§幻想舞踏会§ 第四話~青ノ国の首席~
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§幻想舞踏会§ 第四話~青ノ国の首席~
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第四話~青ノ国の首席~
青の国は、他国とは少し違った国であった。
この大陸に存在する国のほとんどが、【王】と名のつく最高権力者による君主制である。
また王は古来より血統にこだわり、実子の世襲を重んじた。
しかし青の国だけは違った。
百数十年前に大陸全土で歴史に残る程の大規模な流行病が発生した。
感染の爆発的拡大を確認した時には大陸のすべての国で死者が多数出ており、即座に白の国は
流行病に効く薬を研究・量産、そして無償で大陸全土へ薬を配布したのである。
しかし、青の国は白の国から最も遠くに位置しており、迅速な配布にも関わらず時間を要して
しまった。
また、当時の王家は先代が高齢により王位継承を行ったばかりの若き王と妃で子はまだおらず、
先代の王は老体が病に耐えられず急逝、
また王と妃は、
「自分達よりも先に、未来ある子ども達へ優先的に薬を配布するのだ。」
と、自分達の服用を後回しにしてしまった為
薬の配給が間に合わず、その後息を引き取った。
王家の血筋がこれにより途絶えてしまったのである。
そして、青の国は亡くなった王家の替わりとして、
青の国民は国民投票により10年毎に王を国民から選出し、国の統治を行っていた。
その制度は百年以上の時を超え、改良されていき
国王の選挙対象者は
【国立大学にて一定以上の成績をとり】
【大学講習内必修科目である「君主学」による適正審査にてA評価以上を獲得すること】
が立候補又は推薦相手としての国王の選挙対象者になる為の必須条件となった。
そんな歴史を背景に、青の国は現在まで国を維持してきた。
青の国内は自然があふれていた。
風が常に流れ、四季が安定している為、作物が大変豊かに実る国であった。
それにより農業・畜産業が盛んに行われ、植物学・生物学の最先端を行く国であった。
国の主要機関は、国内の中でも比較的作物の育成が難しい土地にまとめて作られた為に密集し
ており、正当なる王家一族であり流行病で亡くなった最後の王の名をとり、『都市マルク』と呼ばれていた。
そんな都市マルクから少し離れた場所に、半円状のドームが1つ、その隣に他の建物とは風貌
の異なる施設が建っていた。
そこは青の国唯一の【国立大学】である。
青の国は風が強い。
そんな風に負けてしまう程の繊細な植物は、大学付属の巨大温室内で研究調査も兼ねて育成・
管理がされていた。
そんな温室内に響き渡った、青の国での物語が始まりを告げる音は…
…罵声だった。
~~~
「そうま!ボブ!どこだ?いるんだろ!?」
荒々しい歩調で温室内を歩く一人の男性は声を荒げて人探しをしていた。
(まったくこんな時になんで…)
声をあげながら広い温室内を歩いていると、
『…ん?ボブ、なんだか僕たちを呼んでる声が聞こえるよ。』
「みたいだな。」
そんな会話が聞こえたと思うと、男性の頭上からガサガサと音がした。
音のする方へ男性が顔を上げると
温室に生えている巨木の上で学生服を身に纏った二人の男性がのんびりとくつろいでいた。
『あ、先生。こんにちは!』
「先生、今は講義中では?」
2人は手をヒラヒラと振って挨拶をした。
先生と呼ばれた男性はわなわなとしている。
「…これが今年の首席コンビとは思いたくない…。」
ため息交じりに、落胆する先生を2人はきょとんと見つめいてた。
そうまと呼ばれる学生は『生物総合学科』の首席
ボブと呼ばれる学生は『自然魔法化学科』の首席
であり、共に『君主学』による国王適正審査でS評価をだす学内で最も有名な2人だった。
ボブは紙とペンを走らせる手をとめ、そうまに投げ渡す。
「中間テスト自己採点終わり、またお前の方が若干点数高かった…。」
『やった!また僕の勝ちだね。じゃ、エスプレッソ一杯オゴリな?』
「どうも文学系のテストは苦手だ…いつも足を引っ張る。」
『ボブ、本を読むと良いよ。君は趣味趣向が偏りすぎてるんだ。
この間僕が読んだ本を貸すよ!
