこ?」
光姫が挨拶も無く問いかける。
「あら、気が付いたからいらしたのではないの?
お得意の感知能力はどうしたのかしら?」
「………。」
光姫が抑圧珠も外さず、余計な魔力の消費を抑えている事は知っていた。
広場にやってきた理由は、まりーに取り付けた抑圧珠。
取り付けた光姫自身が、破壊された事を感じた為である。
レイカが黙り込む光姫を冷たく見つめる。
そうまとボブは自身の隊士を引き連れ、他の部隊より1歩後ろで眺めていた。
「…そうま…。俺…」
「……ボブ、僕もだよ。」
長年連れ添った幼馴染である2人に、これ以上の言葉は必要なかった。
そうまの握りしめる拳には血が滲んでいた。
「ボブはまりーちゃんをお願いね。」
「…了解した。」
ボブは夜闇に紛れて走り出す。
光姫は襲い掛かる黄晶麒麟隊の隊士達による攻撃を最小限の魔力で防ぎ、避けていた。
その様子にとっさに飛び出しそうになる身体を、さきが後ろから引き留める。
「そうま、今行ってもだめ。」
「さきちゃん…」
「私達の隊長はそうま。私達はそうまに従う。」
先の後ろに控える夢羽、ハンペン、眠井もうなずく。
そうまは歯を食いしばる。
「みんなごめん。僕は…
…僕は、姫様を助けたいよ。」
「まあ勝率は低いけどゼロじゃないっす。無理ゲーを攻略するのが漢ですセンパイ。」
「光姫様の為なら私頑張ります!」
「私は新入りなので正常な判断ができません。故に隊長の意に従います。」
「姫様には魔石に操られた時に助けてもらった借りがあるからね。」
背後から激しい光が広場を照らす。
振り返ると、光姫の目が黄金色に輝き、七色ノ宝石は誤作動を起こしていた。
「出し惜しみしてられませんね…。
申し訳ないけど皆さんの相手は、まりーさんを助けた後です。」
光姫は麒麟隊の攻撃を赤子の手をひねるように払いのけると、破壊音のしなくなった木々の燃え上がる島端へと飛び去って行った。
「大人しく行かせると思うのかしら。」
レイカが先陣を切って走り出す。
黒ノ隊士達もそれに続く。
朱率いる黄ノ隊士達も起き上がり、駆け出そうとすると、地面から巨大なゴーレムが一体、行先を塞ぐように立ちはだかった。
眠井がノートをめくり筆を走らせると、四方を囲むように、ゴーレムがさらに3体増えた。
さきが噴水の水を竜巻の様に撒き起こし、ゴーレムに囲まれた黄ノ隊士達へと落とす。
夢羽がその水を即座に凍らせ、氷柱を作り出した。
「先輩!先に行って下さい!」
「そうま先輩!姫様をお願いします!」
「みんな…」
そうまが躊躇っていると、後ろからさきのとび蹴りが入る。
「さっさと行けっての!ボブにいい所どりされるよ?」
「いた…はは、それは困るね。…ありがとう。」
振り向く事なくレイカ達が消えた方へと走り出す。
その後ろでは、氷が砕け散り、ゴーレムも一体が土くれにと変わっていた。
雷を纏った人影が姿を現す。
「…水と電気って相性悪いんだよな~。」
さきは笑顔を保ちつつも、冷や汗を流した。
…後編へ続く。
コメント
まだコメントがありません