§幻想舞踏会§ 第十九話~魔石の残滓・後編~
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第十九話~魔石の残滓・後編~
朱は雷の轟く自身の島を見つめながら、朝光姫より語られた予想を思い返していた。
―…いいですか皆さん。
まず始めに、私の部隊のシャアさんは
確実に魔石によって操られています。
彼女は物質干渉の魔法に特化しています。
大方、全身を包むキグルミに
魔力干渉を施し、
魔石の気配を隠していることでしょう。
(姫様はカンが良いお方…。ほぼ確実に予想は当たる…)
―…そして、魔石に操られた人達は
今夜必ず動くでしょう。
私が青の拠点島に入った事で、
部外者も侵入できる手段を
<学習>したからです。
黄の拠点島には十中八九
シャアさんが
お見えになると思いますよ♡
…え?何故ってそりゃあ…
良く言うではありませんか!
「類は友を呼ぶ」って…
考え込む朱の背後で、こちらへと向かってくる足音に気が付く。
振り返ると目の前でシャアが爪をまさに振り下ろそうとしていた。
「…なるほど類友とはそういう事ね。」
「変態という表現は止めない?欲に従順なだけよ。」
金属がぶつかりあう摩擦音が周囲に響く。
シャアの爪は朱に届くことなく、金槌を持った環と雪季の腕によって防がれていた。
「ああ…黄ノ国が変態枠になってしまう…」
朱は悲壮感を漂わせながらため息をつくと、歌を歌い始める。
シャアは朱が歌いだすと同時に、危険を察知したのか後方へ飛びのき、逃走を図ろうとする。
「いんや、逃がさないよ。」
環も朱の歌に輪唱を重ねる。
そして腕力へと魔法を集中させると、雪季の首根っこを片手で掴み、シャアのいる方へと全力で投げつけた。
「ぐるりーん!?またそんな扱いして!!!!」
雪季は叫びながらもシャアの元へ一直線に飛んで行く。
そのまま雪季はシャアへ抱き着いた。
その場に転がるシャアは必死にもがくが一向に雪季を振りほどけない。
「うふふ…変態のしつこさは折り紙つきだよ♡しゃーちゃん♡」
そんな不気味な笑顔の背後から朱が飛び出してきた。
「しゃーさんちょっとシビれるけど我慢してね。」
朱の手から放たれた雷がシャア(と雪季)を包みこむ。
魔石のオーラは胸元から霧散し、シャアはそのまま眠りについた。
「あかるん…、私もしびれた…。」
「あ、ごめん。」
~~~
「…わーお。美人な子猫ちゃんが、さらに美しく見える三条件がまさに揃ってるね!」
ていなんは黒蝶相手にいつもと変わらず甘い言葉を連ねようとする。
黒蝶はていなんの言葉に反応することもなく、傘を片手に持ち替え、開いた手を振り下ろす。
すると、空を舞っていた傘たちは閉じ切っ先をていなんへと向け、一直線に降りそそいできた。
―…操られている人達は、
魔石の影響もあり
少なからず強化されているはずです。
お気を付け下さいね。
「まったく光姫も心配性だよな。美しい花に棘があることくらい僕でも知ってるさ。」
ていなんは全くその場から全く動いていない。
にもかかわらず、全ての傘が切断され、燃え上がり落ちて行った。
「ていなん様に仇を成す人は…」
「たとえ女性であろうと見知った方であろうと」
「容赦しないんだからね!」
ジェイドが林檎と暁月を引き連れ駆けつけていた。
黒蝶が壊れた傘を一瞥し、さらに手を影へとかざす。