愛次から借りたんだけど、すっごく良かったよ。』
「ん、じゃあ借りる。」
「お前たち…堂々と講習をサボったあげく、先生を目の前に無視して雑談とは相当怒られたいらしいな…」
先生は拳を握っているのを見て、二人は木から飛び降りてきた。
『まあまあ、先生。僕たちは自分で育てた温室の植物たちの様子が気になって気になって授業どころじゃなかったんですよ!』
「そうです先生。嘘も方便です。」
『アハハ、ボブそれは素直に言ったらダメなやつだよ。』
先生はあきらめたように深いため息をついた。
頭をガシガシとかきながら、一呼吸おく。
「…まあいい、どのみち講義は中止だ。
学園長からお前たち2人に呼集がかかってる。
どうやら先日の隊士の選出の案件の様だ。すぐに行け。」
『父さんが…?』
~~~
流れるような美しい木目を走らせた、両開きの扉の前に立ち
そうまがノックを2回する。
扉の上には【学園長室】と書かれていた。
「どうぞ。」
扉の向こうから声がして、扉を開いて2人は入室すると
琥珀に光る机に肘をついて、ドッシリと座る男性が1人いた。
そうまの父親であり、現学園長だ。
『父さん、ボブも連れて来たよ。』
「…またサボってたらしいな。」
窓から差し込む逆光により学園長の顔は見えない。
『温室の植物たちに異変がないか調べてて、休憩してたらいつの間にか講習が始まっちゃったんだ。
途中入室して他の真面目な生徒の皆さんに迷惑かけちゃいけないと思ってね☆』
「そうまの言い訳もたいがい苦しいぞ。」
ボブが溜息をつく。
学園長はポツリとつぶやいた。
「……んて…。」
『ん?』
「学園長なんと?」
「なんて優しい子なんだ!さすが私の息子だ。」
学園長はワシャワシャと2人の頭を撫でた。
『僕も純粋な父さんが大好きだよ☆』
「こわ…。」
一息つくと、学園長の表情は真面目なものに変わった。
「2人を呼んだのは他でもない、先日の飛行物体の件だ。」
『…。』
「先日、白の国と黒の国が選ばれし六名を選出し、彼の島へ招かれたと情報が入った。
多分赤の国も参戦だろう。
そこで、青の国からは国内唯一のこの国立大学から隊士を選出することになった。
もう察していると思うが、隊長をそうま、副隊長としてボブ、君達2人を任命したい。」
『…そんなことだろうと思って、覚悟してきたから大丈夫だよ父さん。』
そうまは笑顔で答えた。
ボブも悟ったようにまっすぐ学園長を見つめる。
「国王の直轄部隊とし、隊の名は【青風八咫烏隊】と決まった。
残りの隊士の任命権は隊長であるそうまに与える。
…頼んだぞ。」
『わかりました。
…じゃ、さっそく見繕ってくるね父さん!』
そういうといつもと変わらない歩調で、2人は学園長室を後にした。
~~~
「そうま、宛てはあるの?」
『もっちろん』
2人がまず足を運んだのは、【図書室】だった。
『おーい、愛次いるー?』
「お~。いるぞ~。」
本棚の奥から気の抜けたような声が聞こえてきた。
声のする方へ向かうと、パタンと本を閉じる音と共に、机に山積みになった本の隙間から、手がヒラヒラと振られてきた。
『まーたこんなに散らかして。』
「あとでまとめて片付ける予定なの。」
「片付け下手な人の常套句だよソレ。」
愛次は図書室に入り浸っている学生で、『民俗学』の生徒だ。
『ところで、愛次お前新作を書くインスピレーションがほしいって言ってたよね。』
「そうなんだよな、最近新しい刺激がないせいかスランプで。」
作家希望の愛次は小説を書いては出版社に持って行っている。
しかし、最近の上手く行ってないのは日ごろから聞いていた。
『ちょっと付いてきてよ。いいネタがあるかもよ?』
「お、マジ?行く」
即答だった。
そうとうスランプという泥沼にハマっているらしい。
2人は3人に増え、次の場所へ向かった。
~~~
次に向かったのは、そうまの在籍する教室だった。
教室に入ると、窓際に1人机に突っ伏して寝ている女生徒がいた。
「おい、さき起きろ。」
ボブがペシペシと頭を叩く。
「…ふぇ?」
さきと呼ばれた彼女は目をこすりながらノソノソ起き上がった。
スポーツ特待で入学した彼女は、睡眠学習(常に寝ている)で有名だった。
「あれ~、ボブくんにそうまくん、愛次くんじゃん…。
ふぁ…どうしたの?」
「ちょっと一緒にこい。」
「え~…」
