nana

走れiメロiス⑥
16
6
コメント数0
0

「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」暴君は落着いて呟つぶやき、ほっと溜息ためいきをついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」 「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはメロスが嘲笑した。「罪の無い人を殺して、何が平和だ。」 「だまれ、下賤(げせん)の者。」王は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、磔(はりつけ)になってから、泣いて詫わびたって聞かぬぞ。」

0コメント
ロード中