すると月明かりによってできた様々な影から新たに傘がうまれ出てきた。
「わー凄い!」
「暁月ちゃん、危ないから集中!」
「僕が正面を担います。お二人はそれぞれ左右を。」
「「了解」」
ジェイドは両手剣、林檎はレイピア、暁月は片手剣を構え、歌を奏でる。
そして、同時に飛び出し、傘を次々と破壊していく。
しかしジェイド達の炎によってできた影さえも黒蝶の操作領域となり、次々と傘がうまれていき3人へ襲い掛かる。
黒蝶はさらに片手をかざし、操作量を増幅させようとしたその時、
「ハロー♡」
黒蝶の手は後ろから添えられた手によって、制止させられた。
「黒蝶ちゃん、今度はしっかりと目が覚めてる時に会いに来てね♡
僕、女の子だったら、誰でも歓迎だから♡」
そう言い終わると、ていなんは黒蝶の耳元でささやくように歌で語りかける。
黒蝶の胸元で真っ赤な炎が燃え上がった。
そのまま崩れ落ちる黒蝶をていなんは優しく抱きかかえる。
同時に、傘は全て地面に落ち、近くの影へと溶け込んでいった。
「ジェイドさん…ていなん様はいつの間にあっちへ移動を…?」
「…いや、僕もまったく気が付いてなかったですよ…。」
抱きかかえられた黒蝶は、髪一本燃えることなく、ていなんの腕の中で静かに眠っていた。
~~~
「光姫様は類は友を呼ぶって言ったけど…どうやら私にも当てはまったみたいね。」
レイカは身体をそのままに、背後より攻撃を仕掛けてきた相手へと語りかける。
その人影から繰り出された踵落としは無数の糸によって阻まれ、レイカの頭上数センチで止まっていた。
「私は魔法の系統から夜が一番力を発揮できるの。
…日の光が苦手な貴女もそうでしょう?
……キャンさん。」
キャンは返事をすることなく足への力を入れ続ける。
「む、無駄ですよ…!」
糸の張りが一層きつくなる。
キャンが糸の出所へと視線を向けると、そこにはなるせが毅然と立っていた。
「オーナーには指一本触れさせません。」
「なるせ、この場合は足一本かしら。」
キャンは糸を足場にして後方へ宙返りすると、2人の周囲を駆け回る。
そのスピードは目で追えるものではなかった。
「なるせ、<糸>は私が貸してあげるわ。」
「了解です。」
レイカとなるせは同時に歌いだす。
歌のリズムに乗って、レイカの影が無数の糸になり噴水周囲の様々な方へと飛んで行った。
なるせは糸の先を追うように周囲に影でできた針を飛ばす。
そして、糸を手繰り寄せ、一気に引いた。
「…! かかりました。」
その声と同時にキャンが姿を現す、蜘蛛の糸のように張り巡らされた糸に、キャンは絡まり動けずにいた。
「…私の糸が何本か切れているわね。なんて力なのかしら。」
「糸を固定する為に縫い付けたはずの針も何本か抜けています。」
レイカはキャンの方へと歩いて行く。
キャンは抜けようと必死だが、もがけばもがくほど糸は絡み合っていく。
「悪いけど、私は黒蝶を迎えに行かなきゃいけないの。あまりお相手できなくてごめんなさいね。」
そう言って、レイカはキャンに絡まる糸の内の一本を握ると一気に引き抜く。
空中に固定されていた針が背中よりキャンの胸元を貫いた。
キャンは衝撃にのけぞり、頭がガクンと落ちる。
そしてしばらくすると寝息が聞こえてきた。
「オーナー、キャンさんはどうします?」
「黄ノ拠点島の入り口に朱さんがいるはずだから、届けてきて?
