§幻想舞踏会§ 第四十二話~絶対隷属魔法~
§幻想舞踏会§/水樹奈々
§幻想舞踏会§ 第四十二話~絶対隷属魔法~
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§幻想舞踏会§
第四十二話~絶対隷属魔法~
―…今は前だけ見ればいい
信じる事を信じればいい。
愛も絶望も羽になり
不死なる翼へと
~~~
「花嫁…?」
脳内に響く加護の声が途切れる。
まりーは加護が放った最後の言葉をつぶやいた。
そして、何かに気が付いたように顔を上げる。
周囲を見渡すと、光姫が1人橋を歩き、広場へと歩き出していた。
「姫様!!!」
慌てて追いかけようと走り出す。
しかし、橋へと足を踏み込もうとすると、見えない何かにぶつかった。
「!?
なにこれ…!!」
白く光るその膜は、見覚えがあった。
光姫の魔法である。
他の拠点島も例外なく光の膜によって包まれ、
加護の声を聞いて広場へと向かおうとしたていなんやボブも進めずにいた。
「姫様!!待って下さい!!行かないで!!」
まりーは必死に自分を阻む壁を叩きながら叫ぶ。
足を止めて振り返る光姫は、穏やかに笑っていた。
「駄目なんです。
私がこれからやる事は、近くにいる人を巻き込みます。
これが最後のワガママです。
まりーさん…ごめんなさい。
後は頼みました。」
「姫様!!嫌!!お願い行かないで!!!」
まりーがいくら叫ぼうと、もう光姫が振り返る事は無かった。
~~~
―…暗闇の月も星も
孤独を嘆くHory tears
十字架を紡ぎ描こう
共に
輝き尽きるまで
~~~
広場へとたどり着くと、噴水へと向かう。
浄化の為に魔力を加護のある島へと運搬していた水は、その役目を終えた為止まっていた。
真上に視線を移す。
そこにはずっと待ち望んでいた加護が、五色の光をそれぞれ発しながら確かに存在していた。
~~~
―…破壊のセレナーデ
瓦礫の舞台でも
君が歌えば
暁の果てにまた羽ばたけるはず
~~~
「くそ!!!壊れない!!!」
ていなんは光の膜を壊そうと必死に攻撃をしかけるが、全く綻びる様子が無い。
ボブとそうまもありったけの力をぶつけるが、結果は同じだった。
「…広場で何が起きているんだ!!」
~~~
「ついに…この時がきた。」
光姫の身体が淡く光り出す。
そのまま宙へと浮かびあがり、七色ノ宝石と加護の元へ近づく。
「もっと早く行動していれば、
ここでの生活に居心地の良さを感じなければ、
こんなにも沢山の人を傷つける事はなかったかもしれない…
皆さん…甘えてごめんなさい。
弱い私を許して…。」
~~~
―…僕は今でも弱いままで
光の剣を抜けないでいた。
残酷な運命を逃げないで
凛と生きる為に
~~~
光姫の手に光の剣が生み出される。
生み出された剣を七色ノ宝石へとゆっくり刺した。
刺した先から光姫の放つ光が宝石へと移って行く。
(全ての魔法を従える隷属魔法なら、魔法石である加護も私の支配下における筈…)
~~~
「あの光、姫様じゃない!?」
夜蝶が七色の宝石の側で光る小さな光を見つける。
キャンの攻撃すら歯が立たない膜ごしに広場を食い入るように見つめる。
(…まさか…!!!)
~~~
―…いつしか涙は
明日を灯す奇跡の太陽に
~~~
光姫の身体がさらに強く光る。
七色ノ宝石へ光は伝って行き、全てを包み込むと光姫と同様の光を発しだした。
「………。
―…もういこう
護るものがあるから 」
小さく歌を口ずさむと、光姫は真っ直ぐと宝石を見つめた。
「…絶対隷属魔法、発動。
………代償は…、
受け継がれ続けた真名に込められた
全ての光姫の命です!」
~~~
母の最期の言葉が蘇る。
「良く聞きなさい<ミク>。
母の命は尽きますが、消えてなくなるわけではありません。
代々光姫を受け継いだ全ての女性が、その真名と共に命が尽きる時、
次世代の光姫へと命の欠片を委ねてきました。
[自己干渉術]で光を…命の光を蓄えられる私達だけが出来る最後の希望の光です。
その時は近い…
だって貴女は自慢の娘だから。きっと出来るわ。
我らの王に…貴女が全ての光姫の命を使い、終わらせるのです。
そしてこの世界に安寧を…
母はいつも見守っています。」
(お母様………。
残酷な真名だと最初は思いました。
過去の犠牲をため込んでいるのに、<未来(ミク)>だなんて名前…。
でも、なんだか今はその名前も嫌じゃない…)
「…未来。素敵な響きですね。」
大陸全土を照らすほどの光が空を照らした。
隊士達もあまりの眩しさに目を閉じる。
さながら超新星爆発。
誰もが眩しさに目を閉じる中、耳を劈くほどの轟音が鳴る。
状況を理解できずにいる中、今度は突然の浮遊感が隊士達を襲った。
光が弱まる中で、おそるおそる目を開く。
そこには信じられない光景が広がっていた。
橋が途中で途切れ、中央にあったはずの広場が消えていたのである。
目視で確認できるのは光の膜につつまれた五つの拠点島と、その中心に輝く七色ノ宝石だった。
「広場は…どこに!?」
周囲を見渡すと、それ以上の事態に気が付く。
「まって、私達大陸へ落ちていってる!」
「この位置だと、中央の山にぶつかるぞ!」
慌てて眼下を見下ろす。
しかし隊士達は目的の物を見つける事が出来ないでいた。
決して夜闇によって見えないわけではない。
夜をも照らすほどの明るさを放っているこの状況は、大陸を見るには十分の視界だった。
なのに、巨山が見つからない。
レイカはその状況を理解すると、冷や汗が噴き出す。
そして震える声で、つぶやいた。
「まさか…そんな…。
山を…地下深くの魔石ごと…
消し飛ばした………?」
そう先ほどの閃光と轟音は、全ての加護の力を使った巨大な魔導砲だったのだ。
広場上空から放たれた魔導砲は、広場とその真下にあった巨山を消し飛ばしたのである。
五つの島は互いに距離を縮めながら、
大陸の中央部にぽっかりと空いた巨大な穴へと落ちていく。
そして、島と島がぶつかり合い、浮遊感と衝突による衝撃で立つのもままならない。
五つの島は、山があったはずの穴へと落ち、大きな地響きと共に大陸に降り立った。
~~~
「…とまった…?」
静かな夜が戻ってくる。
起き上がり、周囲を見渡し互いの安否を確認し合った。
光の膜はいつの間にか消えさっており、
五つの島は互いに重なり合い、五枚の花弁を持った花のような形で穴を塞いでいた。
上空には七色ノ宝石が五つの加護を従えるように浮いている。
その真下では広場へ続いていたはずの橋が、五本ともぶつかり合い中心で一つに重なっていた。
そして、その橋の上には
瓦礫の中でひとり横たわる光姫がいた。
………つづく。
コラボ曲:pray
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