「ここにお前の好きなマカr
「行く!ほしい!」
「そうま、釣れたよ。次行こう。」
『ハハハ、相変わらず仲良いね。』
こうして3人は4人になった。
~~~
次にたどり着いた、先の扉を開けようとして
そうまとボブは、止まった。
『愛次、ちょっとこのドア開けて?僕じゃ重くて開けらんないわ。』
「はぁ?ボブ、君があければいいじゃん…」
「ちょっと今両手が忙しいんだ。」
そう言って手を後ろに隠すボブは明らかに視線をそらしてきた。
愛次はそうまの方を見るとそうまは既にドアから2・3m離れていた。
「なんだ?おかしなやつらだな…」
そう言って、ドアに手を掛け普通に開けた。
「別に全然重くないぞ?一体なにが…
そう言った瞬間、開けた扉のどこかでカチっと何かが動く音がした。
そのまま連結するようにドアの向こうから摩擦音、落下音が聞こえてくる。
そして2秒立たないうちに、天井に張り付けられていたサンドバックが入り口に向かって、振り子のように質量を持って迫ってきた。
愛次はそうまの方を見ていたせいでその存在に気づかず、
「…一体なにがあるってぃ(ドゴン)ぐえぁ」
鈍い音と共に、吹っ飛んだ。
「お~…愛次くん、アーメンっ」
さきはマカロンをほうばりながら、吹っ飛んでいく愛次を見送った。
「ふむふむ…今の物質エネルギーだと無防備の人間はこれだけ飛ぶ…と」
メモにペンを走らせながら、女性が1人室内から出てきた。
『玲華、それ愛次じゃなかったら死んでるよ…』
「そう?人間って意外と丈夫なのよ?」
玲華と呼ばれる彼女は人体構造等を学ぶ『人間学科』の生徒である。
「ああ、もっと色んなデータが欲しいわ…
特に普段見れないような魔力の強い人達の人体構造!
未知の魔法は人間の本質をみつめ、解明することでわかると思うの!」
『そんな玲華に美味しい話持ってきたよ。他の国の強い人達が見れる話があるんだけど。』
「…それは本当?見返りは?」
『勝負に勝ってくれればいい。』
玲華はメモとペンをポケットに入れてニヤリと笑う。
「…データをとる為なら、なんだってするわよ。」
不敵な笑みと共に、床に伸びている愛次の襟首をつかみ引きずり歩き出す。
4人は5人(内1人瀕死)となった。
~~~
5人は食堂へ向かった。
沢山の学生で賑わう食堂の一角で、ワイワイと騒ぐ男子グループがいた。
そうまは、ズンズンとグループの方へ進んでいくと
おもむろにその人混みの中に手を突っ込んだ。
その途端に
「ぐえ」
と声がなる。
そのまま腕を引き上げると男子生徒が1人現れた。
「ちょ…誰…って、先輩?!」
『や、ハンペンくん。ちょっと一緒にいこ☆』
「え、今オンラインのバトルがいいとこ…ろ…」
『ハンペンくん、この間宿題見てあげたよね?
おこづかい厳しい時に助けてあげたよね?
部活の備品が足りなくて困ったときも…』
そうまは満面の笑みを向ける。
「…ハイ、センパイのオノゾミとアラバ…ドコヘデモ…ツイテイキマス…」
「いやー優しい後輩を持ったな~♪」
そのまま引きずられるように、ハンペンは食堂を後にした。
ついに、5人は6人(内1名瀕死・1名強制連行)となった。
~~~
『父さん、集めたよ。』
「おお…ご苦労。ふむ。各学科の成績優秀者の面々ではないか。
まあ申し分ないだろう。」
『…ではこれで【青風八咫烏隊】を結成するよ。』
ボブ以外の全員が頭上に「?」の一文字を浮かべた瞬間だった。
窓から突如光が差込み、六人の身体を包みだした。
「え?え?なになに!?どういうこと!?」
「お、おい!そうま!気が付いたら学園長室だし、なんか光凄いし…なんだこれ!」
「先輩!?これってまさか…!」
『さあ諸君、僕と一緒にあの天空の島へ行こう!』
「「「「ええええええ!?」」」」
そんな叫びと共に、六人の姿は解けてゆき、やがて見えなくなった。
「…もしかして、何の事情も説明せずに集めたのか…?」
学園長は、あっけにとられていた。
そしてゆっくりと椅子に掛け直す。
「八咫烏は神の使徒。
そのお導きで人々は正しき道を歩める。
追い風の如く、青の国を背負いし若者たちに、
どうか勝利へのお導きを…」
窓の外では、一陣の風が学園の芝生を撫でていた。
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