私は黒蝶を探してくるわ。」
「え…え!?私ひとりで!ちょちょ…オーナー!?」
なるせが騒ぐのも構わず、レイカはスタスタと黒蝶の消えて行った方へと向かった。
~~~
白の拠点島入り口では、まりーとみーが攻撃体制の爽と対峙していた。
「みぃちゃん、ここは私が何とかするから逃げて。」
「無理だよ!まりちゃんだってまだ回復しきってないのに!」
「誰でもいいから助けを呼んできてほしいの。
お願い…!」
「…でも…!」
まりーの顔色はあきらかに悪い。
しかし回復魔法を連日使用していたみーも魔力はほとんど残っていなかった。
爽は無慈悲に炎によってつくられたトマホークを投げてきた。
「くっ…!」
まりーが迎撃態勢を整えようとしたその時、
真横から竜巻が巻き起こり、爽のトマホークを吹き飛ばした。
「え…」
まりーとみーは状況が理解できず茫然とする。
「…これくらいの恩返しはさせてもらいますね。」
「恩返しでなくとも女を守るのは男の義務だろう、そうま。」
風に乗って、そうまとボブがまりー達の前に現れた。
「なん…で…。」
まりーが理解できないとばかりに2人へ問いかける。
「姫様から頼まれたんですよ。
白の拠点にいる可愛い隊士達を守ってほしいって。」
「俺はそうまだけじゃ心配だったから付いてきた。
それに何もしないで後悔は…」
「ちょっとボブ!邪魔!」
「ぐほぁっ」
ボブがしゃべっている最中に、上からさきが降ってきた。
ボブは見事に踏みつぶされ、地面に伸びる。
「さきちゃん、ボブじゃなかったら死んでるよ…。」
「着地地点にいるボブが悪い。他の人だったら避けてたよ☆」
「さきさんまで…。」
まりーは二日前の夜を思い出し、身体をこわばらせる。
「まりーさん、一昨日は本当ごめんなさい。夜さんも…。
あとでちゃんと事情も話すし、この事態が落ち着いたらもう一度ちゃんと謝らせてほしいです。
そして…また、仲良くしてください。」
さきは恥ずかしそうに、うつむきながらもしっかりと話す。
「お前…踏みつぶした俺にも謝罪しろ…!」
「まだ新作のドーナツを買ってくれないボブが悪い。」
「俺への扱いが辛辣なんだよお前!」
「ふーんだ。私だって怒ってるんだからね。この前変な花粉まき散らして被害被った事も含めて!」
爽は突然の援軍に顔色ひとつ変えず、新たなトマホークを生み出していた。
「で、どうする?この状況。」
2人の会話を遮ってそうまが問いかける。
「え、簡単でしょ。」
さきはあっけからんと答えたと思うと、爽の足元から大量の水が噴き出した。
「相手は炎、だとしたらあたしの独壇場だよ。」
濡れた事により炎が上手く操れなくなった爽は、冷静に状況を分析し夜闇に紛れる。
「なるほど…そのまま逃げるも良し、夜闇に紛れて不意打ちもよし、ってところかな…」
「それなら問題ない。俺に任せろそうま。」
ボブは地面に手をつき歌を口ずさむ。
するとものの数秒である方角の植物が爽へと絡みついた。
「植物は嘘をつかないからな。居場所なんてすぐわかるさ。」
植物に拘束されている爽へとそうまは歩み寄る。
「ごめんね。姫様みたいにうまくいくかわからないけど…。」
そうまは風を球体のように操作し、爽の胸元へと押し当てた。
すると風と共に魔石のオーラは霧散した。
そうはそのまま寝息を立て始める。
こうして、全ての隊士は魔石から解放されたのであった。
~~~
夜が明け、全ての隊士が広場に集まる。
操られていた隊士は全員断片的に記憶が残っているらしく、方々へ頭を下げっぱなしだった。
しかし4人の隊長の顔色は良くない。
「これで終わり…かしら…。」
「…。」
朱は何とはなしに、宝石を見上げ…そして、目を見開いた。
「ぁ…、あ…アレ…」
言葉にならない声と共に指を差す。
他の隊士も後を追うように視線をあげると、
そこには、光姫が予想する<最悪の事態>がまさに体現しようとしていた。
―…最悪のケースは…
<魔石に意志がある>ことです。
作られていようが自然に生み出されていようが
意志があれば<学習>し<応用>をするでしょう。
各隊士に分散して戦闘経験を積んだ<意志>が
もし全て、自分自身への
<勉強>としての行動だったなら…
………本当に恐ろしいのは、
すべての隊士が無事解放された後。
<魔石の意志>が行動を起こす時です。
空には、粉々に砕けたはずの煉獄の魔石がひとつ
大きく鼓動を刻んでいた。
…続く。
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