§幻想舞踏会§ 第三十九話~選ばれた未来~
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第三十九話〜選ばれた未来〜
「皆さん、お話があります。」
突然話を切り出したのは、光姫だった。
広場に集められた隊士達は静まり返る。
「…これ以上、大陸での侵食が広がると手遅れとなります。
そして、もう私には時間がありません。
私が今まで調べてきた情報、
そして
この島で得られた情報、
これによりたどり着いた真実と、私達がとるべき行動について話をさせてください。」
「たどり着いた真実…これからとるべき行動…?」
誰もが固唾を飲み、次の言葉を待つ。
全ての隊士の視線が集まる中、光姫の表情はいつもと違かった。
普段ならばこんな時、「光姫」としての顔を見せる筈だ。
しかし、彼女の表情には「姫」としての作られた顔なんかじゃない、「個」の顔であった。
「私は、ずっと【五つの加護】
を探していました。
ずっと…
ずっと……。
悪ノ王は満月の儀式だけでは抑えることが出来ないらしく、
ある周期で封印に綻びが出ます。
そして、今まさにその周期が来ているのです。
綻びが生じるその時には、
悪ノ王へ【花嫁】を捧げなければならない。
これは祭壇に刻まれた
光姫の宿命でした。」
ボブはその言葉に流れ込んだ記憶を思い返す。
(祭壇…あの時泣いていたのはそれか…)
「…悪ノ王の花嫁。
それはすなわち、
術者の命そのものを代償にした
隷属魔法による封印の強化。
私はどんな人生を歩もうと、
その時が来れば花嫁としてこの世から消えなければならなかったのです。」
花嫁という言葉と共に乾いた笑いが漏れる。
「だけど…私は生きたかった。
普通に生きて、子どもを生んで
『幸せ』を感じたかった…
だから、諦められなかった…。」
自然と視線がボブへと行くが、目は合う事無く通り過ぎる。
誰もが光姫の言葉に、受け入れがたい現実に、言葉を失っていた。
「…だけどもう呪いが発動した今、私には時間が無い。
不確実な選択だろうと動かざるおえないのです。
だから私は賭けたい。
私がたどり着いた真実から導きだした答えに…!
そして…
未来を守ってから死にたいわ。
お願いします。
私の願いを、どうか聞いてください。」
痛々しい笑顔を向けると、光姫はゆっくりとそしてまっすぐと
隊士達へ向けて頭を下げた。
国の頂たる姫が自分の従者へ、一般の学生へ、他国の民へ、頭を下げたのだった。
「…これは首を縦に振りたくないです。」
「…僕も聞きたくないですね…。」
ハンペンの言葉を皮きりに隊士達から声が漏れていく。
足元を見つめ続けていたレインは、光姫へと抱き着くと泣きだした。
「ひめしゃましなないで…っ
消えないで…」
まりーも拳を握りしめ震えている。
「…これではい、というと思うのですか…
私たちが…どれだけ姫様に助けられ、…どれだけ…!!」
しがみつくレインを撫でながら、光姫は笑う。
「私の命は呪いが発動した時点で定められてしまった。
だけど加護さえ見つかれば、未来の光姫は犠牲にならずに済むんです。
せめて皆さんと、この国、そして未来の光姫を守らせて下さい。」
(そう、こんな悲しい連鎖は…私で終わりにする…。)
ボブが一歩前へと出る。
「…願いとはなんですか?俺達は何をすればいいのでしょうか。」
隊士達の視線がボブへと集中する。
「………。
この島は加護を守るための施設なのです。
故に、加護はこの島にあります。
それを…見つけ出すのです。
皆さんも聞いてください。
私達は隊士としてこの島へよばれたのでは無いんです。
私達は加護を守護する者としてこの島に喚ばれた。
私達は隊士じゃない…
神官なのです。
神官は神から授かりし物を守護する者。
私達が過ごしている拠点は
神殿です。
神殿は神を奉る施設…
神とはすなわち…
加護なのです。」
ざわめきが起こる。
「神官…?」
「僕達は隊士じゃないの…?」
そんな中、1人だけ冷静に言葉を続けるのはボブだった。
「…なるほど、分からないところはありますが、今は考察している時間は無さそうですね。
早く見つけ出さねばなりません。光姫様、何か指示はございますか?」
「…話が早くて助かります…。
私から皆さんにお願いしたいことはただひとつ。
明日の夜。
全ての拠点島で、施設を破壊しましょう。
白隊は戦闘に長けた隊士は少ないので、私が抑圧珠を解放します。
他の部隊は元来戦闘向きの魔法の使い手が多数いますので問題ないでしょう。
五つの島で、同時に攻撃開始です。
その後は………。」
言葉を切ると静かに七色ノ宝石を見上げる。
「……。
その後、皆さんは
自分を守ることに集中してください。」
隊士達へ向けられた光姫の視線は、覚悟の光を宿していた。
「この島は
大陸へ落ちます。
落下の衝撃こそは私がなんとかします。
いえ、私しか出来ません。
皆さんは瓦礫や転倒…
もしくは…悪ノ王の攻撃に備えてください。」
夜蝶のペンの動きが止まる。
他の隊士達も突然の発言に驚愕するばかりだった。
「下の国は大丈夫なの…?」
「悪ノ王の攻撃…」
「大丈夫、必ず守ります。
皆さんのことを…
下の国々も…。
悪ノ王の攻撃は、万が一です。
私が…いえ
『七色ノ宝石が失敗したら』
…そのときは、隷属魔法で封印を強化します。」
暁月がおずおずと問いかけてくる。
「…その作戦、姫様が助かる保証はありますか?」
光姫はただただ笑顔を向けるだけだった。
「……ない…のですか?」
全員が黙り込んでしまう。
誰もが反論したい、反対したい、そう考えているが
それ以上に全員は理解していたのだった。
他に手段はないと。
「…光姫様、それは貴方様自身の信念でございますか?」
ボブの口調は冷静だった。
「…ええ、信念です。
ボブさん…やっぱり奇跡なんて願うもんじゃないですね。」
レインの頭をなでながらも、光姫はうつむく。
「奇跡なんて来ない…。
選択肢として示された道から、望まなくとも選ぶしかない。
だとしたら私は、
悔いはなかったと笑顔でいきたい。」
「なぜ奇跡なんて来ないと…
そう言い切ってしまわれるのですか…」
爽も泣きそうな声で尋ねる。
光姫の脳裏に過去の情景が浮かんだ。
(青い薔薇の花言葉は『奇跡』…。
これを付けた時から、私は叶わない願いを望み続けた…。)
「…ずっと願ってたからこそ…かな。」
ボブの拳が固くなる。
「…その信念、光姫としてなのか、真名の姫様としてなのかは聞きません。
ですが一つだけ言わせて下さい…
ふざけないでください。
奇跡なんてものは起こせるんですよ。
俺達が貴方に差し上げます。
貴女が本当に望んだ未来を。」
「………。
ボブさん、貴方はまだ解らないのですか…
そんなでは、そうまさんに王の座をとられてしまいますよ?」
「そんなものはあとから考えればいいのです。
今俺は、姫様をお救いすることしか考えておりませんので、
それが王に向かないなど関係ない。
自分の信念を貫きます。
これは『君主学を学ぶ生徒』としてではない、
『俺自身』の望みです。」
(そしていつか、貴女自身の望みを聞けることを願っております…)
光姫は、ため息をひとつつくと隊士達を見渡す。
「…明日の支度もあります。
もう帰りましょう。
では皆さん
同意して頂けたと考えて良いですね。
明日の夜が私達…いえ
この大陸の未来を決めます。
準備は怠らないでください。」
誰しもが心で願った。
(最後まで、希望は捨てない。姫様をお守りする。…絶対。)
(僕は信じ、願い。
そして待ち続ける。
この島において誰一人と欠けることなく
またあの、最高だった日々が再び来ることを…
奇跡よ…起こってくれ)
(姫様は絶対に生きなきゃいけないんだ…
私になにができる…)
(なんで姫様が…絶対に死なせない
なにがあっても…でもわたしになにができるんだろう?
なにか…なにかできることでも)
(奇跡は起こるものじゃない…起こすものなんだ…)
明日、全てに決着がつく。
………つづく。
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